第44話 未来を見据えて

「何なんですのあなたは!? わたしを蔑ろにして話を進めるなんて! それに自分のことを強いだなんて、思い上がりじゃないかしら!」

「えー、うちはほんとのことしか言わないですよ〜。ステータス見て貰っても全然構わないですし〜。あー、リリーナさんってー解析スキルはま・だ、修得されて無いんですね〜」

「キー! 何なのよー!」


 久しぶりにこやき無双を見るなー。

 自分は四人の女姉妹末っ子だから、お姉さんたちの教えを受けて、そこら辺の嫌味女子とか手玉に取るのは楽勝、って前に言ってたっけ。


「それなら失礼して私が確認してもよろしいでしょうか?」

「良いですよ〜。身の潔白のためにもお願いしまーす」

「では……」


 荒ぶっているリリーナを宥め、レナードさんは解析スキルを発動させる。

 そういえば、人から偽造ステータスの確認をされるのは初めてだね。

 どんな反応をするのかな。


「こ、このステータスは……、コヤキさん、私より高いレベルで……、能力値も凄い……。それで旅芸人をされているなんて……、なんともったいない……」

「おうりのも見てくださーい」

「は、はい……。ええっ! オウリさんは魔剣士なんですか!? この肩書きを持つ方には初めてお目にかかりました……。それにレベルや能力値も私たちより遥かに上で……」

「俺も見せて貰っていいか?」

「どーぞどーぞ〜」

「うおおぉっ! 何だこのステータスは!? し、信じられねぇ……」


 この偽ステータスの内容でも、まだまだチートステータスの足元にも及ばないんだけどね。

 レナードさんとアルガーさんのレベルだってかなり高いのに、この偽造ステータスを見てここまで驚くなんて、分かっているけど恐るべし、チートステータス。


「これでうちの話が嘘じゃないって証明されましたよね〜」

「リリーナ、失礼な発言をしたことをコヤキさんに謝りなさい」

「何でですのよ!」

「コヤキとオウリのステータスがものを言ってるぜ。お前のステータスに比べると雲泥の差だ。謝っとけ謝っとけ」

「別に謝らなくてもいーですよ〜。うちが気にすることなんて、なーんにもないので〜」

「なっ、なんですってー!」


 この人さっきから切れ散らかしてるけど、煽り耐性ないのかな?

 黙っていれば見た目可愛い顔をしているのにね。


「それで、レナードさんたちがついて来ること、空叶の気持ち的にはどうなの?」

「別パーティーとしてならいいのかなって思う。おうりは?」

「こやきがさっき言ったように、オレも空叶の意思を尊重するよ」

「うん、ありがとう、おうり」

「話はまとまったね〜。細かい部分のすり合わせは旅の道中にその都度していけばいいよね。うちとおうりは条件さえ守ってもらえればそれで良いんで〜」

「条件は必ず守ります。ソラト様、どうぞよろしくお願いしますね」

「こう見えて俺は口が堅いから安心して欲しい! 今後ともよろしくな!」

「レナードさんアルガーさん、これからよろしくお願いします!」

「わたしも一緒についていくのー!」

「めっちゃ却下で〜」

「ひどいですわー!」


 勇者の仲間ではないが、別パーティーとしてだけど旅の同行者が増えた。

 爺様の孫である彼らとなら、空叶も安心して過ごすことが出来るだろう。

 オレも魔剣士としての立ち振る舞いを意識しないといけないかな。魔剣士の人になんて会ったことないけど、そこは想像でやってみよう。


 それから、こやきと空叶とで諸々の緊急会議をしておかないとね。

 必要な設定の位置付けをしておかなければ。


「明日には出発しようと思いますが、お二人はどうしますか?」

「ソラト様の意向であればそのように動きますよ。ただ、例の神殿の結界魔力の解析が明日までに終わるかどうか……」

「そんなもん旅の合間にやればいいだろ」

「その結界についてはうちが何とかするので、もう解析しなくても大丈夫ですよ〜」

「え、あ、そ、そうなんですか。分かりました」


 レナードさん、解析頑張っていたんだろうな。

 表情には出さないけど、へこんでいるのが何となく感じ取れる。


「それでは改めて、明日からの旅をよろしくお願いします!」

「「お願いしまーす」」


 この後少し雑談をして、オレたちは宿へと戻った。








「さてさて、只今より明日からの旅について、緊急会議を行いたいと思います」


 宿屋へ帰ってきてから食堂で昼食を食べた後、オレの部屋にて三人で緊急会議を開催している。


「レナードさんとアルガーさんが別パーティーでついてくることになったのですがー、設定どうしようか? いつから仲間になったのかとか絶対聞いてくる気がするんだよね」

「そうだね~、うちとおうりは口が達者だからどうとでもかわすことが出来るけど、天宮くんはそうもいかないよね〜」

「だから前もってある程度設定を決めておこうって話。我々がこの世界じゃない世界から喚ばれたっていうのは、有り無しでいったら有りだとオレは思うんだけど」

「それはうちも同意〜。気付いたらこの世界にいたってことでいいんじゃない。うちら二人はその時の場所がローダン国じゃなくて、適当に南の方とかってことにしようよ」

「そんで偶然勇者と会ったら同級生だったので、そのよしみで仲間になった、こんな感じかな?」


 もし我々のことを聞いてきたなら、全部が嘘の話はしないことにした。

 嘘の話に本当の話を少し混ぜれば、その話には信憑性が増すっていうし。

 それに大人なレナードさんとアルガーさんは話を濁しても、察して必要以上に勘ぐることはしてこなさそう。


「――よーし、これで一通りの設定は固まったね。後はその都度のらりくらりとやり過ごそう」

「分かった」

「りょーかーい」


 緊急会議にておおよそのことを決め終えた。

 これでひとまず安心できる。

 ついでにオレが思っていることを、こやきと空叶へ話すことにした。


「流れで言うんだけどさ、チートステータス持ちのイレギュラーなオレら二人がいたことは、この世界に何一つ残したくないと思ってる」

「おうり、どーゆーこと〜?」

「偽造ステータスでのオレとこやきの二人が勇者の仲間でいることは今は別にいい。もう知ってる人たちがいるからね。けど、最終的には勇者が一人でこの世界を救ったことにしたいんだ」

「おうり〜、ちょっと何言ってるのか分かんないよ〜」

「えーっとね、つまりー、魔剣士と旅芸人が勇者と共に戦った仲間だったってことを、この世界の歴史には刻みたくないってだけの話。だって勇者より遥かに強い仲間のことなんて、説明を求められたりしたら空叶が困るだろうし、伝えていくのも面倒でしょー。それに消息を絶ったとして探しに行くように命令される人が可哀想だし。変な話だけど、勇者の仲間の弟子になりたいなんて考えちゃうちびっこが出てこないとも限らないし」


 大袈裟な言い訳じみたことを言ったが、これは魔王を倒した後の勇者の未来を見据えて出した自分なりの結論。


 この世界が平和になった後の話なんだよね。

 勇者がこの世界に存在し続けることを前提としている。

 勇者の空叶が元の世界へ戻らない場合を想定した話になるんだ。


「おうりが伝えたいことは何となくだけど分かった気がする〜。先のことを見越したんだね〜」

「おうり……、俺のために考えてくれているんだ……」

「……うん。……まあね。このことは二人に伝えておきたかったから。ただ、その具体的な方法については今は何も思いついていないし、もしかしたらガラッと考えが変わっちゃうかもしれないけど」

「大丈夫大丈夫、その時はその時だよ。今までもなんとかなってきたんだから、これからもなんとかなるし〜」

「オレもそう思ってる。二人とも、聞いてくれてありがとね」


 話し終えたけど、なぜか涙腺が緩みそうになる。

 胸が少しつかえる感じがするのも何でだろう。

 

 この話のことは、しばらくは考えないことにしよう。

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