第53話 魔王戦チート無双

「貴様……、今更我に歯向かうというのか?」


 うわー、我とか言っちゃうタイプの魔王だったのか。

 ていうか魔王無駄に声良いな。


「どこから調達したかは知らないが、その出で立ちはまるで貴様が我に平伏し、服従を誓った時のような装いではないか」

「くっ! 過去のことだ!」


 くくくっ、と喉の奥で小刻みに笑う魔王。

 え、今煽ったよね、シリウスさんのこと煽ったよね。性格悪ー。

 あー、ブチ切れていいかなー、ブチ切れちゃおうかなー。

 とりあえず次はオレのターンだよね。


「あははー、お前が魔王なんだー。ビジュは多少良いけど性格が最悪で良かったー。心置きなく叩きのめすことができるやー」

「お前は侵入者の一人にいたな。結界を壊したヤツか」

「あの結界、全然たいしたことなかったよー。ちなみに遠隔透視にぼかし入れたら焦ってたの知ってるからねー。精神修行足りないんじゃないのー?」

「小娘……、口を閉じろ……」

「あはっ、それって口でオレに勝てないからってことー? 口喧嘩すら出来ないなんてめっちゃ雑魚すぎー。本当に魔王なのー?」

「我を雑魚だと……? 面白い冗談だ。だが、己の発言を身をもって後悔するがいい!」 

 

 魔王は腕を横に振り自身の魔力を高めると、空間に細やかな亀裂が入る。

 その亀裂から肉眼では捉えられないほどの魔力の糸が大量に出現し、広間全体に糸が網目のように張り巡らされていく。


「うわぁっ!」

「ぐうっ!」

「くっ!」


  空間から伸びた透き通った糸が、首筋や四肢に絡みついており、動きを完全に封じ込めている。

 一瞬でオレや空叶たちの動きが止められていた。

 空叶たちは抵抗しようと力を込めているようだが、糸は微動だにしない。


「なるほどー、魔力の糸ねー」

「オウリ! それにソラトたちが!」

「あ、大丈夫ですよ〜。全くおうりってば〜、やんちゃ盛りなんだから〜」


 こやきとシリウスさんは結界魔法をかけていたので、この糸の影響は受けることはない。

 ただ、向こうの三人をあのままにしておくのは良くないので、早急に空叶に指示を出すことにした。

 

「空叶ー! とりあえずレナードさんとアルガーさんと一緒に硬化魔法で攻撃の無効化しててー!」

「わ、分かった!」


 勇者が使える硬化魔法、自分と味方にかける補助魔法で硬化中はどんな攻撃も無効化する効果を持つ。

 無効化になるけど、硬化中には自ら動くことが出来ないから使いどころが分からない魔法だった。

 でもこういう時の為の使い方もありなんだね。


 空叶により硬化魔法が発動され、三人は石像のように固まり一時停止している状態になる。

 これで彼らに対して魔王の魔力の糸は意味をなさなくなった。

 

「仲間には硬化魔法の指示を出したようだが、貴様は逃れられないみたいだな!」

「うわー、なにこれー、身動きが取れないー。大変だー、どーしよー、絶体絶命のピンチってヤツー」

「オウリ! 今助けるぞ!」

「ぶはっ! シリウスさん心配ご無用ですって。おうりめっちゃ棒読みでウケる〜」


 こやきが笑っているけど、そんなに酷い演技してたかなー。

 真剣に心配してくれているシリウスさんに悪いよ。


「この魔力の糸は小娘、貴様の体だけを縛るのではない。貴様の力さえも我の意のままに操れる」

「キャー、やだー、やめてー、わちきに乱暴する気でしょー、このロリコン変態がー! ロ・リ・コ・ン・へ・ん・た・い・がー!」

「あーっはっはっはっはっ! おうりー、面白すぎー! ロリコン変態って!」

「コ、コヤキ⋯?」

「小娘……、何の戯言を……」


 わざとらしく悲鳴を上げて、一応苦悩な表情で必死に藻掻いている演技をする。

 こやき、とうとう大笑いしてるし。

 魔王からは怒りとは違う、戸惑いと苛立ちが混ざった感情を感じ取る。


「……飽きた」

「……何だと?」

「いや、だから、なんか集中力も切れたし、もう飽きちゃった」

「お、おうり……、あ、飽きたって……、うふっ、うふふふふっ……」

「こやき、笑い方変だよー」


 何となしに魔王の攻撃ってどんなものかと思い、わざと攻撃を受けてみたがこんなもんか。

 流れで小芝居をしたけど、シリウスさんには心配させちゃったし、こやきはまだ大爆笑しているし、あれはツボったのかも。


「この見えない糸の攻撃、全体攻撃をするには着眼点は良かったと思うよー。でも相手が悪かったよねー」


 自分の体に絡みついている糸に指先で触れる。

 次の瞬間には糸を構成している魔力の網目を、まるでパズルのピースをバラバラに崩すかのように全て解体してやった。

 向こうで硬化している空叶たち三人が、ゴトンと床に倒れる音が聞こえた。

 体を支えていた糸がなくなれば、石像化してるしそりゃ倒れるよね。


「な、何をした小娘!」

「構成されている魔力の仕組みを分析して解体しただけー。こーんなことで動揺するなんてー、マジで精神修行したほうがよくなーい?」

「舐めるなよ……」


 魔王の声がそれまでの動揺を押し殺したかのように静かに響く。その声はとても低く、呪詛のような声で発せられている。

 言葉と同時に空間がひび割れ、魔王の周囲に渦巻く黒い魔力が無数に出現した。


「あんな攻撃は見たことがない! オウリ! コヤキ! 避けるぞ!」

「「だいじょーぶでーす!」」


 刃物のように鋭く変形した黒い魔力の刃がこちらに向かって放たれた。

 迫りくる無数の刃を前に、オレとこやきは背中合わせでお互い片手を前に出して攻撃に備える。

 このポージング、二人で1回は絶対やろうって決めてたから実行できてめっちゃ楽しい。 


「これで決めちゃうよ〜!」

「ラスト・ジャッジメント! 最後の審判を!」

「おうり技名長すぎ〜」


 つい中二病全開な必殺技名を言ってしまった。この言葉には何の意味も効力も効果もない。

 言ってみたかっただけ。


「全部吸い込んじゃお〜!」

「残さず綺麗にねー!」


 我々は自分たちの前に空間の歪みを発生させ、漆黒の刃を次々と吸収していく。

 魔王が作り出したひび割れの空間とは全然異なり、万物を包み込むような静謐な歪みだ。

 

「あれ、これで終わり?」

「みたいだね〜。それじゃお返ししまーす!」

「しまーす!」


 吸収した無数の刃を今度は魔王自身を標的として、空間から解き放った。

 もちろんそのままではなくて、光魔法や聖魔法などで魔力を更に増幅し、反転させたものだ。

 無数の光輝く刃が魔王めがけて一斉に放たれる。


「馬鹿な!? 小娘らが我の魔力を上回っているだと!?」


 光の刃は魔王の身を包む黒い魔力を切り裂き、その本体へと突き刺さっていく。

 そして全ての光の刃が魔王を貫いた時、オレとこやきは声を張り上げる。


「シリウスさん! 今こそ魔王にとどめを!」

「思いっ切りやっちゃえ〜!」

「うおおおおぉっ!」 


 オレたちの声がけにシリウスさんは全力で駆け出し、叫びながら握りしめている剣を魔王の胸に突き立てた。

 

「やった!?」

「まだみたい!」 

「もしかして心臓の場所が違うとか!?」

「心臓が一つじゃなくて複数あるパターンだったりする〜!?」

「「シリウスさんに加勢しよ!」」


 魔王は剣で貫かれているが、まだ生きている。

 深手を負いながらもその瞳は狂気と憎悪に満ちていた。


「フフフ……、本気で我を倒せるとでも思っていたのか?」

「なんだと!」


 魔王から剣を引き抜きシリウスさんは構え直す。

 その横にオレとこやきが立ち、床に崩れ落ちた魔王の様子を見ていた。

 

「貴様は我に逆らった……。魔力遮断の制裁を受けてもらうぞ……」

「できるものならやってみろっ魔王!」

「あれ〜、気付いてたのかと思ってたけど、気付いてなかったんだ〜」

「こやき、何の話?」

「シリウスさんとの魔力の繋がりを切った時に特に反応なかったけど、丁度天宮くんたちとやり取りしてたから、ただ無視してるだけかと思ってたんだよね」

「まさか魔力の繋がり切られたこと、今の今まで気付かないでいたってこと?」

「そうみたい〜」

「マジで?」

「マジみたいだね」

「あはっ、あっははははっ! まーぬーけー! ふははははっ!」

 

 魔王はこやきの話に愕然とし、思考が停止して固まっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る