第17話馬車で甘く、核と誓い
王都の玉座の間での緊迫したやり取りが終わり、陛下の視線が逸れた瞬間、フィオナは小さく肩を震わせた。
胸の奥に残る緊張と、安堵が交錯して、思わず手を握りしめる。
「……これで、無事に済んだのでしょうか……」
彼女の声は小さく、震えていた。玉座の間の煌びやかさも、今は遠く、心の中でエドガーの姿だけが浮かぶ。
「よくやった、フィオナ」
エドガーの低く落ち着いた声が心に響き、肩の震えをそっと抑える。
「ありがとうございます、エドガー様……」
微かに笑みを浮かべ、まだ緊張の残る手を胸の前で重ねる。
玉座の間を後にし、二人は馬車に乗り込む。
馬車の木の香りと革の座席の感触が、フィオナの心を少しずつ落ち着かせる。
だが、出発の揺れが腰に伝わった瞬間、体に力が入らなくなるのを感じた。
「……あっ……」
思わず小さく声を漏らし、膝がぐらりと揺れる。
緊張と疲労が一気に押し寄せ、心も体も重くなってしまったのだ。
「大丈夫か?」
エドガーがすぐに手を差し伸べ、フィオナを抱き寄せる。
馬車の座席に腰を下ろすと、彼女の体はふわりと腕の中に委ねられる。
「……すみません、エドガー様……」
少し赤く染まった頬を見せながらも、安心感が胸を満たす。
「よく頑張ったな、フィオナ」
低く囁かれる声に、自然と肩の力が抜けていく。
フィオナはエドガーの胸に体をくっつけ、髪をそっと彼の胸に散らす。
銀色の髪が光を受け、淡く輝く。その触れ合いだけで、心がじんわりと温かくなる。
「……エドガー様、そばにいてくださって、ありがとうございます……」
小さな声に甘さと感謝が混ざり、彼の腕に預ける体がさらに軽くなる。
「当然だ。お前は俺の妻で、守るのも、甘えさせるのも当然のことだ」
エドガーは軽く笑みを浮かべ、額にそっとキスを落とす。
フィオナは顔を上げ、金色の瞳が優しく微笑むエドガーを見上げる。
馬車の揺れに合わせて、フィオナは小さく息を吐く。
「……私、少し疲れてしまいました……でも、もう安心です」
彼女の体は自然に彼に寄りかかり、胸の中で小さく笑みを浮かべる。
「よし……俺がここにいる。怖いことも、辛いことも、全部俺に任せろ」
エドガーは肩を抱き寄せ、さらにフィオナを近づける。
銀色の髪が腕に触れるたび、胸がじんわりと熱くなる。
馬車の窓から差し込む朝の光が、二人の顔を柔らかく照らす。
フィオナは目を閉じ、安心と甘さに包まれ、まるで夢の中にいるような感覚に浸る。
「……エドガー様、私……本当にそばにいてくださって嬉しいです」
声はかすかに震え、でも真剣そのものだった。
エドガーはその声に耳を傾け、再び額に軽くキスを落とす。
「そうだな……お前を守るためなら、俺は何だってする」
低く響く声に、フィオナは自然と顔を胸に埋める。
「はい……ありがとうございます、エドガー様……」
馬車はゆっくりと屋敷へ向かう。
揺れに合わせて二人の体は寄り添い、息遣いや体温が互いに伝わる。
フィオナはふと、自分がこれほどまでに安心し、甘えることを求めていたのだと気づく。
「……ふふっ、私、こんなに甘えてしまって……」
小さな笑い声が胸の中で響く。
「構わない。お前が甘えたいとき、俺が受け止めるだけだ」
エドガーの腕はゆるめず、フィオナを包み込む。
屋敷の門が見えてきても、二人の距離は変わらない。
心が静かに満たされ、緊張と戦いの毎日があっても、こうして二人でいられる時間こそが何より大切だと感じる。
「……エドガー様、これからも……ずっと、そばにいてくださいますか?」
フィオナは小さく問いかける。
「当然だ。お前が望む限り、俺はお前のそばにいる」
エドガーの声は力強く、温かく、フィオナの心を完全に包み込む。
馬車の揺れと共に、二人の甘い時間は静かに続き、王都の喧騒も、玉座の間の緊張も、遠くに感じられた。
腕の中で力を抜き、互いの温もりに浸りながら、二人はしばしの間、甘く静かな時間を共有した。
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