第47話 元勇者の人のために

 黒い鎧の人を中心にして、こやきと共に結界魔法を張る。

 遮音の他に外部からのどんな魔力干渉も断つことが出来るようにもしてみた。

 更には二人で重ね掛けをしたので、より強固な結界となっている。


「よし、これでもし監視されてたとしても、この中ならその魔力も遮断されるね」

「……ゔゔっ」

「大丈夫ですか〜? 体力値下がってるから回復魔法かけますね〜」

「強めの雷撃魔法浴びせちゃったからなー。でも突然魔法攻撃するなら、反撃されても文句言えないよねー」

「……す、すまない、悪かった……」

「あ、喋った。やっぱり監視されてるかなんかだったんですかー?」

「……監視より、もっと厄介なものだ……」

「おうりー、この人回復魔法掛け続けないと体力値減り続けるよ〜」

「ええっ、なにそれー!」


 鎧の人のステータスを見ると、確かに体力値の数値が下がったり上がったりしている。

 こやきが回復魔法を掛けているから体力値が下がらずにいるようだ。


「……この結界魔法を解いてくれないか。魔王からの魔力が遮断されてしまうと体力値が減っていくようになっている。魔力干渉を完全に断つなんて、こんな凄い結界魔法は初めてだ」

「魔王からの魔力!? 体力値が減っていくって……。えーと、それなら回復魔法を掛け続けていればいいのかな?」

「そうだよね~、それならこの中でお話できるよね~」

「回復魔法を掛け続けるなんて不可能だ! 君の魔力が尽きてしまう!」

「ご心配なく〜。うちの魔力値は無限大マーク付きなので〜。ゼロになることはないですよ〜」

「これで話をしてもらえますよねー?」

「……君たちは一体何者なんだ? ステータスでは旅芸人と魔剣士のようだが……」


 あらー、偽造ステータス既に見ていたのねー。

 顔は分からないけど、声が上ずってる。

 未知なるものと遭遇して不安と驚きでいっぱいって感じかな。

 この人に我々のこと、言ってもいいよね。

 だって『元勇者』だし。


「オレはおうり、こっちはこやきって言います。貴方が見ているステータスは偽物で、自分らの本当の肩書きは『勇者を守りし者』です」

「勇者を、守りし者……?」

「この世界に喚ばれた勇者と共に魔王を倒すため旅をしています。さて、次はそちらが話してくれますか?」

「回復魔法は掛け続けてるから全然大丈夫ですよ〜。安心してくださーい」

「……私はシリウス、ローダン国から命を受け、勇者として魔王に戦いを挑んだ者だ」

「「えええっー!」」


 更にシリウスさんの話を聞いていくと、勇者として旅立ったのは数年前になるらしい。

 我々がこの世界に喚び出されたのは数カ月前くらい。最近っていえば最近だよね。

 年単位も前に勇者がいたってのは知らなかった。

 でもまあ、別口で勇者がいたとしてもおかしくはない……、よね。


 更に更にシリウスさんはローダン国の王子で、リーシャ王女のお兄さんだそうだ。

 オレらのように他所から喚ばれたわけじゃない。

 元からこの世界にいる人だ。


 そして肩書きが『元勇者』になっている理由は、魔王との戦いに敗北をしたから。

 魔王に負け、死か服従かを迫られた結果、生きてさえいればいずれまた倒す機会が訪れると信じて、彼は服従を選んだ。

 その時点で勇者ではなくなった。


 魔王も馬鹿じゃないから自身の魔力をシリウスさんに繋げ、自分の命に従うしかない状態にしたとのことだ。

 もし逆らった場合にはそれを遮断することで体力値が減っていくようにされた。その為シリウスさんは魔王に従わざるを得なくなった。

 体力値がゼロになることは、戦闘不能になる。

 つまり、死を意味する。


「そんなんされたら絶対逆らえるわけないじゃん! 魔王腹立つわー! 今すぐにでもボコボコにしたくなってきたー!」

「酷いねー、めちゃめちゃ腹立つ〜!」

「魔王は強い。だが、偽であれ君たち程のステータスの力があれば、もしかしたら倒せるかもしれない」

「あ、シリウスさんがそう言うなら楽勝じゃない?」

「そうだね〜、魔王と戦ったことのある人がそう言うなら良さげだね〜」

「ど、どういうことだい?」


 オレとこやきは顔を見合わせ、含みのある笑いを交わす。

 魔王の力がどれ程なのか気にはなっていたのだが、シリウスさんの言葉でガッツリ確証を得たね。

 この偽のステータスはチートステータスの足元にも及んでいないのだから。


「オレらの本当のステータスは鍵付きだから見れないでしょうが、魔王を必ず倒すことが出来るってことですよ」

「うちらめっちゃ強いんでお任せあれ〜」

「……凄い自信だね。頼もしいよ」

「それよりシリウスさん、我々は貴方を助けたいです。魔王を倒せばそれは何とかなるんですか?」

「……それは分からない。何とかなるかもしれないし、魔力が繋がっているのだから、魔王が倒された後私にも何らかの影響がくる可能性も考えられる」

「そーかもねー、こればっかりは実際魔王と対面して魔力の流れを見てみないことには〜。今は何とも言えないな〜」

「そっかー……」


 沈黙が流れる。

 シリウスさんにしてあげられることを考えているが、いい案が思いつかない。

 こやきの言った通り、魔王の魔力がどのように繋がっているのかは、魔力の大元を見ないと分からないからだ。

 今ある情報だけでは解析が出来ない。

 

「それじゃシリウスさん、オレらが魔王と戦う時には近くにいて下さい。魔力の繋がりを解いてみせますんで」

「なっ! そ、そんなことが本当に出来るのかい!?」

「魔力の流れは見たらすぐに分かりますよ〜。魔王が何か仕掛けてくる前にシリウスさんから魔力の繋がりを解きたいですし〜」

「ほ、本当にそれが可能なら……、私は……、私はまた家族に会うことができるのか……」


 可能なら、までは聞き取れたけど、その後は小声過ぎて聞き取れなかった。

 シリウスさんの抱えている計り知れない絶望は、オレには想像が付かない。 

 絶望の中で希望を持ち続けているのってしんどいと思う。


 だけど、出来ることなら皆ハッピーエンドがいいよね。


「そうだ、こやき、輝石まだストックある?」

「あるよ〜。実はルジアスの塔で手に入れた輝石をアイテム増殖で増やしてたんだ〜」

「輝石ってアイテム増殖出来るんだね。レアアイテムっぽいから増殖は出来ないと思い込んでたよ。いつもお任せしてすまんねー。ありがとー。とりあえず3個あればいいかな」

「なんのなんの〜。輝石3個ね。もしかして自動回復の付与?」

「ピンポーン。体力値自動回復の付与があれば、万が一でも心配いらないっしょ」

「そやね〜。備えあれば〜」

「憂いなしー。愛があればー」

「鳩も寄ってくる〜」

「いや、それは備えの余分に持ってきたパンの耳を撒いたからじゃん!」

「それも愛だよ〜」

「「どうも、ありがとうございましたー!」」 

「…………?」


 いけないいけない、ネタを振られるとついつい。

 ひとまずこやきから輝石を貰い、体力値自動回復の付与を3個の輝石全てに付ける。

 輝石1個だけだと自動回復が追いつかないと思ったので、とりま3個にしてみた。





「ではこの付与付きの腕輪、差し上げますので必要時使ってください」

「体力値自動回復の付与が……、いいのかい、貰っても」

「はい、シリウスさんの為に作ったので是非ー」

「オウリにコヤキ、本当にありがとう。君たちに会えて私はまた希望を持つことが出来たよ」

「いえいえ〜、それでは近い内に神殿へ向かいますんで〜」

「ああ、宜しく頼むよ。だが、くれぐれも警戒してくれ。私がここへ来たのも大きな力を魔王が感知したからだ。命じられて来てみれば、多くの魔物が倒されていたので驚いたが」

「オレを攻撃してきたのも魔王の指示ですもんね。今回今までより大規模な魔物狩り祭りをしたからだろうなー。用心しておきまーす」

「魔物狩り……、祭り……?」


 あ、不必要な発言でシリウスさんが戸惑ってしまった。

 失礼しましたー。

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