アラサー女子が、変身ヒロインたちを百合堕ちさせちゃう話
慶多寅
第1話「出会いは突然に」
いったい、どこの世界にカノジョを誕生日の2週間前に振るオンナがいるっていうんだろ。
……いや、カノジョを最低なタイミンで振るオンナは、ちゃんといたね! しかも、どこかの異世界じゃなくてつい1時間前までファミレスの向かいの席にいたよね!
心の中でツッコミながら、私、黒羽聖子[くろは せいこ]は電車のつり革を握りしめている。確かターミナル駅を19:00過ぎに発車したはずだから、まだ夜も早い列車内はそれなりに静かだ。最近、不景気で残業が規制されているからだろう、車内はそこそこ込み合ってる。それなのに周囲がちょっと空いているのは、きっと私の怒りのオーラがみんなを遠ざけてるんだろうなぁ。
まあ、いい年した女が仏頂面して、イライラと呪詛の言葉を呟いてたら不気味だよねー そこは素直に、同じ電車に乗り合わせた皆様、ごめんなさいと頭の中で平身低頭するしかない訳で。
でも、付き合って3年になるカノジョに、突然大切な話があるからって誘われて、いきなりの誘いでヨレブラとクタパン(上下バラバラ)だったから、エッチの時どう誤魔化そうと思いつつ頑張って定時退社して駆けつけたら、座った途端に別れ話された私の身にもなって欲しい。
だいたい、「ごめん、守ってあげたい子が出来ちゃったの」って、なんだそれは。予想してなかった別れ話にフリーズした私に、元カノが続けて言い放ったセリフがまた凄い。
「聖子さんは強い人だから、ひとりでも大丈夫だよね」って──
どうして揃いも揃って、私を振った元カノたちはみんな同じ セリフを言う!
キミらは、みんなで口裏合わせて同じセリフで私を振る連盟でも作ってるのか!
まあ、そんなワケはないし、そして私がひとりで大丈夫なほど強い人間なワケもないのだけど。だから、今になってみれば、さっきは「捨てないで!」って泣けば良かったのかなと思わないでもない。「その子を幸せにしてあげなさいよ」なんて、物分かりのいい事を言った私が悪かったのかな。でも、さっきは泣けなかったし、きっと何回同じ場面に遭遇したとしても、きっと 私は泣けないだろう。そんなことが判ってしまうくらいには、29の誕生日まであとちょっとのオトナな私なのですよ。
せつない気分でため息を吐いた瞬間、キキーッと金属的な音が響くと同時に身体に強い慣性がかかった。
「おっとと」
ほとんど脊髄反射でつり革にしがみついた私の体が、列車の進行方向へ大きく揺れる。緊急停止? まーた、誰かがホームから転げ落ちたか、それとも酔っ払いでも駅員に絡んだのかな?
「緊急停止、失礼致しました。お客様にお知らせ致します……」
平坦な声の車内アナウンスが流れ出すのと同時に、車内のあちこちで一斉にスマホが金切り声を上げた。
私の胸元のスマホも、同じようにキュイーンと音を立てて緊急メールを受信する。嫌な予感と共に右手で取り出して画面を見るとメール通知は「過激派のテロ行為」だって。
「なんか最近異常に多くない? 過激派さん、勤勉すぎでしょ」
あれかな? テロール教授の授業でも真面目に受けちゃったのかな? 面白いよねあのマンガ。場所を見るとこの路線でしばらく行ったあたりの街で、案の定、電車は次の駅に到着したところで運行不能に。
よりにもよってこんな夜にテロとはね、街を爆破して歩きたいのは、私の方だよ。私が振られ続ける世界線なんて滅んでしまえ! っていかんコレは危険思想だ。
電車から降ろされた乗客たちも、私同様に最近多くなったテロにウンザリした表情だ。電車の再開見込みは不明というアナウンスだったから、タクシー乗り場はあっという間に長蛇の列。
ウチまではあと2駅だったし、私はため息ひとつ吐いてから歩いて家に帰ることにした。一人さびしく夜の街を歩くのは、カノジョに振られたばかりのオンナには、逆にお似合いのシチュかも、だし。初めて降りた駅前のロータリーの空気はちょっと寒かったけど空気が澄んでいたから気分が上がる。スマホのナビで見ると、ウチまで線路沿いをほぼ直線で帰れるから迷うこともなさそう。
どうせだからと、駅を出てすぐのコンビニで500mlのレモン酎ハイ2本と適当なスナック菓子を買い込んだ。歩きながら、くしゅぷっ!とプルタブを開けてチビチビと酎ハイを啜る。うん、美味しい。
「へいへーい、聖子さんは強いオンナー へいへーい」
適当な節をつけて訳のわからん曲を鼻歌で歌いながら、奇妙に誰もいない夜道を歩くアラサーOL。3年付き合ったカノジョに一方的に振られても泣けないんだからきっと強いのさ へいへーい。
でも、一応、この4月の人事異動で同期トップでリーダーへ昇格したんだから、怪しい者ではありませんよ?
酎ハイをぐびぐび、芋けんぴをポリポリ。意外にアルコールに合うよね、芋けんぴ。
「リーダー、リーダー、へいへーい。 ……って、いくらなんでも人がいなさ過ぎない?」
なんで誰も家まで歩いていないの? みんながみんな、タクシー(もしくはバス)に並んでるのかな。酎ハイを、ぐび。袋を雑に開けた厚焼きポテトチップスを指先でつまんで、パリパリ。それより、住宅街とはいえ、まだ20時前なんだから通行人の一人や二人いてもおかしくないよねぇ。なんだろう、この変な空気というか変な気配。へいへー……い?
「……?」
怪訝な表情で立ち止まった私の前方50mくらいのところで、バンッ! といきなりブロック塀が膨張して弾けた。
「え? え? えええ!?」
私の手から、レモン酎ハイの缶が転げ落ちて、少しだけ残っていた中身が道路にこぼれ出す。爆発? 違う、炎も煙も出てない。例えるなら、大きな拳で塀を殴って壊したような被害。ガラガラっと、ブロック塀の破片の一部がこちらへ飛んできて10mくらい前でぱらぱらと撥ねた。
「何? 何!?」
慌てて後ずさる私の前方で、ブロック塀の中から着ぐるみのサルっぽい怪人(?)がのっそり出て来た。
一瞬、酔っ払った幻覚かな?と思ったけど、さすがの私も500mlの1本くらいでそんな幻は見ない。思わず手を握りしめると、コンビニの白いビニール袋ががさがさと緊張感のない音を立てた。ゆっくり歩き出したサル怪人は、子供向け特撮ショーの着ぐるみにしては大き過ぎる。周囲の樹木の大きさと比較すると、軽く身長10m近くあるだろう。しかも、足元のコンクリートブロックを踏み砕いてるから、素材は絶対に布やウレタンじゃない。でも、全体的な造りはいやに現実味がないデザインで、やっぱり気ぐるみというのが一番ピッタリする。いわゆる東京ドームで僕と握手!ってヤツだ。ここは水道橋じゃないけど。
などと本日2回目の思考混乱と行動的フリーズをしている私の目の前で、更に驚くべきことが起きた。
「街を壊すのをやめて! モンキー・コワスーン!!」
その声と共に、ひゅん!ひゅん!ひゅん!っという感じにピンク、青、黄色のしなやかな鳥が飛んで来る。いや、軽やかに地上に降り立った「それ」は、よく見れば鳥でも飛行機でもなかった。
驚くべきことに、それぞれがとびきり可愛い、ピンク、青、黄色系統のキラキラなコスチュームを纏った3人の美少女戦士達だった!!
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