サイハル -最下層農民、皇帝に成り上がってハーレムを作る-

イヌイエン

第一章 全ての始まり

プロローグ 皇帝と女たち

 もうすぐ夜が明ける。


 窓の向こうに広がる王都セリオンの街並みは、まだ薄暗い霧に沈んでいた。


 遠くの方で、夜明けを告げる鐘の音が鳴っている。


 巨大な王宮の最上階。

 この国を治める皇帝の寝室。


 そこに、一人の男が立っている。


 皇帝、テルヴァニア七世。本名をローガン・アースベルトという。


 筋肉の浮かぶ広い背中と、落ち着きのある精悍な顔立ち。

 彼はかつて、畑を耕す一介の農民だった。しかし、その面影はもうどこにもなかった。



 彼は「全て」を得た。



 親が残した畑以外に何も持たない立場から、富、名声、この国を統べる力、それら全てを。


 そして。

 愛する人々も。


 彼は、部屋に置かれた大きなベッドの厚い天蓋を押し分けた。


 ベッドの上には、三人の裸の女性達が眠っている。


 金髪の女は穏やかな寝息を立て、赤髪の女は腕を緩やかに伸ばしていた。エメラルドグリーンの髪の女は夢を見ているのか、微かに笑っている。


 陰謀も戦いも、既に過去の話。


 この部屋には、安らかな寝息の音、そして夜明け前の優しい光しかない。


 ローガンは窓のそばに立ち、外を見下ろした。


 王都セリオンを包む霧が少しずつ薄れていく。

 そして、美しい装飾が施された王宮の屋根が、少しずつ光を取り戻していく。

 その光景を見つめながら、彼は短く息を吐いた。


 (……ずいぶん遠くまで来た)


 胸の奥で、土の匂いがかすかに蘇った。


 あの頃、鍬を握りしめ、荒れた畑を耕していた自分。

 泥にまみれた男の手が、今はこの国を支えている。


 ローガンが外の景色をぼんやり眺めていると、後ろから女性たちの声がする。


 「ローガン……?起きたのですか?」

 「こっち来て……寒いよ」

 「……ねえ、もうちょっと……シません?」


 女性たちの声に応じるように、彼はベッドへと戻っていく。


 この物語は、不思議な運命に導かれ、貧しさと孤独を抱えながらも、やがて一つの国を治めることとなった男の、生涯の記録。

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