コレアマ!! 甘テルーとオウ ~A-MATERU研究の果てに~
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コレアマ!! 甘テルーとオウ ~A-MATERU研究の果てに~
それは、ひとりの科学者が発見し、造りだしたもの。
世間を驚かせたそれは、やがて世界を変えた。
その利便性は、文明を著しく発展させた。
――だが、そこからの進歩がない。
かつて――世紀の大発見と言われたエネルギー、
俺はその技術を研究をしている。そして、さらなる効率利用法を創造する!
夢はでっかく、科学技術世界勲章だぜ!
幼い頃学校で習った、あまてるの偉大さと無進歩の歴史は、俺の心を熱くしたんだ。
だが……
「はぁ~~~。これだからあまてるは……」
今日も上手くいかなかった。
吐きたくもない溜息が、書類の束を揺らしている。
あまてるは、現状のエネルギー抽出装置では、100%の変換効率にはならない。精々が10%だ。
膨張法も、冷却法も、加熱法も、試してみたが……やはり既存の方法を超えられない!
くっそー!
怒りに任せて膝を打つ。痛い。
「オウさ~ん。またコレアマですか? あんまり根を詰めるとよくないですよ~」
背後からキリッとした声が――耳を、そして脳を覚ます。
少し低めで、しっかりとした輪郭を持つその美声は、研究に明け暮れる俺の癒し。
「テルー。コレアマやめて?」
「えー? 自分で言ったんじゃないですかー。まぁいいです。それよりまた無理しすぎじゃないですか?」
「いやぁ……。でもさ、あまてるで世界が急速に発展してから200年以上……いまだにそこからの発展がないんだ。俺が新たな革命を起こしたいんだよ!」
「はいはい。もう何度も聞きましたって、それ」
テルーは、その長身を折りたたむようにして、顔を近付けてくる。少し長めのウルフカットの金髪が揺れた。
心臓が跳ねる。甘いような、やたらといい香りが、脳を揺らす。
ああ、いいな……。やっぱりテルーはえっちだ。
「オウさん? なんか変なこと考えてる?」
「は?! 考えてねぇし!!!!」
どうも見透かされてたっぽい。俺はついついデカい声を出してしまった。癖なんだよなぁ、これ。
「うーん。怪しいなぁ……? オウさんがそういう大きな声出す時って、いつも……」
テルーの怪訝そうな顔。ちょっとご褒美かなって思わなくもないけど、それは俺のプライドが傷付くかもだ!
「やめて? みなまで言わないで?」
「えー? はいはい。オウさんっていつもすぐやめって言いますよねー。しょーがないからやめてあげますぅー。その代わり……」
唇を少し尖らせながら話すテルーは、やはりとてもえっちだった。最高の助手だな!
「研究も煮詰まってるみたいだし、おそと行きましょ!」
「え?」
おっと? 唐突なデートのお誘いですかぁ?
……っと、伸びて床につきそうな鼻の下を、気合いで引き戻した。さっすが俺。えらいら。
アマテライズされた合金製外壁の家が立ち並ぶ住宅街。
そこにぽつんと紛れ込む、レトロにもほどがある木造の我が家。今の時代にはそぐわないと言わざるをえないが!
「やっぱり、オウさんのお家って素敵ですよねー。落ち着くっていうかー。だからここで働けてよかったです」
これだ! テルーが興味持ってくれてるからな、不便な我が家も輝いて見えるんだぜ!
しかし。
街は利便性を追求した造りだ。空中に通るあまてるパイプを通れば、主要な場所に、ものの数秒で到着するのだ。
「で、テルー。どこ行きたい?」
チラリと見上げると、眩しい太陽のような横顔が。ニコニコとして実に楽しそうだな。とてもえっちだ。
「宇宙タワー!」
「お? まじんが?」
そこは……カップルのデートスポットとして有名なんだが? まさか、ついに? 進展しちゃうのかぁ?!
っと、やばい。鼻の下戻さないと。
「早く行きましょ! ……ん? 変顔してます?」
「変顔じゃねぇし!! 42番管いくぞ!!」
「はーい」
すっと、俺の手を取るテルー。これは完全にデートですね。そうですか。ありがとうございます!
きちんと区画整理された黒光りの住宅街。まっすぐ進むと、主要管に向かう枝管がある。
「やっぱり、普通の家って、無機質というか、ひととしての温かさというか、そういうのがないような気がするんですよね……」
ほんの少しさみしそうな顔をするテルー。何かを抱えてるのかも。
せっかくのデートだ。色々聞くのもアリだな!
『オウ氏、17歳。テルー氏、19歳。106番街在住。身分確認、照合。通過許可。』
枝管に触れて、照合されれば扉が開く。枝管の中は狭い。
「あ、オウさん。もっとこっちに」
「え、あ……」
狭いからって、抱き寄せられるようにテルーの豊かな胸元に収まる俺の顔。ほっぺたがぷよんと幸せだ!
「あまてる管って便利ですよねー。あまてるの反発エネルギーでしたっけ?」
「え? あ、そうそう! あまてるは反発力やら爆発力、熱エネルギーにも変換出来る万能エネルギーなんだ! テルーの言う通り、移動に使ってるのは反発力だね」
「んふふ。オウさん楽しそう」
「えっ? いやまぁ……」
甘いテルーの胸に包まれながら、好きなことを話してたしな……つい興奮しちまったぜ!
『本線です。行先を指定してください』
「42番」
『42番、宇宙タワー。到着は5秒』
少し広くなったパイプ内。とはいえ、移動は一瞬だ。ちなみに挟まれているので、風景は見えない。いや、見なくていい。控えめに言って最高だしな!
『到着いたしました』
と、無機質な音声が。
あーもう! 幸せなひと時がさ!
ふわりと身体を離すテルー。ああ、名残惜しきあの霊峰。カムバック!!
「オウさん、行きましょー!」
「……はい」
宇宙タワーは透明な塔だ。地上から遥か上空5万㎞まで伸びている。
宇宙空間とされている100㎞を優に超えるそれも、
将来的には月に届くほど伸ばしたいらしいが。月も周回軌道があるから実現したとしても接触する距離には出来ないだろな。
そんなタワーのエレベーターも、階数を押せば、ほぼワープだ。
そんなこんなで最上階。
「星がきれいですねー」
「うん。そうだねー」
うっとりと星や月を眺めるテルーを眺める俺もうっとりだ。
「……オウさん」
「んー?」
「聞いてほしい話があるんです……」
え? なに? 急にシリアスな顔してるけど? まさか?! きちゃう?! きちゃうのか?!
「お、おん……」
ちょっと緊迫したシーン。小さい頃から数えて、5回は告られたけど、好みじゃないし、全部振った!
それは、きっとこの日のためだった!!
こくりと小さくテルーの喉が鳴った。俺もつられてゴクリと鳴らす。
一瞬の静寂。
「……私、実は人工生命体なんです……」
「……え?」
「アーマッテ博士の開発した技術のひとつ、
「……は?! 博士って、200年前に……」
「あまてるは、深淵なのです。そして、私はあまてるのコア。変換率が低いのは、私が抑えているんです。でも、オウさんが頑張ってるのは毎日見ていて知っています。それに……オウさんは温かくて……人の温もりを、私に与えてくれました。……だから、大好きなんです!」
「んえ?」
ちょっとまて。情報量が多いよ!?
「だから、選んでください! 私との未来か、あまてるかを!」
「はぁ?!」
俺の夢か、好きな人か……選べってか?!
でも、諦めきれない……!
「俺は……あまてるを諦めない!」
決意の言葉。テルーの頬に雫が伝う。
「コレアマ!」
「コレアマやめて?!」
閃光が迸る。
テルーの発した
そして滅びに向かった。
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