第42話 感謝されてた
「あの紹介文はうちが考えたわけじゃないよ〜。旅芸人としての話を聞かれて、ちょっとだけ盛って伝えたら、なんか伝説の旅芸人になっちゃってたね」
朝、食堂でこやきと会い、昨日の演奏会で面白すぎた紹介のことを、いの一番に聞いてみた。
「昨日の昼の部で初めて聞いた時は笑いを堪えるのに必死になってたよ。風に吹かれー、のくだりで既にヤバかったし」
「あれはうちも結構ヤバかったよ」
「夜の部からは大笑いしなかったけどね。それにしてもアンサンブルの演奏の中にこやきのギターが自然に溶け込んでて、凄く聴き応えがあったよ。練習頑張ったんだねー。ソロの弾き語りも最高だったし」
「ありがとー。楽団の人たちみんな良い人で、丁寧に教えてくれたのもあるかな〜。今日も頑張ってくるね〜」
「うん、オレも客席から全力で楽しませてもらうね!」
こやきはいつも通りのにこにこした顔でいる。
緊張という言葉を知らないと思える程、こやきってば度胸が座っているんだよね。
全国スクール漫才グランプリの時もいつも通りのこやきだったから、それが日常の延長線のように感じて、オレも特に緊張はしなかった。
流石に漫才を終えた後は二人してテンションがめちゃくちゃハイになってたけど。
漫才を終え楽屋へ戻った瞬間、顔を見合わせて腹を抱えてゲラゲラ笑ったのを思い出す。
あの時の言葉にならない高揚感は一生忘れないだろう。
また早く漫才の舞台に二人で立ちたいな。
束の間のオフの日が過ぎ、イザークさんのお子さんたちと会う日を迎えた。
昨日まで行われたミニオーケストラの演奏会は全公演大成功に終わっている。
突然ゲスト出演した伝説の旅芸人のことは瞬く間に噂になり、楽団自体も更に注目を集めているらしい。
ちなみにこやきが生成したギターについては誰も見たことのない楽器だったため、かなりの質問攻めにあったそうだが、最後の最後まで何一つ誰にも教えることはしなかったそうだ。
でもそのうちこの世界でも、どこかで誰かが生み出すんじゃないかな。
可能性は無限大だからね。
「皆さんお待ちしておりました。どうぞ中へ」
三人でイザークさんのお宅へ到着し、出迎えを受けた。
来たのは2回目だけど、ため息が出るほど立派なお家だ。
「ミニオーケストラの演奏会、楽団の方々の演奏はもちろん素晴らしかったのですが、魔法を使用した舞台演出には驚かされました。とても感動しました」
「ありがとうございます。ソラト様にそう言って頂けると本当に嬉しいです。コヤキ様も急遽の出演感謝しています。ギターでしたよね。あの楽器での演奏は初めて聴きましたが、凄く良かったですよ」
「いえいえ〜、うちのほうこそ楽しませてもらいました〜。楽団の方々にも凄く良くしてもらいましたし、また機会があれば宜しくお願いしまーす」
こやき、それなんていう社交辞令?
少なくともオレたちにまたの機会なんてのはないに等しい。
まあ、決めつけてしまうのは良くないか。
「子供たちには声を掛けているのでもうすぐ来ると思います。少しお待ち下さいね」
この間と同じ客間へと通される。
イザークさんが退室し、しばらく待っていると廊下の方から複数の足音が近づいてくるのが聞こえてきた。
自動で魔力感知が働き、ルジアスの塔の爺様から感じた魔力と似ていることが分かる。
「失礼します」
最初に部屋に入ってきたのは、長身でスラリとしたスタイルの男性。
少し長めでストレートの茶髪、知的で落ち着いた印象の顔立ちをしている。
「待たせてしまって悪いな」
次に入って来た男性はがっしりした精悍な体格の男性。見た感じアスリートっぽさがある。
赤い髪色が印象的で、引き締まった顔立ちだ。
最初の人とすごく似ているような気がするけど、もしかして双子なのかな?
ていうか、二人とも爺様の面影が随所に見られるよ。確実に孫ってことが分かる。
「初めまして、空叶と言います。本日はお時間を作って頂きありがとうございます」
「おうりです。初めまして」
「初めまして〜、こやきでーす」
「私はレナードと申します。あなたが勇者ソラト様ですか。お噂はかねがね伺っております。お会いできるのを楽しみにしていましたよ」
「俺の名前はアルガーだ。よろしくな。ルーファスの爺さんのとこに行ったんだってな。親父から手紙の話は聞いてるぜ」
見た目通りというかなんというか。
さておき、ステータスをこそっと確認してみよう。
爺様の孫ってことで、前から気になってたもんね。
丁寧な言葉遣いのレナードさんの肩書きは、賢者の上級職の大賢者か。
魔法使いと僧侶の魔法とスキル以外にも、補助系のスキルなどを修得している。
レベルもやっぱり凄く高いね。
くせっ毛赤毛のアルガーさんは魔法戦士なんだね。
確かに前衛で頑張る戦士っぽい。
魔法使いのスキルと魔法のほかに、剣術や斧術、槍術など武器での攻撃スキルもしっかりある。
レナードさんのレベルと同じくらいだ。
二人のステータスを見たけど、爺様が言ってたようにレベルだけを見れば空叶はまだまだ及ばないことが分かった。
あくまでレベルの数値だけならね。
能力値に関して言えば、勇者のその力はこの人たちを超えていると思うんだよね。
チートな装備品のおかげで。
ただ、そのほぼほぼチートな力に空叶がまだ慣れてないから、それは実戦経験をもうちょっと積めばいいんじゃないかな。
「レナードさんとアルガーさんっておいくつなんですか〜? ちなみにうちらは全員16でーす」
「皆さんお若いですね。私とアルガーは22歳です」
「あと3ヶ月もすればまた一つ歳をとるけどな。ちなみに俺たちは双子なんだぜ。レナードのほうが不本意だが兄ってことになってるけどよ」
「そーなんですね〜。どうりで似てるって思いました〜」
「不本意とはどういうことですか、アルガー」
二人はこやきの何気ない質問に嫌な顔しないで答えてくれる。
似ていると思ってたら双子だったんだ。性格は真逆っぽいけど。
オレの兄さんたちも双子だけど、性格は似たり寄ったりなんだよね。
「ルーファスさんから聞いたのですが、冒険者として活動されているそうですね」
「ああ、だいぶ前から俺たち兄弟三人は、自分たちのレベルを上げる修行の為に各地を巡り歩いているんだ。そして悪しき力を持つ者を見つける為にも動いている」
「旅の途中にローダン国からその悪しき力を持つ者を打ち倒す為、勇者様が一人旅立ったことを聞きました。同じ目的を持つ私たちは勇者様の力になりたいと思っています」
「あ、ありがとうございます!」
「うちらは悪しき力を持つ者のことを魔王って勝手に呼んでますよ〜」
「魔王、ですか。そうですね、その呼び方の方がしっくりきますね」
「呼びやすくていいな、魔王って」
今まで至るところで悪しき力を持つ者のことを魔王呼びしていると伝えてきたが、しっくりくるとか呼びやすくていいなんて感想は初めて聞いた。
「魔王の居場所のことですが、教えてもらえませんか!? 自分は旅に出てから魔王の手掛かり一つ掴めず、何も成し得ていませんし……」
「そんなことはないでしょう。魔王により絶望に打ち拉がれていた人々が、勇者という存在が現れたことで再び希望を抱くことが出来たのですから」
「レナードさん……」
おおおおおー、これぞ人生経験豊富な大人のアドバイス、だよねー。
自分絶対そんなこと言えない、というかその言葉すら思い浮かばないよ。
悲観気味だった空叶の表情が明るくなっていく。
欲しかった言葉を貰えたからなんだろうね。
いつだかこやきに言われた「同年代のアドバイスなんて、ただしょっぱいだけ」っていうのが良く分かるー!
「レナードの言う通りだな。それにソラトが立ち寄った町や村の何か所かで、付近の魔物が一掃されていたって話を聞いたな。その地域ではその後魔物の被害が減ったみたいで、勇者に物凄く感謝してたぜ」
「「えっ!?」」
「えー、それってもしかして、おうりの〜……」
それ、絶対にオレが開催している恒例の一人魔物狩り祭りのことだ。
勇者の手柄になっているなら、いいか。
真実は闇の中に葬っておこう。
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