BGMみたいだな

遠山ラムネ

BGM

文化祭の打ち上げなんていうおあつらえ向きの理由で、みんなでカラオケBOXになだれ込んだのは1時間前。

でも彼女が到着したのはほんのついさっき。


それまでなにしてたんだよなんて、無粋な疑問は抱かない。だってさっき下駄箱で見た。あいつと笑って喋ってた。それが理由だろって思う。

クラスが違うから、あいつはあいつのクラスの何かがあるんじゃね?知らねぇけど。


テーブルの上の、空になったグラスを見る。大部屋で、がちゃがちゃてんでばらばらな会話が、あちこちで繰り広げられてて、誰かの歌声はBGMみたいだった。


グラスを掴んで立ち上がる。ちっ、狭いな。


誰彼の膝を避けて跨いで廊下に出る。扉を閉めたら、急に静かだった。


はいはい、ドリンクバーは正義。高校生の味方だね。


ぽてぽてと進む。あちこちの部屋から、どこかしらちょっと外れた歌声が聞こえている。


はーぁ、どうしよっかねぇ、これから


くんできたコーラを片手に、無人の廊下に寄りかかる。


片想いって無駄だよな

だって生産性ないしさ

建設的じゃないし

合理的じゃないし

コスパ悪いし

虚しい

それに……


あーだこーだ、理由をつけてみる。その程度で終われるんなら、別に悩みもしないのだ。


「あーれ?なにしてんのん。部屋戻らんの?」


同じく飲み物を取りにきたクラスメイトに見つかった。そりゃそうか。そりゃそうだよな。


「あー?いやー、なんか腹減ったな、と」

「あー、たしかにー。なんか頼む?みんなに聞いてみる?」

「いやー、でもほらー、金かかるしさー」

「あーね、貧しいかんね、俺らね」

「そうそう」


グラスにエメラルドの液体を満たしてきた奴が、邪気ない感じで笑う。

あれはなんだ、メロンソーダとか、なんかそういうやつ?あったっけかな。


「部屋戻らね?」

「そーね」


戻りたいような、戻りたくないような。

あー、でも彼女の私服は見慣れなくてとても可愛かったから、やっぱもう少し見ていたいような。


彼氏持ちに、玉砕覚悟で告る気概なんてない。だから、現状維持は自分のせい。

分かってんだけど。


「そういやさ、2組の女子に、聞かれたんだけど。お前いま彼女いないのかって。たしかいないよな?」

「あー、まー、うーん……」


いないけど、いないからって。

付き合っちゃえばいいのかな。

えー、でもさ、なんかそういう気分には……


俺たちの部屋のドアを開ける。

途端に喧騒に飲まれる。

無意識に探した先で、彼女は笑っていて。


やっぱ、付き合えないよな、その、誰か知らんけど2組の誰かとは。


いつもそんなこと考えたりしないのに、なんか、大切にしたいとか思うんだ。その、自分の気持ちとか、今は。


実らないけど。甲斐がないけど。報われなくても。


つまりこれって初恋じゃね?とか、思いあたっちゃって途方に暮れる。

まじかー、いまさらー、もう17だぜ?彼女だってもう何人か……

なんて、そんなの全然、関係ない、か。


仕方がないよな?


遅れてきた初恋なんて、どうせ俺の手にはおえない。今はただ、後ろめたさなく、可愛いなぁなんて彼女を眺めてられたら、それで、いいや。


「お前、次歌う?」

「あー、そーね」


回ってきたマイクを、逆らわず手に取る。

歌は嫌いじゃない。でも誰も聞いてない。けど別にいいや、BGMで。


彼女は相変わらず楽しそうに、隣の女子となにやら話している。

俺のことなんて、少しも、気にかけたりなんてしないまま。




Fin

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