第3話 バッジの色は

 そろって驚きの声を上げるフロマス勇士団ブレイブスの4人。

 やっぱり仲良いなぁ、なんて感想を抱くモルクに、エミールが食ってかかる。


「メンバーが減ったからって、むりやり降格だなんて規則は無いはずだが? そもそもギルドは冒険者を支配してるわけじゃなくて、」

「あくまで助け合うための互助組織。その通り」


 エミールが怒っていると分かっていながら、モルクはあえて言葉を遮って煽る。そういう作戦なんだから、仕方ない。


「規則は無いとも。あくまで、自主的にランクを落とすつもりはないかという話。君らの身を案じての提案だよ」


「クロエ抜きの俺らだと、ゴールドには足りないってか?」


「そういうこと。4人がそろってればゴールドランクの依頼がなんとかこなせるだろう、と思って昇格させたんだ。3人でゴールドランクの依頼に挑んだら、高確率で失敗することぐらいガキでも分かる」


「ふっざけんな! 無色むしょくの受付ごときに何が分かるってんだ!」


 激昂したレクシアがモルクに詰め寄り、胸の白いジョブバッジをつつく。

 ジョブバッジは、つけた人の職業ジョブに合わせた色に自動的に変わる。最初は誰でも無色だが、例えば冒険者ギルドの受付として働き続ければ〈交渉〉や〈書類〉などの雑技士エキスパートスキルが身についていき、一人前になった頃にはバッジも雑技士エキスパートの黄色になっている、という仕組みだ。

 逆に言うと、無色のジョブバッジは、まだどのジョブとも言えないような半人前の証となる。


「まあまあ、落ち着きなって」


 にらみあいになった2人の間に、レイナ支部長が仲裁に入ってくる。


「フロマス勇士団がゴールドランクに留まりたいなら、メンバーを補充すればいいよ。もちろんそれなりの腕が無いとダメだけど。誰か当てはある?」


 支部長の言葉に、フロマス勇士団の面々が顔を見合わせる。しばらく首をひねってからエミールが口を開く。


「腕で言えば、フェロウリングのアレックスか?」


「オレ、あいつ嫌い」


「レクシアとは決闘までした仲だもんね」


 クロエの言葉に深くうなずくレクシア。代わりに、と別の1人の名をあげる。


「バギンズ・バロウズのメアリはどうだ?」


「誰だよ、それ」


 エミールは知らないようなので、モルクが補足する。


「カッパー上がりたてのパーティーだな。メアリは武技士ファイター兼雑技士エキスパート


「カッパーじゃ腕が不足だろ」


「そうだな。じゃあ誰だ?」


 森精族エルフのナプラは興味なさげにアクビしてるので、レクシアとエミールの目がクロエに向かう。


「クロエは誰か心当たりないのか?」


「私は辞めるから関係ないんだけど……。そもそも、向こうもパーティー組んでるんだから、そう簡単に引き抜きされてくれないでしょ」


「そりゃそうだけど、誰か見つけないとシルバー落ちだぞ」


 声に焦りが見えるエミール。見事に引っかかってる。

 最初はランク落ちそのものに反対してたはずなのに、支部長に代わりのメンバーをと言われて考え始めてしまったせいで、いつのまにか「代わりが見つからなければランク落ち」を受け入れてしまっている。


「ギルドから、誰が紹介できないのか? ソロでやってる奴とか」


 すがるような2人の目を受けて、支部長は肩をすくめる


「今はいないなぁ。追加メンバーが見つからないなら、3人だけでゴールドランクの依頼を無事に達成できるんだと示してくれてもいいぞ。ギルドとしては、ゴールドランクの依頼をちゃんとこなせるパーティーがゴールドランクを名乗るのは何の問題もないからね」


「それだ! オレたちは3人でもやっていける!」


「じゃあその確認のために、次の依頼の時にギルドから監視員を付けさせてもらうよ。その監視員の報告を聞いて、ランクをどうするか決めよう」


「よし、決まりだ!」


 まだ出来そうな条件に、レクシアが即答で乗ってくる。だが、エミールの方はもう少し疑り深い。


「ちょっと待って。ギルドの監視員って誰がやるんだ?」


「そりゃ、モルクだよ。支部長の私が依頼の間留守にするのは良くないからね」


「なんで無色むしょくの受付なんだよ!」


 レクシアが再び声を荒げる。


「モルクは受付で、冒険者じゃないだろう」


「冒険者だよ。冒険者同業者組合ギルドなんだから。なので、依頼についていくのは問題なし」


 最初にエミールが指摘していたように、同業者組合ギルドとはそもそも、同じ仕事をしているもの同士で互いに協力しようという仕組みである。だから、冒険者ギルドの職員も建前としては冒険者なのだ。実力は元ゴールドランクの大ベテランから、研修で薬草採取したことがあるだけのほぼ素人までまちまちだけど。

 しかし、そんな理屈でレクシアたちが納得するわけもなく。


無色むしょくのお荷物つきでゴールドランクの依頼をこなせってのか?」


「まあ、ジョブバッジは見ての通りの色だけど」


 モルクは白い星のバッジをヒラヒラさせ、ニヤリと笑う。


「それでもレクシアよりは依頼達成の役に立つ自信があるね」


「はぁ!? 舐めてんのか、てめぇ!」


 レクシアが安い挑発にキレイに乗ってくったところで、支部長が両手を叩いて話をまとめる。


「納得いかないんだな。じゃあ、冒険者らしく決闘で決めようじゃないか!」



★。*†*。☆。*†*。★。*†*。☆。*†*。★。*†*。☆。*†*。★。*†*。☆


「どうも、クロエです!」

「決闘することになっちゃいましたよ、モルクさん! 受付とゴールドランクの冒険者が決闘って大丈夫なんですかね? いやまあ、私は信じてますけども!」

「激励に行きたいけど、今行くとレクシアたちに裏切り者と思われそうだし……

 ん、あれ? 先を越された!?

 次回、序章第4話『賭けの行方』 読んでくださいね!」

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