オリジナル楽曲への挑戦
選曲会議から一週間が経った放課後、軽音楽部は三曲の練習に励んでいた。
「『翼をください』、今日はかなり良かったね」 花音が満足そうに言った。 「翔太くんのギターも安定してきた」
「ありがとうございます」 翔太は嬉しそうに頷いた。毎日の練習で、確実に上達しているのが自分でも分かった。
「『糸』も形になってきましたね」 美月がピアノの蓋を閉じながら言った。 「ハーモニーがとても美しく響いています」
「『青春』はもう少し練習が必要ですが」 蓮が冷静に分析した。 「全体的にレベルアップしていると思います」
その時、田中先生が部室に入ってきた。いつもより表情が真剣だった。
「みんな、お疲れさま」 田中先生が椅子に座った。 「今日は重要な話がある」
五人は緊張した面持ちで先生を見つめた。
「実は、生徒会から連絡があった」 田中先生が説明し始めた。 「文化祭の演奏時間が、予定より短縮されることになった」
「短縮?」 花音が困惑した。
「20分の予定だったが、15分に変更だ」 田中先生が申し訳なさそうに言った。 「参加団体が予想以上に多くて」
翔太は落胆した。せっかく三曲の練習を頑張ってきたのに。
「それじゃあ、一曲減らすんですか?」 太一が聞いた。
「それも一つの方法だが……」 田中先生が提案した。 「俺はもう一つのアイデアがある」
「どんな?」 美月が興味深そうに聞いた。
「オリジナル楽曲を作ってみないか?」
部室に静寂が訪れた。オリジナル楽曲。五人にとって、それは想像もしていなかった提案だった。
「オリジナル……」 翔太が呟いた。
「ああ」 田中先生が熱く語り始めた。 「既存の楽曲をカバーするのもいいが、お前たちだけの音楽を作れたら最高だ」
「でも、作曲なんて……」 花音が不安そうに言った。
「美月がいるじゃないか」 田中先生が美月を見た。 「音楽理論もしっかりしているし、ピアノも弾ける」
美月は戸惑った表情を見せた。
「私、作曲の経験はほとんどありません」 美月が正直に言った。 「音楽大学受験用の和声課題くらいで……」
「それで十分だ」 田中先生が励ました。 「クラシックの基礎があれば、ポップスの作曲も可能だ」
蓮が冷静に分析した。
「確かにオリジナル楽曲なら、他の団体との差別化ができますね」 蓮が賛成した。 「審査員にも強い印象を与えられるかもしれません」
「でも」 翔太が不安を口にした。 「僕たちに本当にできるんでしょうか」
「やってみなければ分からない」 田中先生が断言した。 「失敗を恐れていたら、何も始まらない」
美月が考え込んでいた。
「先生」 美月が口を開いた。 「もしオリジナル楽曲を作るなら、どんなテーマがいいでしょうか」
「それはお前たちで決めろ」 田中先生が微笑んだ。 「お前たちが一番歌いたいこと、伝えたいことは何だ?」
五人は顔を見合わせた。
「青春?」 太一が提案した。
「友情とか?」 花音が続けた。
「音楽の素晴らしさ」 美月が加えた。
「みんなで一つのものを作り上げる喜び」 翔太が思いを込めて言った。
蓮が黒板に立った。
「整理してみましょう」 蓮がみんなの意見を書き出した。 「青春、友情、音楽、絆、夢、挑戦……」
「どれも素敵なテーマですね」 美月が感心した。
「でも、一つに絞らなくてもいいんじゃない?」 花音が提案した。 「全部を含んだ歌詞にできない?」
「なるほど」 翔太が頷いた。 「僕たちの体験そのものを歌にするんですね」
「それだ!」 田中先生が手を叩いた。 「お前たちが軽音楽部で経験したことを音楽にするんだ」
美月の目が輝いた。
「素晴らしいアイデアです」 美月が興奮した。 「私たちだけにしか作れない歌ですね」
「じゃあ、具体的にはどうやって作るの?」 太一が実用的な質問をした。
「まず作詞だな」 田中先生が説明した。 「歌詞ができたら、それに合わせてメロディを作る」
「作詞……」 花音が考え込んだ。 「私、文章書くの苦手なんだよね」
「大丈夫」 翔太が励ました。 「みんなで一緒に作ればいい」
「そうね」 花音が明るくなった。 「みんなのアイデアを持ち寄って」
「それじゃあ、今度の土曜日に集まって作詞会議をしよう」 田中先生が提案した。
「はい」 みんなが一斉に答えた。
その週の土曜日、五人は近くのファミリーレストランに集まった。部室とは違う環境で、リラックスして話し合えると思ったからだ。
「それじゃあ、始めましょうか」 美月がノートを開いた。
「まず、私たちの体験を整理してみない?」 花音が提案した。 「軽音楽部に入ってから今まで」
翔太が思い出を語り始めた。
「僕は最初、美月さんのピアノを聞いて感動して」 翔太が振り返った。 「それで軽音楽部に入った」
「私は翔太くんの音楽への純粋な気持ちに心を動かされました」 美月が続けた。
「俺は翔太に誘われて、なんとなく」 太一が苦笑いした。 「でも今は本当に音楽が楽しい」
「私は軽音楽部を設立したけど」 花音が思い出した。 「みんなに会えて本当に良かった」
「僕は最初、一人で音楽をやっていました」 蓮が静かに語った。 「でもバンドの素晴らしさを知りました」
美月がそれらの体験をノートに書き留めていく。
「出会い、音楽への憧れ、仲間との絆、成長……」 美月が整理した。 「これらをどうやって歌詞にしましょうか」
「ストーリー仕立てにするのはどう?」 翔太が提案した。 「僕たちの軌跡を順番に歌にする」
「いいアイデアです」 蓮が賛成した。 「A面で出会いと始まり、B面で成長と友情、サビで未来への想い」
花音がペンを取った。
「じゃあ、私が下書きしてみる」 花音が書き始めた。
最初の歌詞が少しずつ形になっていく。
「♪ 桜舞う春の日に 君のピアノに出会った」 花音が読み上げた。
「いいですね」 美月が感動した。 「まさに私たちの始まりです」
「続きは?」 太一が興味深そうに聞いた。
「♪ 心震える音色に 導かれるままに」 花音が続けた。
翔太は自分たちの体験が歌詞になっていく過程に感動していた。
三時間ほどかけて、歌詞の大枠が完成した。
「『青春メロディ』ってタイトルはどう?」 花音が提案した。
「素敵です」 美月が即座に賛成した。
「俺たちらしいタイトルだね」 太一も賛成した。
歌詞が完成すると、次は美月の作曲作業が始まった。
「どんなメロディがいいでしょうか」 美月が歌詞を見ながら考えた。
「明るくて、前向きな感じ」 花音が希望した。
「でも、しっとりした部分もほしいな」 翔太が加えた。
美月がピアノで実際にメロディを試してみる。
「♪ 桜舞う春の日に 君のピアノに出会った〜」 美月が歌いながら弾いた。
「わあ、素敵」 花音が感激した。
「美月さん、すごいです」 翔太も感動した。
「まだ仮のメロディですけど」 美月が謙遜した。 「もっと練って、みんなが歌いやすいようにアレンジします」
一週間後、美月が完成版を持ってきた。
「できました」 美月が楽譜を配った。 「『青春メロディ』完成版です」
翔太たちは初めて自分たちのオリジナル楽曲の楽譜を手にした。
「すげー、俺たちの歌だ」 太一が興奮した。
「歌ってみましょうか」 花音が提案した。
美月がピアノで伴奏を始めると、花音が歌い始めた。
「♪ 桜舞う春の日に 君のピアノに出会った 心震える音色に 導かれるままに」
翔太は鳥肌が立った。自分たちの体験が、美しい音楽になっている。
「♪ 五つの心が一つになって 響け青春メロディ 未来へと続く この歌声を 永遠に奏でよう」
サビの部分で、翔太は涙が出そうになった。これは確実に自分たちだけの音楽だった。
演奏が終わった時、部室には感動的な静寂が流れた。
「すごい……」 翔太が呟いた。 「本当に僕たちの歌ができた」
「美月ちゃん、ありがとう」 花音が美月を抱きしめた。
「私も皆さんのおかげです」 美月が涙を拭いた。
田中先生も満足そうに頷いていた。
「素晴らしい楽曲だ」 田中先生が褒めた。 「これなら文化祭で胸を張って演奏できる」
「でも」 蓮が冷静に指摘した。 「まだ楽器のアレンジが必要ですね」
「そうですね」 美月が同意した。 「ギター、ベース、ドラムのパートを作らないと」
翔太も責任を感じた。
「僕も何かお手伝いできることがあれば」 翔太が申し出た。
「翔太くんには」 美月が微笑んだ。 「ギターソロの部分を任せたいと思っています」
「え? 僕がソロを?」 翔太が驚いた。
「はい」 美月が確信を込めて言った。 「翔太くんの素朴で温かいギターの音色が、この曲には一番合うと思います」
翔太は感動していた。まだまだ下手くそな自分に、そんな重要な役割を任せてもらえるなんて。
「頑張ります」 翔太が決意を込めて言った。
「みんなで頑張りましょう」 花音が明るく言った。
その日から、軽音楽部は『青春メロディ』の完成に向けて、今まで以上に熱心に練習に取り組むことになった。
既存の楽曲とは違う、自分たちだけの音楽。それは彼らにとって、新たな挑戦の始まりだった。
「俺たちのバンド名も決めようぜ」 太一が突然提案した。 「オリジナル曲があるなら、バンド名も必要でしょ」
「そうですね」 美月が同意した。 「どんな名前がいいでしょうか」
「『ハーモニー・ハーツ』はどう?」 花音が提案した。 「心の調和って意味で」
「いいですね」 翔太が賛成した。 「僕たちらしい名前です」
「決まりだな」 田中先生が満足そうに頷いた。 「『ハーモニー・ハーツ』、いい響きだ」
翔太たちは顔を見合わせて笑った。
軽音楽部から「ハーモニー・ハーツ」へ。
彼らの音楽への挑戦は、新たな段階に入ろうとしていた。
青春メロディック・ライフ 第1巻 Novaria @novaria
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