第13話やかな日々の中で
辺境の屋敷に、朝の柔らかな光が差し込んでいた。
庭の木々がそよ風に揺れ、鳥のさえずりが静かに響く。
その静けさの中、研究室ではフィオナがひとり、机に広げた文献と報告書に囲まれて熱心に作業していた。
「……あと少し……これが正しいかどうか、確かめたいんです……」
アメジストの瞳は真剣そのもので、淡い銀色の髪は肩に散らかり、無意識に可愛らしさを漂わせている。
小さな手でペンを握り、メモを取り、時折再利用核の小さな欠片を眺めては微かに唸る。
その集中ぶりは、まるで世界に誰もいないかのようだった。
そっと、扉の隙間から影が差す。
黒髪に朝の光を受けて艶やかに輝くエドガーが、金色の瞳で彼女を見守っていた。
「……こんなに熱心に研究している姿も、やっぱり愛おしいな……」
思わず胸の奥が温かくなり、心がじんわりと甘くなる。
「フィオナ、そろそろ休んだ方がいい」
低く優しい声。
その声に、フィオナは顔を上げ、少し赤くなりながらも敬語で答える。
「エドガー様……おはようございます。ご心配、ありがとうございます。
ですが、あと少しだけ、続けさせていただければ……」
エドガーは微笑み、そっと肩に手を添えた。
「無理をするな。休むことも研究の一部だ」
その言葉に、フィオナは少し照れたように微笑む。
しかし、夜通し研究していたせいで、瞼は次第に重くなり、頭が机に落ちる。
小さくため息をつき、うとうとと眠ってしまった。
「……こんなに愛おしい姿を、誰にも見せたくないな……」
胸の奥の甘さを抑えきれず、エドガーはそっと腰を落とし、フィオナを抱き上げる。
小柄で軽い体、温かくて柔らかい感触に、胸がじんわりと高鳴る。
廊下を静かに歩き、寝室へ向かう。
布団にそっと下ろすと、フィオナは微かに揺れる呼吸で安心しているようだった。
エドガーはそっと額に唇を寄せ、小さくチュッと音を立てる。
「……俺は……お前を、離したくない……」
すると、フィオナは寝ぼけた声で小さくつぶやく。
「……離れたくない……エドガー様……」
その言葉に、エドガーの胸が甘くざわつく。
「……俺もだ、フィオナ……」
そっと肩を抱き寄せ、優しく胸に引き寄せる。
フィオナはうとうととしたまま、腕をエドガーの胸に回す。
寝返りを打ちながら、ほんの少し彼に体を寄せる。
その仕草に、エドガーはそっと微笑む。
小さな髪の匂い、温かさ、柔らかさ――
全てが、彼の心を甘く満たしていた。
しばらくの間、二人は静かにそのまま過ごす。
外の朝の光が屋敷にやわらかく降り注ぎ、静かな時間がゆっくりと流れる。
フィオナは寝顔にわずかに笑みを浮かべ、完全に無防備な姿で眠っている。
エドガーはその寝顔を見つめ、胸の奥が暖かく、そして甘くなるのを感じた。
「……この穏やかな時間が、ずっと続けばいいのに……」
エドガーは心の中でそう囁き、そっと手を添えて、フィオナを抱き寄せたままゆっくりと目を閉じる。
研究も戦いも、まだ先は長い。
でも、この腕の中にフィオナがいるだけで、
全てが少しだけ柔らかく、甘く思える――そう、彼は確かに感じていた。
---
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます