第44話シルビア、あなたの望み通りよ

以下、訂正した文章です:

第二夫人。

その存在を、王妃様に提案したのは、私だった。

アルファードの誕生日パーティーの後、わずかに設けていただいた時間の中で、私は静かにその話を切り出した。

王妃様の頬が一瞬だけ引き攣ったのを、私は見逃さなかった。

けれど、無下にはなさらなかった。

その冷ややかで、けれど誠実な沈黙が、逆にすべてを肯定しているように感じられた。

そして、何よりも、第二夫人の存在を最も望んだのは、アルファード自身だった。

「何人か候補を挙げてほしい」

そう告げられたとき、私の胸の奥で、何かが静かに音を立てて崩れた。

それでも表情は崩さず、私は慎重に数名の名を挙げた。

その中のひとりが、アツキ様。

少し気の強い方で、けれど息を呑むほど整った美しさを持つ人だった。

冷ややかな瞳の奥には、強い意志と揺るぎない誇りが宿っていた。

シルビアとはまるで正反対。

だからこそ、アルファードがその名を選んだとき、私は驚きと同時に、どこか納得した。

冷たい輝きを放つその眼差しは、どこか似ていると思った。

かつての私に。

外交という名目で、おふたりは幾度か秘密裏に親交を重ね、

彼女はアルファードの"理解者"としての立場を確立していった。

いや、私が助言してあげたのだ。

どうすればアルファードが、ゆっくりと堕ちていくかを。

やがて学園を卒業して少し経つ頃、アツキ様は懐妊された。

懐妊。

それはすなわち、第二夫人としての務めを果たせるという証。

国としては、これほど好都合なことはなかった。

けれど、その事実は王宮の中でも極秘とされ、ほんの一握りの者しか知らされなかった。

彼女の名は表には出ず、存在そのものが"封印"されるように、静かに扱われていたのだ。

当然だ。

婚儀を挙げてもいないのに、既に第二夫人が存在するなど、それは、アルファードとシルビアが「足りない」と告げているのと同じことになる。

そうして、シルビアに、そして国全体に知らされたのは、婚儀のひと月後のことだった。

その時にはもう、正式な第二夫人としての手続きがすべて整っており、また、それに対して誰も異を唱える者はいなかった。

私はアツキ様に、

お披露目の場として、

己の婚約の儀の席を、彼らに用意してあげた。

ねえ、シルビア。

あなた達の望んだ通り、第二夫人よ。

外交に長け、大国とも太い繋がりを持ち、私よりもずっと広い顔を持つ方。

きっと、私よりも国を豊かにし、あなたを守る支えにもなるでしょう。

だから、あなたは安心して、王宮の中でゆっくりとすればいい。

今は妊婦で、不安定な日々を過ごしていると聞いている。

けれど本当のところは、私には分からない。

彼女が笑っているのか、泣いているのかさえも。

それでも、全てが理想通りなのでしょう?

あなたが描いた通りの未来が、いま目の前にある。

……なのに。

どうして、私の心はこんなにも晴れないのだろう。

ねえ、シルビア。

あなたの望みは、叶ったのよね?

どうか、教えてほしいわ。

なぜ、私はまだ、こんなにも胸が、痛いのかを。

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本当の愛を見つけたのでしょう?お幸せになって下さい さち姫 @tohiyufa

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