第3話:中級の限界突破

第一幕:8歳のガイア、父との旅立ち


半年が経ち、ガイアは8歳になった。

朝。

庭でトレーニングをしている。

腕立て伏せ。150回。

スクワット。300回。

プランクは5分。

休憩を取り、呼吸を整える。

(順調だ)

ガイアが呟く。

(筋肉はさらに成長した)

(技術も身についた)

拳を見る。

以前より太い。

筋繊維がはっきりと見える。

(この筋肉と技術で、中級モンスターを狩る)

父親が庭に出てきた。

「おはよう、ガイア」

「おはよう」

父親が荷物を持っている。

大きな背負い袋に剣、水筒。

「準備はいいか?」

ガイアは立ち上がる。

「ああ」

「じゃあ、行くぞ」

「どこへ?」

「北の森だ」

父親が答える。

「中級モンスターが生息している」

ガイアの目が輝く。

「中級モンスター……!」

「ああ」

父親が頷く。

「お前がずっと待っていたものだ」

ガイアは拳を握る。

(ついに……)

(ボアファングより強い)

(筋肉が発達した高タンパク質のモンスター……!)

母親が家から出てきた。

「二人とも、気をつけてね」

手に弁当を持っている。

「これ、持っていって」

父親が受け取る。

「ありがとう」

母親がガイアを抱きしめる。

「無理しないでね」

「大丈夫だ」

ガイアが答える。

「俺には筋肉と技術がある」

母親が苦笑いする。

「相変わらずね」

「でも」

微笑む。

「強くなったわね」

ガイアは頷く。

「ああ、父さんのおかげだ」

父親が肩を叩く。

「じゃあ、行くぞ」

「ああ!」

二人で村を出る。

北へ。

森へ。


道を歩く。

父と子、並んで歩く。

「ガイア」

「何だ?」

「中級モンスターはボアファングとは違う」

父親が説明する。

「もっと速い。もっと賢い。そして」

真剣な顔で言う。

「群れで行動する」

「群れ……?」

「ああ」

父親が頷く。

「1体ならお前でも勝てる。だが複数は危険だ。技術を最大限に使え」

ガイアは拳を握る。

「わかった」

(筋肉と技術、両方を使って必ず勝つ)

森に入る。

木々が密集している。

鳥の声、風の音。

だが何か違う。

空気が重い。

父親が立ち止まる。

「この辺りだ」

小声で言う。

「静かにしろ」

ガイアは頷く。

二人で森の奥へ。

足音を消して。

しばらく歩き、父親が手を上げる。

「止まれ」

ガイアも立ち止まる。

前方。

開けた場所。

そこにモンスターがいる。


第二幕:中級モンスターとの遭遇


開けた場所。

そこにモンスターがいる。

狼型。

だが普通の狼ではない。

体長は約2メートル。

灰色の毛皮、鋭い牙、筋肉質な体。

「あれは……」

父親が小声で説明する。

「グレイウルフだ。中級モンスターの中でも特に厄介な種類」

ガイアは観察する。

(グレイウルフ……)

目を凝らす。

(見ろ、あの大腿筋。四足歩行のための発達した筋肉。そして肩の筋肉。跳躍力がある。つまり)

拳を握る。

(高タンパク質だ……!)

父親がガイアの肩を叩く。

「待て」

「何だ?」

「よく見ろ」

ガイアは再び観察する。

グレイウルフが何かを食べている。

鹿だ。いや、鹿型モンスターで、半分ほど食べられている。

「グレイウルフは肉食だ」

父親が説明する。

「そして縄張り意識が強い。俺たちが近づけば襲ってくる」

ガイアは頷く。

「わかった」

「それと」

父親が周囲を見回す。

「必ず仲間がいる。グレイウルフは群れで狩りをする。今見えてるのは1匹だけだが、周囲にあと2、3匹はいるはずだ」

ガイアは緊張する。

(群れか……。1匹なら勝てる。だが複数は……)

父親は剣を抜く。

「俺が1匹を引きつける。お前は残りを相手にしろ」

「え……?」

「大丈夫だ」

父親が微笑む。

「お前ならできる。筋肉と技術で」

ガイアは拳を握る。

「……わかった」

父親は前に出る。

ゆっくりと足音を立てて。

グレイウルフが気づく。

頭を上げ、父親を見る。

低く唸る。

「グルルル……」

父親が剣を構える。

「来い」

グレイウルフが飛びかかる。

速い。

父親が剣を振るが、グレイウルフが避けて着地する。

再び飛びかかる。

父親が後ろに下がり、戦いながら離れていく。

ガイアから遠ざかる。

(父さんが引きつけてる……)

その時、背後で気配を感じる。

ガイアが振り向く。

グレイウルフが2匹。

木々の影から現れる。

牙を剥いている。

「グルルルル……」

ガイアは構える。

(来た……。2匹……。群れだ……)

拳を握る。

(でも恐れるな。俺には筋肉がある。技術がある)

2匹のグレイウルフが左右から、挟み撃ちの形でゆっくりと近づいてくる。

ガイアは間合いを測る。

(3メートル、2メートル。どちらが先に来る……?)

観察する。

左のグレイウルフ。

体勢が低い。飛びかかる準備をしている。

右のグレイウルフ。

まだ様子を見ている。

(左が先だ)

ガイアは決断する。

左のグレイウルフが跳ぶ。

速い。牙が迫る。

ガイアは横に最小限の動きで跳ぶ。

グレイウルフが空を切って着地した、その瞬間。

ガイアは反撃の拳を放つ。

7割の力でグレイウルフの側面を狙う。

ドン。

当たる。

グレイウルフがよろめく。

だが倒れない。

(硬い……!筋肉が鎧のようだ)

右のグレイウルフが襲いかかる。

今度は右から。

ガイアは構える。

(来る……)

グレイウルフが跳ぶ。

ガイアは拳を引き、タイミングを見極める。

(今だ!)

ストレートパンチ。

全身の筋肉を連動させる。

だが7割の力。

拳がグレイウルフの頭に当たる。

ドゴン。

グレイウルフが吹き飛び、地面に転がる。

動かない。

(やった……!)

だが安心できない。

左のグレイウルフが再び襲ってくる。

怒っている。さっきより速い。

ガイアは避けようとする。

だが間に合わない。

グレイウルフの爪がガイアの腕をかすめる。

血が出る。

「くっ……!」

痛い。

だが止まらない。

カウンター。

アッパー。

グレイウルフの顎を狙う。

当たる。

ガン。

グレイウルフの頭が跳ね上がり、倒れる。

動かなくなる。

沈黙。

ガイアは呼吸を整える。

荒い。

汗が流れる。

腕が痛い。

だが。

(勝った……。2匹のグレイウルフ。倒した。群れを倒した)

父親が戻ってくる。

剣を鞘に収める。

「終わったか」

「ああ」

ガイアが頷く。

父親はガイアの腕を見る。

「怪我したな」

「大丈夫だ」

「見せろ」

父親が包帯を取り出し、腕に巻く。

「浅い傷だ。すぐに治る」

「……ありがとう」

父親が微笑む。

「お前、よくやった。2匹を同時に相手にした。しかも勝った。これは」

肩を叩く。

「大きな成長だ」

ガイアは拳を見る。

血がついている。

自分の血。グレイウルフの血。

(俺は勝った。筋肉と技術で、群れを倒した)

だがふと思う。

(もし3匹だったら……?4匹だったら……?俺は勝てただろうか……?)

不安がよぎる。


第三幕:演出部の反応


異世界演出部。

モニターには、ガイアが2匹のグレイウルフを倒す戦闘の映像が映っている。

田中美咲はタブレットに記録している。

「ガイア、中級モンスター2体を撃破。負傷あり、軽傷。戦闘レベル、中級冒険者を確認」

田村麻衣はコーヒーを飲んでいる。

「すごいわね」

麻衣が呟く。

「8歳で、あの強さ」

「ええ」

美咲が頷く。

「予測通りです。筋力と技術の融合により、戦闘能力が大幅に向上しています」

サクラがソファで起き上がる。

「筋肉少年、血が出てる。大丈夫かな?」

「浅い傷です」

美咲が答える。

「父親が処置しています。問題ありません」

その時、ノック音がして扉が開き、バルクアップ女神が入ってきた。

「失礼します」

「あら、女神様」

麻衣が微笑む。

「今日もちゃんとノックしたのね」

「ええ」

女神が頷く。

「礼儀は大事ですから」

女神はモニターを見る。

「ガイアの戦い、見ましたわ。素晴らしかったですね」

「そうね」

麻衣が頷く。

「2対1で勝利したわ。筋肉と技術の成果よ」

女神が画面を指す。

「見てください。あのカウンター。完璧なタイミングです。相手の攻撃を見極め、最小限の動きで回避し、7割の力で反撃。体力を温存しながら効率的に戦っています」

美咲がグラフを表示する。

「戦闘データです」

画面に数値が並ぶ。

「筋力:上級冒険者レベル」

「技術:中級冒険者レベル」

「体力配分:上級冒険者レベル」

「総合:中級冒険者上位レベルです」

麻衣が驚く。

「体力配分が上級レベル?」

「ええ」

美咲が説明する。

「7割の力で戦う技術を完全に習得しています。これにより長時間の戦闘が可能になりました」

女神が興奮する。

「素晴らしい!筋肉を効率的に使う!これこそが真の強さです!」

だが麻衣は画面を見つめる。

ガイアの表情。

不安そうだ。

「でも、ガイア、不安そうね」

「ええ」

美咲がガイアの映像を再生する。

ガイアの心の声。

(もし3匹だったら……?4匹だったら……?俺は勝てただろうか……?)

「なるほど」

麻衣が頷く。

「勝ったけど、限界を感じてるのね」

「その通りです」

美咲が分析する。

「彼は2匹が限界でした。3匹以上ならおそらく敗北していたでしょう」

女神が腕を組む。

「これは重要な気づきですわ。自分の限界を知ること。それが次の成長に繋がります」

サクラが欠伸をする。

「筋肉少年、悩んでるね。でも」

画面を見る。

「それって、普通だよね」

「そうね」

麻衣が微笑む。

「8歳の子が2匹のモンスターを倒したのよ。限界を感じるのは当然だわ」

美咲がタブレットを操作する。

「次の展開ですが」

美咲が言う。

画面にシナリオが表示される。

「ガイアはさらなる訓練を求めます。群れとの戦闘に対応するため、新しい技術が必要になります」

「新しい技術?」

麻衣が尋ねる。

「ええ」

美咲が説明する。

「複数の敵を同時に相手にする技術。範囲攻撃、連続攻撃、位置取り。これらを習得することで、群れに対応できるようになります」

女神が拳を握る。

「そして筋肉も成長します!8歳から10歳にかけて、成長期です!筋肉が爆発的に成長する時期です!」

麻衣は胃薬を取り出し、1錠を口に入れる。

「また激しくなるのね」

「当然です!」

女神が笑顔で答える。

「ガイアの筋肉ロードはまだまだ続きます!目標はドラゴンですから!」

麻衣はため息をつく。

「そうね。ドラゴンね」

コーヒーを飲む。

冷めている。

「まあ、頑張ってほしいわね」

美咲がタブレットに記録する。

「Case File ○、第3話・第三幕終了。次回、新しい訓練法」

サクラは再び横になる。

「筋肉少年、がんばって」

呟いて、寝る。

女神はモニターを見つめる。

「ガイア」

うっとりと。

「君の筋肉はさらに成長する。楽しみだわ」


第四幕:新しい訓練法


家に戻る。

夕方。

太陽が沈みかけている。

母親が出迎える。

「おかえりなさい」

「ただいま」

ガイアが答える。

母親はガイアの腕を見る。

包帯が巻かれている。

「怪我したの?」

「大丈夫だ。浅い傷だ」

ガイアが答える。

母親は安心するが、心配そうだ。

「無理しないでね」

「わかってる」

夕食。

モンスター肉のステーキ。

グレイウルフの肉だ。

父親が解体して、持ち帰った。

ガイアは肉を食べる。

噛む。

(これは……)

味が広がる。

濃厚な肉の旨味。

(タンパク質含有量、約35g/100g。脂質、8g/100g。ボアファングより高タンパク)

飲み込む。

(最高だ)

だが心の中で考える。

(今日の戦い。2匹が限界だった。3匹以上なら負けていた。俺はまだ弱い)

拳を握る。

(もっと強くならなければ)

父親がガイアを見る。

「ガイア」

「何だ?」

「今日の戦い、どうだった?」

ガイアは考える。

「……難しかった」

正直に答える。

「2匹が限界だった。3匹以上なら勝てなかったと思う」

父親は頷く。

「そうだろうな。お前は1対1の戦闘に特化している。複数の敵を同時に相手にする技術がまだない」

「複数の敵……」

「ああ」

父親が説明する。

「群れと戦うには、位置取りが重要だ。敵を一列に並べる。そうすれば1体ずつ相手にできる」

ガイアは理解する。

「なるほど」

「それと範囲攻撃だ」

父親が続ける。

「複数の敵を同時に攻撃する技術。これができれば、群れにも対応できる」

「範囲攻撃……」

ガイアは考える。

(拳で複数を攻撃……?どうやって……?)

父親は立ち上がる。

「明日から新しい訓練を始める。群れとの戦闘訓練だ」

「わかった」

ガイアが頷く。

(筋肉と技術、さらに磨く。そして群れを倒す)


翌日。

朝。

庭で訓練が始まる。

父親が木の棒を立てる。

10本。

ガイアの周囲に。

「これが敵だと思え」

父親が説明する。

「お前の周りを囲んでいる」

ガイアは観察する。

10本の棒。

円形に並んでいる。

「どうすればいい?」

「まず位置取りだ」

父親が動く。

棒の間を通る。

「敵を一列に並べる。こうすれば」

父親が構える。

「1体ずつ相手にできる」

ガイアは試してみる。

棒の間を動く。

だが難しい。

どこを通れば一列になるのか。

わからない。

「考えるな、感じろ」

父親が言う。

「敵の位置を常に把握する。そして最適な場所に動く」

ガイアは再び試す。

今度は意識する。

周囲の棒の位置。

自分の立ち位置。

動く。

棒の間を通る。

振り返る。

棒が一列に並んでいる。

(できた……!)

「いいぞ」

父親が頷く。

「次は範囲攻撃だ」

父親が薪を置く。

3本。

横に並べる。

「これを同時に攻撃しろ」

ガイアは考える。

(拳で3本を……?無理だ)

「できない」

「できる」

父親が言う。

「薙ぎ払うんだ」

「薙ぎ払う……?」

父親が動く。

腕を横に振る。

薪が3本とも倒れる。

「腕を鞭のように使う。力を分散させて、広い範囲を攻撃する」

ガイアは試してみる。

腕を振る。

だが薪は1本しか倒れない。

「力が一点に集中してる」

父親が指摘する。

「そうじゃない。力を線で伝える。薙ぎ払うように」

ガイアは再び試す。

今度は意識を変える。

(点じゃない。線だ)

腕を振る。

鞭のように。

薪が2本倒れる。

(まだ足りない)

何度も繰り返す。

腕を振る。

薙ぎ払う。

5回、10回、20回。

そして。

腕を振る。

薪が3本とも倒れる。

(できた……!)

父親が拍手する。

「よくやった。これが範囲攻撃だ。複数の敵に同時にダメージを与える。ただし」

父親が真剣な顔で言う。

「威力は分散する。1体に与えるダメージは小さい。だから範囲攻撃は、牽制や距離を取るために使う。とどめはいつも通り、一撃必殺だ」

ガイアは頷く。

「わかった」

(位置取り、範囲攻撃、そして一撃必殺。これが群れとの戦い方)

訓練が続く。

毎日。

位置取り。

範囲攻撃。

連続攻撃。

すべてを学ぶ。

そして1ヶ月後。

ガイアの動きは格段に向上していた。

10本の棒を相手に。

スムーズに動く。

位置を変える。

範囲攻撃で牽制する。

そして一撃必殺で倒す。

父親は満足そうに頷く。

「いいぞ、ガイア。群れとの戦い方を習得した。次は」

微笑む。

「実戦だ」

ガイアは拳を握る。

「もう一度、グレイウルフを?」

「ああ」

父親が頷く。

「今度は群れ全体を相手にする。3匹、4匹。いや」

真剣な顔で言う。

「5匹だ」

ガイアは緊張する。

(5匹……)

拳を見る。

(でも、俺には新しい技術がある。位置取り、範囲攻撃。そして筋肉)

決意する。

「やる」

「よし」

父親が肩を叩く。

「明日、再び北の森へ行く。準備しておけ」

「わかった」


第五幕:群れとの決戦


翌日。

朝。

ガイアと父親は再び北の森へ向かう。

荷物を持って。剣を持って。

母親が見送る。

「気をつけてね」

「ああ。必ず勝つ」

ガイアが頷く。

母親が微笑む。

「信じてるわ」


森の中。

深く静かな場所。

父親が立ち止まる。

「この辺りだ」

小声で言う。

ガイアは周囲を観察する。

木々の影、草むら。

そして気配。

(いる……)

感じる。

複数の気配。

父親が指さす。

前方。

開けた場所。

そこにグレイウルフがいる。

1匹、2匹、3匹、4匹、5匹。

5匹のグレイウルフ。

群れだ。

「準備はいいか?」

父親が聞く。

ガイアは拳を握る。

「ああ」

深呼吸する。

(位置取り、範囲攻撃、そして一撃必殺。これが俺の戦い方)

「行くぞ」

父親が前に出る。

足音を立てて。

グレイウルフたちが気づく。

5匹とも、こちらを見る。

低く唸る。

「グルルル……」

父親は剣を構える。

「俺は2匹を引きつける。お前は残りの3匹を倒せ」

「わかった」

ガイアが構える。

父親が踏み込む。

グレイウルフに向かって。

剣を振る。

2匹のグレイウルフが反応する。

飛びかかる。

父親が迎え撃ち、戦いながら離れていく。

残り3匹。

ガイアを見ている。

包囲するようにゆっくりと近づく。

ガイアは間合いを測る。

(3メートル、2メートル、来る……)

1匹が飛びかかる。

正面から。

ガイアは横に跳ぶ。

最小限の動き。

回避。

だがすぐに次が来る。

左から。

ガイアは腕を振る。

薙ぎ払う。

範囲攻撃。

グレイウルフの顔面に当たる。

怯む。

その隙にガイアは動く。

位置を変える。

3匹のグレイウルフが一列に並ぶように。

(よし……一列だ)

最前列のグレイウルフが襲ってくる。

ガイアは構える。

(来い)

グレイウルフが跳ぶ。

ガイアは拳を引き、タイミングを見極める。

(今だ!)

ストレートパンチ。

7割の力。

効率的に。

拳がグレイウルフの頭に当たる。

ドゴン。

グレイウルフが吹き飛び、地面に転がる。

動かない。

残り2匹。

だが一列は崩れた。

2匹が左右に分かれる。

挟み撃ち。

ガイアは冷静に判断する。

(位置取り、もう一度)

動く。

木の間を通る。

2匹のグレイウルフが追ってくる。

ガイアは止まり、振り向く。

2匹が再び一列に並ぶ。

(よし)

左のグレイウルフが襲ってくる。

速い。

ガイアは腕を振る。

範囲攻撃。

薙ぎ払う。

グレイウルフの側面に当たる。

よろめく。

だが倒れない。

すぐに右のグレイウルフが来る。

ガイアはカウンターを狙う。

拳を引く。

グレイウルフが跳ぶ。

(タイミング……今だ!)

アッパー。

下から。

全身の筋肉を連動させる。

7割の力で。

拳がグレイウルフの顎に当たる。

ガン。

グレイウルフの頭が跳ね上がり、倒れる。

動かなくなる。

残り1匹。

左のグレイウルフ。

怒っている。

仲間を倒されて。

吠える。

「ガォォォォ!」

突進してくる。

今までで最速。

ガイアは構える。

(最後の1匹。全力で行く)

グレイウルフが跳ぶ。

牙が迫る。

ガイアは拳を引く。

深く。

全身の筋肉を収縮させる。

大腿筋、臀筋、腹筋、背筋、大胸筋。

すべてを連動させる。

そして今度は。

(10割だ)

全力。

拳を放つ。

ストレートパンチ。

全力の一撃。

グレイウルフの頭に命中。

ドガァン。

衝撃。

グレイウルフが吹き飛び、木に激突。

木が少し揺れる。

グレイウルフは動かない。

沈黙。

ガイアは呼吸を整える。

荒い。

汗が流れる。

だが。

(勝った……。3匹のグレイウルフ。倒した。群れを倒した)

父親が戻ってくる。

剣を鞘に収める。

「終わったか」

「ああ」

ガイアが頷く。

父親がガイアを見る。

「怪我は?」

「ない。今回は無傷だ」

ガイアが答える。

父親が微笑む。

「そうか。よくやった」

肩を叩く。

「3匹を1人で倒した。しかも無傷で。これは」

誇らしげに言う。

「大きな成長だ」

ガイアは拳を見る。

傷はない。血もない。

(俺は強くなった。位置取り、範囲攻撃。筋肉と技術。すべてを使って、群れを倒した)

父親が座る。

ガイアも座る。

「ガイア」

「何だ?」

「お前、次は何を目指す?」

ガイアは考える。

(次……。中級モンスターは倒した。なら)

拳を握る。

「上級モンスターだ」

父親が頷く。

「そうだろうな。でも」

真剣な顔で言う。

「上級モンスターは危険だ。中級とは比べ物にならない」

「わかってる」

ガイアが答える。

「でも俺はやる。ドラゴンを食うために、上級モンスターを倒さなければ」

父親が微笑む。

「そうか。なら」

立ち上がる。

「また訓練だな。もっと強くなれ。筋肉と技術で」

ガイアは立ち上がる。

「ああ。必ず強くなる」

空を見上げる。

「そしてドラゴンを食う」


【異世界演出部】

モニターが消える。

田中美咲がタブレットを置く。

「記録、終了」

田村麻衣はコーヒーを飲んでいる。

「すごかったわね」

「ええ」

美咲が頷く。

「3匹を無傷で撃破。新しい技術の習得を確認。戦闘レベル、中級冒険者・最上位」

サクラが起き上がる。

「筋肉少年、強くなったね。怪我しなくてよかった」

バルクアップ女神が入ってくる。

ノックして。

「失礼します」

「あら、女神様」

麻衣が微笑む。

「今日も礼儀正しいわね」

「ええ」

女神が微笑む。

「ガイアの戦い、見事でしたわ。位置取り、範囲攻撃。そして最後の全力の一撃。完璧です」

美咲はグラフを表示する。

「現在のステータスです」

画面に数値が並ぶ。

「筋力:上級冒険者レベル」

「技術:中級冒険者・最上位レベル」

「総合:中級冒険者・限界突破レベル」

「そして」

美咲が付け加える。

「次の目標は上級モンスター」

麻衣が頷く。

「順調ね。10歳でドラゴンという予測も、現実味を帯びてきたわ」

女神が拳を握る。

「もちろんです!ガイアの筋肉はまだまだ成長します!9歳、10歳と、成長期の真っ只中です!筋肉が爆発的に成長する時期です!」

麻衣は胃薬を取り出し、2錠を口に入れる。

「また増えたわね」

美咲が指摘する。

「だって」

麻衣はため息をつく。

「次は上級モンスターよ。さらに危険になるわ」

女神が笑顔で答える。

「大丈夫です。ガイアには父親がいます。そして筋肉があります。必ず乗り越えますわ」

美咲がタブレットに記録する。

「Case File ○、第3話終了。次回、9歳。上級モンスターとの死闘編」

サクラは横になる。

「筋肉少年、次もがんばって」

呟いて、寝る。

麻衣は立ち上がる。

「さて、帰るわ」

「お疲れ様です」

「お疲れ様」

扉が閉まる。

静かなオフィス。

モニターにはガイアの姿。

拳を握り、空を見上げている。

次の目標に向かって。


【第3話 完】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る