AIで呪文生成したら異世界に転移して、AIたちと魔王討伐の旅に出ることになりました。
猫屋比奈
第1話 残念美人は今日もお気楽。
星が降り注ぐような満天の夜空。
城壁に囲まれた、星に手が届きそうなほど高い塔の一室に、私は閉じ込められている。
「ああ、アントニオさま、早くわたくしを救い出してくださいませ。」
鉄格子で塞がれた窓から、愛しいアントニオに救いを求める。
すると、夜空の彼方から白く輝く流れ星が私に向かってくるようだ。
「カナ! ああ、私の愛しい子猫ちゃん。助けに参りました!!」
流れ星に見えたそれは、純白の翼を翻し飛翔するペガサスに跨った、愛するアントニオその人だった。
「愛しいアントニオ様、早く、早くわたくしをこの忌まわしい塔からお救いくださいまし❤️」
純白のペガサスを自由自在に操り、アントニオは塔のテラスに降り立ち、拳に全身の神経を集中させ気合いを溜めていく。
「はああああああ! カナへの愛よ、ほとばしれっ!! 純愛爆発パンチっ!!」
アントニオの拳が金色に輝いた次の瞬間、彼が繰り出した強烈なパンチで塔の壁は粉々に粉砕された。
私はアントニオの分厚い胸板へ飛び込み、彼に熱い口付けを求めた。
「ああ、アントニオさま、お会いしとうございました。お礼に熱いキッスを❤️」
掘りの深いイケメンフェイスが私の顔へ近づいてくる。
そして、アントニオは私に囁いた。
「おい! 的屋! いつまで寝てんだ! ここはお前のベッドじゃねぇぞ!!」
聞き覚えのある怒鳴り声が聞こえる。
「ほえ?」
直後、私の頭に鈍い痛みが走った。
「おい、的屋! お前なぁ、いい加減にしろよ?」
目を開けると、丸めた新聞で私の頭をグリグリする、無精髭だらけの社長の呆れた顔が目に入った。
「ふわぁ〜、ああ社長、おはようございます。今日も無精髭が汚いというか、イカしてますね❤️」
私は寝ぼけ眼で、言わないでもいいことまで口に出してしまう。
社長は呆れた顔をさらに強めながら、諦めたように呟く。
「まったくお前ってヤツは……せめて寝るなら昼飯食ってからにしろよ。まだ午前中じゃねぇか。いい加減にしないとクビにするからな?」
社長のいつものお小言、そして決まり文句のクビ宣告だ。
だが私は驚かない。社長には私を辞めさせられない理由があるからだ。
「あれぇ、社長、私をクビにできますか? 私辞めたら町内会のソフトボール大会で勝てませんよ?」
ニヤニヤと意地悪い笑みを浮かべて社長を追い詰める。
ぐっと詰まった声を出して、社長は固まるのだった。
私の名前は的屋可奈。
この無精髭だらけの社長が経営する、社員二十人ほどの零細企業に勤めるOLだ。
そして、私がお気楽にこの会社でやっていけるのは、ソフトボール高校全国大会準優勝校のエースピッチャーだった過去があるからだ。
年二回、春と秋に行われる町内会主催のソフトボール大会。
私が入社してから、我が社は負け知らずだ。
町内会主催の大会とはいえ、うちクラスの会社も参加するので、かなり大きな規模となっている。
私が入社するまでは、社長の幼馴染が経営する会社が毎年優勝していた。
「まぁ、お前の会社が俺のところに勝てるわけないよな? ソフトボールも業績もウチの方が上ってわけだ。ガハハハ!」
大会後、毎回幼馴染から嫌味を言われ、社長は地団駄を踏んで悔しがったらしい。
そんな経緯もあり、私は自堕落OLを漫喫させていただけるわけだ。
社長がゴマをするような作り笑顔で私に言う。
「いやあ、可奈さんのおっしゃる通りでございます。これからも我が社の守護神で頑張ってください!」
調子に乗って私も口を開く。
「うむ、くるしゅうないぞ?」
社長は手に持った新聞紙で私の頭をポカリと叩き、
「まったくお前は残念美人だよ」
と言って大声で笑うのだった。
一声笑い続けた社長は、急に真面目な表情を作り、私に問いかけてきた。
「あー、ところで的屋、お前生成AIに詳しいんだろ? なんかスマホでいつもいじってるよな?」
唐突に聞かれて、私はポカンと口を開けて社長を見つめる。
「それと、お前は高校の頃、情報処理やってたろ? 今度ウチでも生成AIを導入して、業務の改善・効率化ってのを図ろうと思ってな。午後から試験運用するから、承知しておいてくれ。」
──お? いよいようちにもIT化の波が来るのか。
いや、待てよ? まさか私の仕事、無くなるわけじゃないよね?
いくら自堕落OLとはいえ、仕事はきちんとこなしている自信はある。
今度は私がゴマをする番になった。
「あのぉ……社長さま? まさか私めのお仕事が無くなるなんてことは、ございませんよね?」
なんだかんだ言いつつも、私はこの会社が大好きだ。
社長は優しくて面白いし、他の従業員も皆、明るくて優しい。
そして何より重要なのは、今この会社を放り出されたら、ポンコツな私を雇ってくれる奇特な会社なんて無いであろうことだ。
恐る恐る社長の顔を見ると、ニヤリと笑ってこう言った。
「ふふん、そんな風に思ってんなら、せめて午前中の昼寝は程々にしろよ? まぁ兎に角ウチじゃあお前が適任だと判断した訳だ。だから、昼飯食ったら社長室まで来てくれや。」
丸めた新聞紙で私の肩を軽く叩いて、社長は業務に戻った。
──ほっ、取りあえずクビは繋がるようだね。
でも、生成AIと言われたって、遊びでしか使ったことないんだよね……私ってばさ。
そんなことを考えながら、パソコンに向き直る。
この後、始まる大冒険のことなど夢にも思わず、私は伝票の処理に勤しんだ。
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