第27話一月後のシルビア目線

最近、アルファード様がすこぉしいえ、正直に言えば、かなりうるさいわぁ。

婚約者候補になってから、もうすぐ一月が経とうとしているけれど、どうして誰も彼も、ことあるごとに「カレンが」「カレンなら」と、私を彼女と比べてばかりなのかしらん。

教育係の目つきなんて、思い出すだけでむかっとする。

人を値踏みするように細めた眼差しに、冷たい光がちらつく。口元には、皮肉めいた笑みを浮かべ、わざとらしく大きなため息。

そして、私の耳にきちんと届く声量で「カレン様なら、こんなことは一度もございませんでしたのに」なんて呟くの。

嫌味以外の何物でもないじゃない。いっそ「あなたはダメです」と面と向かって言ってくだされば、まだすっきりするというのに。

だいたいね、まだ二年も時間があるのよ?

それを、誕生日が近いからって、急に全部覚え込めというのが無理なのよぉ。

招待客の名前にしてもそう。アルファード様が既に全部覚えているのだから、別に私が覚えなくても問題ないわぁ。

それを「カレン様は全員の顔と名を一度で記憶なさっていました」なんて、ことあるごとに突きつけてくるのよ。

そもそも、カレンは幼馴染みでしょう? 小さい頃から王宮に出入りして、自然と身につけたことを、今になって私に求めるなんて不公平よぉ。

私とは出発点が違う。なのに「できて当然」みたいに扱うなんて、おかしいじゃない?

アルファード様だって、そうなの。

最初の頃は「可愛いね」って微笑んでくださった。私の考えに「君の視点は新鮮だ」と、目を細めて楽しそうに受け入れてくださった。

なのに最近は、口を開けば「カレンはこうだった」「カレンならこうしただろう」と。まるで、わたしを常に前婚約者と比べてばかり。

先日は、舞踏会での立ち居振る舞いについて指摘された時もそう。

「君は愛らしいけれど、カレンはもっと落ち着いていた」って。

書簡の作法を練習した時だって、

「少し字が乱れているね。カレンは几帳面だったから」なんて言葉が返ってきた。

あのとき、胸の奥がぎゅっと縮んで、思わず唇を尖らせてしまった。

私、拗ねちゃったの。

でもね、私が頬をぷくぅっと膨らませると、アルファード様はすぐに慌てて「いや、責めているわけじゃない」「君は君でいい」と慰めてくれるの。

そういうところは可愛いと思うのよ。だから余計に、むかむかしちゃうの。

けどぉ、どうにかしないとイライラが溜まってしまう。

確かにぃ、カレンがいたら楽なのかもしれない。

だって、彼女はもう何もかも知っているんだから。

でも、だからって私は引き下がらない。

だって、私がアルファード様に一番相応しいしぃ、王妃なるんだもん。

むしろ、こう思うの。

貴族令嬢は、王子のために動いて当然。

カレンができたことを、私が全部やる必要なんてないわ。周りが動けばいいのよ。

ふふっ。

ねぇ、良いこと思いついちゃった。

そうよね、カレンがやった事を私がする必要ないもんね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る