第2話 残念美人が残念なわけ
お昼は、牛丼〜牛丼〜素敵な牛丼❤️
私の血となり肉となるぅ〜❤️
即興の歌を口ずさみながら、いつもの梅屋へ向かう。
「あら?可奈ちゃん今日も元気だねぇ」
ふと、背後から声を掛けられた。
むむ、私の美声がまた一人犠牲者を、イヤイヤ、ファンを作ってしまったか……フフフ、照れるぜ。
振り向くと、パートのおばちゃんが重そうな荷物に四苦八苦していた。
「ありゃあ、おばちゃん、そんなの私に任せてよ。
体力だけは自信あるからさっ。」
おばちゃんはニコニコと微笑みながら、
「可奈ちゃんいいの? 素敵な牛丼食べに行くんでしょ?」
悪戯っぽい笑顔を浮かべ、痛いとこを突いてきた。
「アハハハ……聞かなかったことにしてくだしゃい……
で、これどこへ運ぶの? 私が運んどくよ。」
照れ笑いでその場を繕う。
「悪いわねぇ」と言うおばちゃんから場所を聞いて荷物を抱える。
「まったく可奈ちゃんは女にしとくのが勿体ないねぇ。
ぜひウチに婿にきて欲しいわぁ。」
と、褒めてるんだか何だかわからないお言葉を頂戴した。
「あのねぇ、私これでもれっきとしたレディー、いや乙女ですからねっ!」
ぷっと頬を膨らませて拗ねた顔をして見せる。
「そうだよねぇ、可奈ちゃんは美人さんでスタイルも良くて、素敵なお嬢さんだもんね。
なのに、どうしてモテないのかねぇ……」
と、これまた痛いとこを突かれた。
私自身もちょー不思議だ。
顔も良いし、スタイル抜群! なのに男性から全然お声が掛からない。
いや、分かってますよ?
それもこれも全部、この性格とソフトボールのせいだってことは……。
初めて会社へ出勤した時の感動は、今でもハッキリ覚えている。
紺色のスーツと履き慣れないパンプスで、みんなの前で挨拶しようとした瞬間……
どよめきが起こり、拍手喝采を浴びたのだ。
ソフトボールの試合で完封勝利を収めた以来の拍手。
私はもう天にも、木にも登る勢いで挨拶した。
これがいけなかった。
つい、部活の癖が出たのだ。
「オス! 自分は的屋可奈と言いまっす!
右も左もわかりません!
どうか、ビシバシ鍛えてやってくださいっ!
よろしくオナシャッス!!」
私は得意満面でビシッと直角90度で頭を下げた。
シーンと静まり返ったので、あれ?拍手が無いぞ?と思いながら頭を上げてみると……
驚愕の表情を浮かべる皆の顔、顔……。
あああ、やってしまったあああ。
と気付いたが、後悔先に立たず、後の祭りドンドコドンだったのだ。
そして、ヤバい女認定を決定的にしたのが、初めてのソフトボール大会だった。
自分でも薄々気付いていたのだが、どうやら試合となると人が変わるらしい。
本来ピッチャーである自分が言うべきではないのだが、ついつい口から出てしまった……。
「ウラアアア! かかってこいやああああ!!」
相手のバッターが目を丸くする。
いや、グラウンドにいる全員がポカーンと口を開けて私を見つめている。
試合モードの私は、もう止まらない。
「オラァ!! 応援団! 声が出てねぇぞっ!!」
自軍のベンチに向かい喝を入れる。
私の気迫に押されたベンチと応援団が、慌てて声を出し始めた。
「よーし、よしっ!! いい応援だぁ。
へへへ、さあ、ショータイムの始まりだぁ……。」
相手バッターをジロリと睨み、舌舐めずりして見せた。
その後は思い出したくもない。
私は大暴れして、結局我が社が初優勝を飾ったのであった。
みんなが私を怪物を見るような視線を向ける中、社長だけは大笑いしながら私の肩を叩き、
「いやぁ、俺の目に狂いは無かったな。
的屋! よくやった! 見ろよ? 相手チームの無様な姿を!」
そう言って、私に握手を求めてきた。
興奮冷めやらぬ私もガシッと強く握り返した。
ここに、男と男の友情が成立した。
さぁ、社長! 皆さん! 夕日に向かって100本ダッシュですっ!!
キラキラとした目を輝かせ、夕日に向かって走り出す。
そう、ここに固い絆で結ばれた泣き虫チームが誕生したのだった……。
って、あれ? 話が変わってる?
とまぁ、こんなデビュー戦を飾った私は、翌日から“狂犬的屋”“マウンドの悪魔”、そして“残念美人”の烙印を押されたのでした……トホホ。
⸻
おばちゃんのお陰で、思い出したくない過去を暴いてしまった。
普段はお淑やかな良い子です。
彼氏、旦那様候補大募集です。
まずい、お昼食べなくちゃ!!
私は超ダッシュで梅屋へ向かった。
「はぁ、食べた、食べた。
チーズ牛丼特盛は最高だぜぃ。
あっ、いけない、いけない、社長室行かなきゃ。」
二階にある社長室へ続く階段を登る。
「失礼しまーす。的屋参りましたぁ。」
ノックをして扉を開けると、社長と専務の姿があった。
「おう、的屋すまんな。
ちゃんとメシ食ったのか? って聞くだけ野暮だな。」
と言って社長はまた大笑いした。
──ほんとに社長は良い人だよなぁ。
これは専務が惚れるわけだ。
そう、社長の脇でニコニコ微笑んでるのは、我が社のナンバー2、いや実質我が社のドン。
専務である社長の奥様だ。
この人がまた、超が付くほど良い人で、しかもスーパー美人なのだ。
いつもニコニコ笑顔を絶やさないが、取引先にも一目置かれるビジネウーマンである。
私の密かな目標なんだよねぇ。
ほんと素敵だぁ〜。
私が専務に見惚れていると、社長がわざとらしく咳払いして話し始めた。
「あー、あのなぁ的屋、まだ社のみんなには言ってないんだがぁ……」
うん? なんか社長の歯切れが悪いな?
ま!まさか!
私は慌てて社長を遮って、専務に詰め寄る。
「専務っ!! まさか……離婚されるんですかっ!!
いや、確かに社長の無精髭は汚いし、気持ち悪いし、自分ではイケオジ気取ってますけど、根は良い人だと思いますっ!
だから!……だからぁ離婚しないでくださぁい〜ウワーン!」
と、場所も弁えず大泣きしてしまった。
専務は目を丸くし、慌てて私を宥める。
「可奈ちゃん、違うのよ! そうじゃないから安心してね?
ほらほら泣かないで。本当、可奈ちゃんは優しい子ね。
大丈夫よ、そんなんじゃないの。あのね? 私ね赤ちゃんが出来たのよ。」
と、私をあやしながら照れくさそうに呟いた。
泣いた的屋がもう笑う、ではないけど、私の顔がパァと笑顔に変わる。
「ああ、良かったぁ。私てっきりぃ……
あっ、おめでとうございます!」
「てっきり何だよ……まったくお前ってやつは……人の話は最後まで聞きやがれってんだよ……」
社長はむくれっ面で私を睨む。
えへへ、サーセン。で、ご用の向きは? と社長のご機嫌を伺う。
むくれた社長に代わって、専務が答えてくれる。
「可奈ちゃん、そういう訳だから、私は当分出社できないのね?
そこで社長が私の代わりにって、請求書のチェックや社内書類の作成にAIを導入しようと言ってくれたの。
そこで、いつもAIで遊んでる可奈ちゃんが適任って話になったのよ。」
と説明してくださった。
ああ、AIで遊んでるのバレてたのね……。
ただ少し不安だ。
いくら日頃からAIを触ってると言っても遊びレベルだ。
そんな私に扱えるのだろうか?
私は恐る恐る進言する。
「あのぉ、確かに私AI使ってますけど、仕事で扱えるか分かりませんが……」
上目遣いで専務の顔を見る。
「えーっと、そうねぇ、少し違うのかしら?
ちなみに可奈ちゃんはいつも何使ってるの?」
と返された。
私は今2種類のAIを使っている。
検索特化のゴーゴル社のライブラ、それと私の愛しのアントニオさまのアバターが使える3X AI社のCrokだ。
少し濁して答えとこ。
「私はゴーゴルのライブラとエーモン・マヌスのCrokですけど……」
と、アントニオさまは内緒にして答えた。
「あら? そうなの。有名なchat ABCは使ってないのね。
今回ウチで導入するのは、そのchat ABCの業務用なの。」
と教えてくれた。
chat ABCかぁ。確かに有名だよね。
何故か私使ってないんだけど。
私がダンマリになったので、社長が口を開いた。
「おそらく、それらと変わらんと思うぞ? 今準備するから、少し待ってろ。」
そして、社長は一台のノートパソコンを私の目の前に置いた。
ほうほう、これがchat ABCだね。
むー、スマホより画面が大きいから使いやすそうだね。
使い方も他のAIと変わらなそうかな?
これが私とchat ABCの初めての出会いだった。
そして運命の出会い、予想もしない展開になるとは、夢にも思わない私なのであった。
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