即応機動連隊と、小規模な諸兵科連合部隊の価値について。

 ・即応機動連隊

 ここまでずっとロシア軍と大隊戦術群について話してきましたが、ここからは即応機動連隊についての話をしようと思います。


 即応機動連隊とは、「島嶼戦」と「機動運用」の二つのために編制された部隊です。


 自衛隊は過去に実戦を経験していないため、大隊戦術群のように何か特定の実戦経験を受けて編制された部隊というのは、ほとんど存在していません。


 よって即応機動連隊も、何か特定の戦訓を受けたというよりは、自衛隊の軍事研究の結果として、こういった編制が有効であると判断された部隊だと思われます。


 現在、陸上自衛隊は、これまでの地域防衛を重視する方針を改めて、部隊の機動的な運用に力を入れています。


 具体例としては、自衛隊の師団(旅団)を地域配備師団(旅団)と機動師団(旅団)に分けたこと、陸上総隊と統合作戦司令部の設置により指揮能力を強化したこと、水陸機動団、特殊作戦群、中央即応連隊など、機動力の高い部隊を新設したことなどが挙げられます。


 これらの改革に当たって、地域配備師団には偵察部隊を改変した偵察戦闘大隊が、機動師団には、今回話題にする即応機動連隊が、それぞれ編成されました。


 即応機動連隊は元から存在していた普通科連隊(自衛隊においては600〜800名ほど)を基幹として編成された部隊であり、本部管理中隊(支援部隊主体の通常の隷下部隊に加えて、高射小隊や狙撃班等が配備されている)、三個普通科中隊、火力支援中隊、機動戦闘車隊(二個機動戦闘車中隊)という編制になっています。


 名称は◯◯即応機動連隊となっており、この◯◯に入る数字は、基幹となった普通科連隊のものを受け継いでいるようです。


 人数という意味での規模は、一般の普通科連隊と同程度です。

 また、自衛隊の連隊は規模が小さいため、即応機動連隊もその人数は大隊戦術群より小さくなっています。ただその差は、概ね同じような規模だと言って差し支えない程度です。


 装備としては、通常の普通科連隊に配備される小銃やトラック、迫撃砲等に加え、96式装輪装甲車(装甲兵員輸送車)、93式近距離地対空誘導弾、中距離多目的誘導弾、自走迫撃砲、16式機動戦闘車(装輪戦車)などが配備されています。


 この装備についても、大隊戦術群と類似しています。


 さらに即応機動連隊は大隊戦術群と同じ機械化部隊であり、隷下の全部隊が機械化(高射部隊等は自動車化のみ)されています。


 大隊戦術群と即応機動連隊は、編制から装備、規模まで、ありとあらゆる点で類似しているのです。


 運用としては、主に空輸や海路による機動展開を想定しており、即応機動連隊の兵器は装甲車両も含め、全てC-2輸送機で輸送できる重量になっています。

 離島警備隊など現地に駐屯している部隊(場合によっては先に上陸した水陸機動団)に合流して、自衛隊の主力が到着するまでの時間を稼ぐというのが、おそらく彼らの遂行する主な戦術です。


 ただ空自のC-2輸送機の保有数の関係で、即応機動連隊の全部隊を空路で一気に輸送することは難しくなっています。

 ですが、自衛隊の海上輸送群や海自の輸送船、民間の船舶等を使えば、海路であれば即応機動連隊の全部隊を一気に島嶼部へ投入することができるでしょう。


 また、機械化された強力な小規模部隊を用意することにより、自衛隊が抱える人手不足を解消したいという思惑もあると思います。

 輸送コストの小さい小規模な部隊を、その高い戦略機動力を活かして敵の主力が展開するより先に迅速に展開することができれば、たとえ小規模つまり少人数の部隊でも、敵に対し数的優位を確立できる可能性が高いからです。



 このように、基本的な編制がウクライナで大失敗をした大隊戦術群と似ている即応機動連隊ですが、私は、この部隊は日本の環境においては有効に活用されると考えています。


 まず大隊戦術群は非正規戦の遂行を主眼に置いた部隊です。そのため正規戦には弱く、実際ウクライナでも上手く機能しませんでした。

 ですが即応機動連隊は、どちらかと言えば正規戦の遂行を主眼に置いています。


 日本は島国であり、そもそも大陸国家とは想定している戦場がかなり違うのです。


 島の取り合いである島嶼戦には、大規模な部隊よりむしろ小規模な部隊の方が生きます。

 間に海がある以上、輸送力は陸続きの場合に比べて大幅に制限されるため、空路や海路で容易に運べる小規模な諸兵科連合部隊が力を発揮するのです。





 ・小規模な諸兵科連合部隊の価値

 ここからは大隊戦術群と即応機動連隊という二つの視点から、小規模な諸兵科連合部隊のメリットとデメリットを見ていきます。


 まずデメリットとしては、やはり戦力が分散されてしまうと言う点が挙げられます。戦争においては戦力の集中が大きな力を発揮するので、その集中が失われてしまうと言うのはデメリットでしょう。

 また、有効な運用のために優秀な指揮官と下士官を多く確保する必要があり、その編制に練度の高い志願兵が必要になると言う点も、デメリットとして挙げられると思います。


 メリットとしては、輸送コストが小さいと言う点が挙げられます。輸送コストが小さければ敵が展開するより先に部隊を展開することができ、戦闘の主導権を握れます。

 さらに、優秀な指揮官と下士官を確保できるのであれば、大規模な師団や旅団を新設するより小さなコストで編制できるというのもメリットです。


 そもそも軍隊というのは歩兵や砲兵、戦車兵などが連合することで力を発揮するものなので、同規模の部隊であれば諸兵科連合の方が強いです。

 なので、必ずしも師団級の火力を必要としない、あるいは師団級の部隊が展開できない地域においては、小規模な諸兵科連合部隊が大きな力を発揮するでしょう。


 しかし、ロシア軍の猛攻から最終的にキーウを守ったのがドローンでも特殊部隊でも小規模な諸兵科連合部隊でもなく二個砲兵旅団であるという事実が示すように、最終的には物量と火力がものを言うことが多いです。


 結局は適材適所こそが重要なのです。



 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。



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即応機動連隊は機能するのか? 〜大隊戦術群で見る小規模な諸兵科連合部隊の利点と欠点〜 曇空 鈍縒 @sora2021

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