第5話
改札を出て連絡先を交換した。先輩は満足そうに笑うと僕に手を振って曲がり角で姿を消した。
通知に新しい友人と先輩の名前が表示されている。その画面を何度か見返した。将来有望な人が関わるような人間ではないのにどうして僕の連絡先を知りたかったのかよくわからない。先輩と別れた後の通学路は赤く染まって薄暗かった。
その日の夜お風呂から上がり部屋に戻るとメッセージが届いていた。
こんばんは。森田美桜です。
改めてお礼を言わせてください。
封筒拾ってくれて本当にありがとう。
すぐに連絡来るとは思わなかった。先輩からメッセージになんて返すべきか数分指が止まる。悩んでいたが、あまり間を開けるのは失礼なのでとりあえず返事を返した。
こんばんは。水瀬です。
たまたま拾っただけで自分は感謝される
ことしてないです。
あまり上手く返せていない気がする。自分で送って少し恥ずかしくなる。話したいけど何を話せばいいのかわからない。すぐにスマホの画面を消して机に置いた。少し経ってたから通知がくる僕の心臓の動きが速くなっているのが身体全体で分かる。
世界は些細なきっかけで大きく変わる。
あなたのおかげで私の将来は大きく動いた。
だから本当にありがとう。
僕の些細な行動にこんなに感謝してくれる人がいる。しかもそれがあの先輩だ。それだけで少し救われるような気持ちになる。ベッドに入っても脈の動きが響いてポカポカした。口元がゆるゆるな自分を隠すように布団に潜り丸まって寝た。
そこから一日に数回メッセージをやり取りすることになり、時に生徒会や様々な活動の誘いを受けることもあった。気が引けて丁重に誘いを断り続けた。せっかくの誘いを無礼に拒否する後輩に呆れてしまったのか、だんだんと連絡頻度は減っていく。繋がりがある日プツンと切れてしまいそうで自分に何度も自業自得と言い聞かせていた。
連絡が途絶えた1週間の夜先輩から連絡が来た。
君を連れて行きたいところがあるの。
今度の日曜日空いてる?
久しぶりの先輩からのメッセージに一瞬嬉しさが込み上げてくるが不安が覆い被さってくる。何がこれから始まるのか何故が怖くなった。
すみません。せっかくの誘い本当に嬉しいのですが、先輩のお時間を奪ってしまうのは申し訳ないでお断りさせてください。
僕はこれ以上変わることを望んでいない。先輩に何か求められても応えられない。始めから何も持っていないのだから。これで関係が終わってしまってもそれでいい。
そう覚悟しているとすぐに返事が来た。
君はわたしの話を馬鹿にしないで聞いてくれた。そんな優しい君の行動や言葉でわたしの世界は明るくなってる。何かお礼がしたい。そんなに重々しく考えないでほしい。
今度の日曜日の10時に最寄り駅の前で待ってるから。
ここまで拒んでも先輩は僕に手を差し伸べる。
日曜日、10時、駅の前。女の人と待ち合わせをしたのは初めてだった。
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