「偶然装う影」
人一
「偶然装う影」
「はぁ~疲れた~今日も仕事頑張った頑張った。」
私はいつものように仕事を終え、帰宅していた。
夏も終わりかけているというのに、夕暮れはまだまだ街を焼いていた。
秋の気配を感じる涼風も、心地よく肌を撫でてゆく。
まだまだ家まで距離はある。
喉が乾いたので水筒を確認するも、お昼のうちに飲み干してしまったんだった。
仕方なしに自販機を探して歩くことにした。
日が落ちかけることにより、闇の足音がどこからともなく聞こえてくる。
人々の影は、夕日に照らされ人以上に長く伸びていた。
ぼーっとしながらスマホ片手に、駅前を抜け住宅街に入った。
「おっ、あったあった。」
いつもは気にしない公園の脇に、ポツンと1台自販機が設置されている。
特に迷うことなくお水を買った。
「はぁ、お水お水っと――
ピッピピピピピ……
「あっ、これあるんだ。最近珍し~」
3、3、
喉を潤しながら数字を見守る。
3、3、3、3
ピピピピピピピピピ――
「うわ!当たった!珍しいしラッキー」
スマホで写真を撮りながら、お水のボタンを押して選んだ。
ガコン
「いいもの見れたな。」
2本の水をカバンにしまい振り返るとそこは――
知らない場所だった。
さっきまでの住宅街は姿を消し、田んぼが広がる田舎道だった。
自販機に向き直るも変化しており、ラインナップも違う抽選機能も無い全く違う古びた自販機がそこにあった。
「なっ……ここどこ……?」
混乱するがとりあえずスマホで地図を開く。
表示された場所……現在地は、かろうじて日本だったが元いた場所からは信じられないほど遠くの山間の寂れた村だった。
「どうしよう……明日も普通に仕事なのに……
というよりどうやって帰るの。人はいるの?」
色々と考えるもまとまらない。
「はぁ……とりあえず電線に沿ってれば、いずれどうにかなるでしょ。」
私は電線を追いかけるように歩き出した。
手には圏外と電波1本を反復横跳びして、使い物にならないほとんど高級な板を握っている。
土と沢の匂いに塗れ、橙に染まった世界を歩く。
ここは日本なんだからいずれ帰れる。
という希望を胸に。
いつまで経っても沈みきらない太陽から目を逸らして。
歩き続ける。
「偶然装う影」 人一 @hitoHito93
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