第17話シルビア目線
「美味しいですわぁ」
もう、口に入れた瞬間、幸せでお腹いっぱいになり、もっともっと食べれますわ。
ふふ、やっぱり王宮の食事は違いますわ。なにせ、王家の台所ですものね。
味も香りも、うちの屋敷とは段違い。それに、お皿もフォークも、なんだか透けて見えそうなくらい繊細で、ピカピカ。キラキラ。ピッカピカ。
今日から始まった王宮での教育、その初日からこの豪華さ、これって絶対、歓迎ムードよね。
きっと王妃様も「将来の妃候補にふさわしいか見てあげよう」って思ってらっしゃるのよ。
うふふ。
金曜の夜から日曜日の夕方までここで過ごすって聞いて、緊張するかと思いきや、なんのその。
実際に来てみたら、お城って本当に最高!
廊下はつやつやしてるし、どこを歩いてもお花の香りがするし、召使いの皆さんが全員、なんだかちょっと背筋伸びてる感じで、私を見てくれるの。
しかもこの夕食。
テーブルには金色の縁取りのされた白いクロスがかかっていて、十何本もある蝋燭の光が、まるで魔法の鏡みたいにガラスの器に反射して、キラキラ輝いてるのよ。
お肉とお魚は、それぞれお花の形に飾られていて、まるでお皿の上に花束が咲いてるみたい。味もとっても上品で、ソースはふわっと香るのに後に残らない絶妙な仕上がり。
さすが王家ですわね。
量が少ないのがちょっと玉に瑕だけど、そこはパンをいっぱいおかわりすれば大丈夫よねっ。
お昼もあれじゃ全然足りなかったしぃ。
「それは良かった。でも、少し食べ物を落とし過ぎだね。カレンはそんなこと無かったよ」
またカレンなのぉ。
目の前の席から聞こえた優しいけれどちょっぴり困ったような声。
見上げれば、アルファード様がいつものとびきり優しい笑顔を浮かべていた。
カレンカレンって、確かにあの子は大人しくて、なんでも器用にこなすし、静かだし、完璧"っぽく"見えるけどさ。
でもでも、こういうお食事の場で、楽しさをちゃんと表現するって大事じゃない?
だって、美味しいのに静かに食べるとか、逆に失礼じゃない?
私はカチンときたけど、それを顔に出すほど子どもじゃないわ。こういう時こそ、淑女の武器、そう、"かわいこぶりっこモード"発動ですわ。
「申し訳ありません。つい美味しくて、口が小さいのに入らないのに入れちゃうんですぅ」
ここで、少しだけ上目遣いにして、フォークを小指立てて持ってみせる。完璧。
「・・・はああ」
どこかから深いため息が聞こえた。え?誰?とキョロキョロしたけど、それらしい人は見当たらなかった。召使いたちは壁際に並んでるけど、そんな声届く距離じゃないし。
まあ、きっと私の可愛さに感動したため息よね。そういうの、よくあるもの。
「だが、私の誕生日にはパートナーとして側にいなきゃいけないから、これから気をつけて欲しいな。ドレスを汚してしまっては大変だからね。でも、それくらいなら気にしなくてもいいけどね」
「わああ、アルファード様、そんなに私のこと心配してくださって嬉しいですわぁ」
「い、いや当然じゃないか。これからは私の隣にいるのはシルビアしかいないんだからね」
「分かりましたわぁ」
声も笑顔も限界まで可愛らしく仕上げて、しっかりと返事した。
ふふん、やっぱり私のこと、ちゃんと見てくださってるじゃない。
家にいたときより、ぜっっったいお行儀良くしてるし、落としたのだってほんのちょっっぴりだもん。
けど確かにドレスが汚れちゃったらやだわぁ。いや、まって、どうせ何着も作ってもらえるだろうから、逆に汚してぇ、ファッションショーを見せてあげてもいいかもぉ。
そんなことを考えていたら、ソースがちょっとテーブルクロスに垂れたかもしれないけど、でも王宮ってクリーニング技術すごいって聞くし、問題ないわね。
うん。
ちらっと視線を横にやると王妃様が、じっとこちらを見ていた。
その視線はなんというかすごく冷たくて、まるで冬の空気みたいな鋭さだったけれど、緊張してらっしゃるのね。
私と話すの、楽しみにしてらっしゃるんでしょうけど、タイミングが掴めないのね。
それとも、私、今日めっちゃ輝いてるから、ちょっと気後れしちゃったのね。
わかる、わかるわ~~、私って可愛いんですもん。
大丈夫ですわ、王妃様。明日から私王妃様と仲良くなってみせますわ!うふふ♡
私なら、カレンよりも王妃様ともきっと仲良くなれますわ。
食事が終わり、デザートが運ばれてきたとき、思わず、きゃっ♡って声が出そうになりましたの。
だってぇ、
ちいさな塔のような三段プレートの上に、色とりどりの宝石みたいなスイーツがぎっしり。
ラズベリーのムースに、金箔をちょんと乗せたホワイトチョコのタルト、花の形のマカロン、そして一番上には、小さなティアラ型の砂糖菓子! まるでわたくしのために用意されたみたいじゃありませんこと?
「わあぁぁぁぁぁ、すっごい、夢みたいですわぁ。可愛くてぇ、綺麗ですわぁ」
思わず言葉が漏れてしまって、私、完全に顔がにやけてましたわ。
「そんなに喜んでくれるなら、王宮の厨房も本望だろうね」
アルファード様が、クスッと笑いながら、私の為だけに微笑んでくださった。
「ふふ、だって本当に素敵なんですもの。見てください、このマカロン、わたくしの爪よりも小さいんですのよ。しかも、お花の香りがして素敵」
「よく気づいたね。宮廷専属の菓子職人が、シルビアの為に作ってくれたんだよ」
「まあ、素敵。王妃様、このスイーツ、ほんとうに素晴らしゅうございますわぁ。まるで、舌の上で踊っているみたいですの。わたくし、将来このお菓子のレシピを習得して、家庭でも作ってみたいと思ってしまいましたの」
にっこりと微笑みながら、わたくしは完璧な貴族の礼儀作法で言い切った。
ふふ、どう? これなら印象アップ間違いなしでしょ?
ほらぁ、私とお話ししたかったのでしょう?
ほらぁ、ほらぁ、私から声をかけて差し上げましたわよ。
王妃様は一瞬、まばたきをして、それからわずかに首を傾けた。
「・・・そう。家庭で?」
えっ・・・? あらん?
何だか言い方も顔も怖くなってしまったわ。
あ、そうか。気の利いた言葉が思い浮かばないのね。
そうよねそうよね。緊張してたら思いつきませんものね。
「いえ、もちろん将来的なお話ですわぁ。まだまだ先のことではありますけど、でも、花嫁修業の一環としては、ぴったりかと思いましてぇ」
あ、今、アルファード様の眉がピクって動いた。
ちょっとだけよ? ちょっとだけ頬が赤くなった。
「シルビアは……相変わらず、前向きだね」
「はいっ、アルファード様のためですものぉ」
堂々と答えたあと、お紅茶を一口。
ああ、ベルガモットの香り、幸せすぎて、倒れそう。
それにしても、王宮の週末教育って最高! これはもう、毎週来たいですわ!
いや、いっそ住みたいですわ! その方が、王妃様とも仲良くなれそうですし♡
夕食が終わる頃には、私のお腹も心も、すっかり満たされておりましたの。
もちろん、パンはこっそり三回お代わりしましたけれど、それでもお行儀は完璧に保ちましたわ。
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