第51話 決め台詞を言ってみた

「こやきってば、時々によによした顔で見てくることあるけど、なんでなん? さっきアルガーさんと話してた時にその顔だったよ」


 空叶たちが魔物の群れと戦っている最中だが、未だ見学組なので手持ち無沙汰である。

 なので前にも思っていたことを、こやきに聞いてみた。


「えー、うちそんな顔してたかなー。によによした顔ってなに〜?」

「によによした顔っていうのはー、えーと、意味ありげな感じでー、にやけるともちょっと違うし、半笑い的のような薄笑いみたいなー、そんな表情かな」

「あははー、どーゆーことー? 多分あれだね、そのによによした顔になるのはおうりのことを温かく見守ってるからだよ〜」

「そうなの? 何かそんな風には見えなかったんだけど……」

「長年の付き合いだからこそ、その顔になっちゃってるんだね〜。おうりには幸せになってもらいたいし〜」

「オレだってこやきには幸せでいて欲しいと思ってるよ」

「お互いの幸せが一番の楽しみだよね。これからもよろしく〜」

「いいこと言うねー。こちらこそよろしくー」


 こやきの言葉から飾り気のない本音を感じ、思わず笑いが込み上げてくる。

 どうやらこやきも同じだったようで、二人して笑い合った。

 

 この場所が魔王のいる神殿だとしても些細なことで笑い合う、自分らにしてみれば日常の何気ない一コマのやり取りだ。

 魔物や魔法が当たり前の世界にいるけれど、オレとこやきの関係性は変わらない。

 

「もう少し進めば魔王とご対面っぽいね〜。シリウスさんの魔力も近くに感知してるから、魔王との魔力の繋がり解いてあげよ〜」

「そうだね。そんで魔王を倒しちゃえばシリウスさんは大手を振って国へ帰れるよねー」

「うんうん、家に帰れるのが一番だよね~。うちらも早く元の世界に戻りたいし、その為の手掛かりが何かあるといいけど〜」


 そうだった。

 勇者が魔王を倒す為に旅をしているから、自分も目先の目標として同じ思いになっちゃってたけど、魔王の所へ来たのは元いた世界に帰るための手掛かりがあるのかもしれないって考察したからだ。

 魔王を倒してしまったら、その話を聞けなくなるよね。


 そうなる前に確認しないといけないな。


「そういや、オレらが喚び出された時に使ったっていう魔導書、こやきが持ってたよね。ローダン国を出る時に持ち出してきたやつ。調べたけど結局何も分からなかったっけ」

「うちの収納魔法に入れてあるよ〜。だいぶ前のことだったから忘れかけてたね〜」


 異世界の勇者を喚ぶ為に使われた一冊の魔導書、それは今我々の手元にある。

 城の奥にかなり厳重に保管されていたけども、帰るための手掛かりがあるかもしれないと思い、国から追い出される前にこっそり持ち出したのだ。

 紛失問題が起こると罪のない人が罪を被ることになりかねないので、そこは生成スキルで偽物の魔導書を作り、代わりに置いてきている。


 二人で魔導書を調べ尽くしたけど、特になにも手掛かりは見つからなかった。

 膨大なエネルギーを取り込んでいたのは分かったけど、それもすっからかん状態。

 とりあえず持っておこうと保管はこやきにお任せしてたけど、この魔導書のことを魔王に聞くのもありかなって思い出した。

 今の今まで存在を忘れていたけど。


「魔王が魔導書のことを知ってるかは分からないけど、一応聞いてみようと思って」

「りょーかい、そうしよ〜」


 魔王が話を聞いてくれるヤツなら良いんだけどなー。

 話が通じない系だったら凄く面倒くさいだろうな。

 こればかりは会ってみないと。








「この先からとても強い力を感じます。これほどまでの重くて淀んでいる魔力は初めてですね」

「俺もだぜ。得体の知れない魔力が肌を刺してくるようだ。もしかしたらここに魔王が潜んでいるのかもしれないな」


 神殿の最奥の通路へ差し掛かると、レナードさんとアルガーさんが話してきた。

 魔王の魔力を言葉で表現すると、一般的には二人のようになるみたいだ。

 確かに不気味とか異質とか負の言葉で表現されているよね。


 自分、そういうの何にも感じていない。

 あー、これが魔王の魔力なんだねー、程度の認識しかない。

 ということはやっぱり魔王の力って、それほどでもなさそうだ。


「もしも魔王がいたらお二人とも戦い大丈夫ですか〜?」

「戦う以外の選択肢はないですから。それに勇者であるソラト様と一緒ですし、大丈夫にしなければなりませんよね」

「大丈夫も何も、ここまで来たならあとは俺たちがやるべきことをやるだけだ! ソラト、頑張ろうぜ!」

「レナードさん、アルガーさん、そう言ってくれてありがとうございます!」


 空叶が嬉しそうにお礼を言っている。

 二人のお兄さんたちにかなり馴染んだようだ。

 

 正直魔王との戦いではレナードさんとアルガーさんの力が、どれくらい魔王に有効なのかは分からない。

 もしかしたら全く通用しないかもしれない。

 戦闘不能になる前に、オレとこやきで何とか安全を確保しようという話はしている。


「空叶、この先はオレとこやきが先頭になってもいいかな?」

「おうりとこやきさんが?」

「たまには前を歩きたいな〜って思って〜。いいでしょ、天宮くん」

「え、まあ、いいけど……」

「天宮くんたちは休み休みゆっくり来ていいからね〜」


 通路を進んだ先にお目当ての魔王がいるのは感知したんだけど、その手前あたりにもう一つの魔力を感じ取ったんだよね。

 そう、『元勇者』であるシリウスさんの魔力を。


 空叶たちを置いて先に進み、通路の角からゆっくり首だけを伸ばし、奥を覗き込んでみる。

 先には見覚えのある黒い鎧の人が、観音扉の前に剣を構えて立っていた。 

 きっと魔王に命じられたんだろうな。


「ほらー、やっぱりシリウスさんがいるよー」

「シリウスさんの後ろの部屋に魔王がいるのは間違いないんだけどね~」

「さっきメールで打ち合わせした通りの内容でいいよね。オレが足止めするからー」

「その隙にうちが天宮くんたちと魔王の部屋へ突撃ね。オッケーだよ」

「んじゃ、よろー」


 既に計画は立ててあったので、こやきと実行に移すことにした。

 魔剣もどきを出してから、オレはシリウスさんの前へと進んで行く。


「はいっ、ごめんなさいねー! ちょっと通してもらいますよー!」


 わざと大声を出してシリウスさんの気を惹きつける。

 フルフェイスの兜を装備しているから顔の表情は見て取れない。

 兜の隙間からほんの少しだけ深みのある青色の瞳がチラッと見えた。


 間合いを詰め剣を振りかぶる。シリウスさんは動じず、自身の剣を盾のように構え受け止めた。

 そのままオレの剣を弾こうとしたので、一旦剣を逸らし後方へと跳躍、そして再び剣を交差させる。


「流石だねー、隙がないっちゃー隙がないや。でもオレも負けないよっ!」


 互いの剣が交わるたび、金属音が響き渡り火花が散る。

 攻撃と防御が途切れることなく、流れるような連続した動作を繰り返しながら、意図的に少しずつ扉の前からシリウスさんを移動させている。


「おうり!?」

「そいつは何だ!? オウリとほぼ互角にやり合っているなんて!」

「私たちもオウリさんに加勢しましょう!」


 どうやら空叶たちが来たね。

 扉からは充分離れることが出来たから、ここで言うのはあのセリフでしょう。


「ここは任せて、みんなは先に行って!」


 うはあーー!

 この決め台詞的な言葉を言うことがあるとはねー!

 言葉が重すぎて何故かゾワゾワするー!

 ……自分、ニヤニヤした顔になってないよね。


「おうりを置いてなんて行けないよ!」

「この先に魔王がいるんだって、その黒い鎧の人が言ってたよ! 天宮くん、だから行かないと!」

「魔王が!?」

「マジかよ!?」


 シリウスさんから僅かだけど動揺が感じられた。

 そんなこと一言も言っていない、みたいな。


「解錠魔法でこの扉開けれるようにしたよ! 天宮くん、おうりを心配するのは分かるけど今は魔王の所へ行かなくちゃ!」

「……分かった。レナードさん、アルガーさん、行きましょう!」

「ええ! 必ず魔王を倒しましょう!」

「ああ! 最後まで戦い抜こうぜ!」


 各々気合いを入れて、空叶たちは魔王の元へと扉を開けて進んで行った。

 こやきは中に入る前に振り向いて、こちらにガッツポーズをしていった。

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