本を買った時レジの人がその本の作者である可能性について

黒河あこ@少年と竜神1~3巻発売中

第1話 本を買ったらレジの人がその本の作者である可能性について

 タイトルのままですが、本を買ったらレジの人がその本の作者である可能性があるよ。


 突然ですが、私自身の話から入ります。


 私は長年ゲーム会社でキャラデザやらなんやらでイラストとCGを担当していましたが、もっと自分の時間が欲しくなって地元へ帰り、イラストのお仕事なんかを続けながら、書店でも働いておりました。


 誤解なきように言っておきますと、私の務めていたゲーム会社は自分の担当箇所さえ終わっていたら定時に帰っても文句を言われないし、私が5年連続有給を使い切ってベガス通いをしても許してくれる大変ホワイトな会社でした。


 ただ都内への通勤圏内とはいえ、片道2時間半かけて毎日始発に乗って出勤する生活に疲れ果ててしまっただけなのです。

 そんなに通勤に時間を奪われていたら、自分の時間がなくなるのもまあ妥当。当然の結果でしょう。

 とっとと引っ越せよという声が聞こえてきそうですが、本当にそう思います。

 貯金もしたいし海外旅行も行きたかったので、節約していたんですよね。

 そんなわけで、とにかく始発電車の座席争奪戦に疲れてしまって地元に帰ったのです。

 私は若かったのでやれましたが、同じ路線に乗って今日も戦い続けている熟年の通勤戦士の方々を本当に尊敬します。


 さて、そんなおり「小説家になろう」で連載していた小説が青天の霹靂的な展開で書籍化していただけることになり、あれよあれよという間に本が発売されたわけですが(このことについてはあとで別に書きます)私は相変わらずしれっと書店でも働き続けておりました。

 当然のように私の職場にも私の書いた本が入荷してきて、しかもあろうことか10冊も入ってきてしまい、絶対売れ残ると焦った私は自分の本を自分で一冊買うという、切なくも健気な行動に出たわけですが、まあそれは良いのです。


 本が発売になって数ヶ月、私の本は私の見ていない間にじわりじわりと売れて行き、本当に売れているのか、あの本の作者が私だと知っている書籍担当のオタク仲間の同僚が、私に同情してこっそり少しずつ買ってくれているのではないか、あるいは密かに一冊ずつ返本しているのではないかと疑ったりもしましたが、しつこく平置き陳列していただいているせいか、POSを見ると確かにじわじわ売れている。

 書籍担当のオタク仲間は無実どころか、私の本を永遠に平置きしてくれる大恩人でありました。


 発売から半年ほど経過したある日、私の本の在庫は残り2冊ほど、私はその日レジ担当で、すいている時間帯だったため、ブックカバー折りなどして閉店時間までのんびりすごしておりました。


 そうしたらばですね、予想もしていなかったのですが、お客さんがですね、レジに持ってきたんですよね、私の本を。

 えっ買うつもりなの? その本を?

 だいぶ動揺しました。


 いや本屋なんだし予想できるだろとお思いでしょうが、店内に何千何万とある本を日々売っていて、自分がレジ打ってる時にお客さんが私の書いた小説を買おうとしてくれるなんて、マジで、まったく考えていなかったんですよ。


 それでお客さんが持ってきてくれた本の作者であるところの私はどうしたかというと、心のなかでは色々と葛藤していましたが、表面上は平静を装って接客しました。

 そういう状況でどう対応するか、シミュレーションしておくべきでしたが、呆れたことに本当になんにも考えていなかったんですね。

 動揺で若干ぎこちなく、心のなかで一万回お礼をいいながら、普段よりも少しだけ丁寧に、通常の接客をしました。


 このことを誰かに話すと、名乗ればよかったのに~と結構言われるのですが、もし自分が本を買った時、レジの人が

「その本の作者、私なんですよね」

 なんて言ってきた場合、反応に超困るじゃないですか。

 本当かどうかもわからないし、なにいってんだこいつ的に警戒されて、次回以降その人のレジに行くのも気まずいかもしれない。

 ついでに私自身も、もし名乗り出たとしてそのあとどう続けていいかわからない。

 もしも、

「ええー本当ですか?! すごいですね~」

 などと褒めてもらえたとしても、えへへ、と笑うぐらいしか出来ない。


 そんなわけで、若干挙動不審のレジ店員として普通に対応しました。

 いやー緊張しましたね。

 あのとき私の本を買ってくれたお姉さん、ありがとうございました。

 レジの人は作者でした。


 そんなわけで、皆様も、本を買う時、レジの人がその本の作者である可能性はゼロではない、という事実を知っておいていただきたく、書いてみました。



 次回は

「第2話 外国人が、何年も前に発行された二次創作同人誌のストーリーについて熱く語ってくれたが、その本の作者は実は私だ」

 です。

 日本人同士でもびっくりするのに、世界が狭すぎた事件です。

 自分の二次創作本が知らぬ間に海を渡っていたというだけでも驚愕ですね。

 というか、いまこの数行でほとんど内容を書いてしまいましたが。



 


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