自己犠牲 ー人工知能(AI)ー

上部 留津(うわベ ルヅ)

本編




《*本日の作戦を確認します。初めにC地区13-4-a地点に到着後辺り一帯の制圧。その後C地区14-1-b地点に移動、速やかに補給を――》


 白い息を吐き出すコックピット。僕は作戦を聞く。目の前にいる無機質な音声に従い、僕はそれを実行する。


 ――いつも通りの日常だった。


 自律思考型戦場指揮AI「MiLiTA」は当初、巨大人型兵器「シンギュラー」の自立機構や照準のアシストを行うのみだったが、いつの日か戦闘に関するあらゆる物に着手している。


 ――という説明を、昔MiLiTAにされた。


「ミリタ、我が軍の戦況は」

《*現在A,B地区の部隊からの応答はありませんが、D地区の部隊は昨日殲滅に成功との報告が"-force.4/gmn.mp3-"により確認されました》

「ん……そうか」


 僕の所属する部隊――ないし軍隊は、常に苦戦を強いられている。敵国の戦術レベルに対応できず、気合と根性で今日まで生き延びてきた。

 それもひとえに、自国が開発したAIのおかげなのかもしれない。


 そして動き出すシンギュラー。安定した歩行能力で目標地点に向かう。

 足を突く毎に唸る振動音を感じながら、警戒をしつつ移動を続けていた。が、しかし……


 刹那、右後方からの奇襲――――


「っ!」

《*索敵失敗、自己改善プログラムを――》

「そんなことは今しなくていい!」


 敵軍のステルス部隊がスナイパーを使用、右足首を貫通した。

 シンギュラーはたちまち自立することを忘れ、倒壊するビルのように地へ伏した。


 ――これだからは。


「ミリタ! この後の最善策を考えろ!」


 咄嗟に僕はミリタに祈った。


《*検索中……以下の項目が提示されます》


 その一、武装を解除を行い、投降。

 その二、武装を取り反撃、これを殲滅。


 その三、静かに脱出、機体の自爆プログラムを遠隔で起動。パイロットの安全を――


 三個目に目を通していたその時、どういうわけか項目が書き換えられてしまった。

 そしてそれは、今までの行動からは予測し得ることのできない、恐怖に値する内容だった。



 その三、パイロット諸共自爆。潔い死を。



「んなっ……」


 一瞬言葉が理解できなかったが、しかし合理的だと感じてしまった。

 と同時に、一昨日まで全機体活動していたA,B地区の部隊からの応答がなぜ今日なかったのか、僕は無意識で理解してしまった。


「そうか……人類は負けたのか……」


 結果的に、二つの敗北を悟った僕には、自爆スイッチを押すことなど造作もなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

自己犠牲 ー人工知能(AI)ー 上部 留津(うわベ ルヅ) @beluz0611y

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ