第33話 何故なになんで
買い出しを終えて宿屋へと戻ると人だかりは少なくなっていた。
奥の方で空叶が町長の話を聞いている。
町を訪れた勇者に魔物からの被害のことや、町の人々が魔王に怯えていることなどを話しているのだろう。
今まで時間差をつけて宿に入った時にも、このような同じ光景を何度も見ている。
その都度勇者って大変だよなー、なんて思って通り過ぎてたけど、今回は最初から一緒に行動しているので気付いた。
結構長い時間拘束されてないか?
我々が買い出し行ってから1時間くらい経ってるよ。
人の話を聞くのは疲れるよね。しかも初対面の人だよ。
話の内容も、特に楽しい話じゃなくてほぼネガティブな内容だし。
だけど空叶は嫌な顔一つせずに聞いている。
自分だったらとてもじゃないけど無理だ。
勇者って忍耐強くて凄いな、しか言えない。いや、これは空叶自身の忍耐力が凄いんだな。
「買い出し行ってきたよ〜。イザークさんの所行けるよ〜」
「二人ともお疲れ様。町長さん、お話の途中ですがすみません」
「いえいえ、聞いて頂きありがとうございました」
空叶は我々の方へと颯爽と向かってくる。
笑顔なんだけど、少し疲れてる感じがする。
「イザークさんの家までの道は教えて貰ったから大丈夫だよ。さあ、行こうか」
「お、おう⋯」
何だか高いリーダーシップ力が発揮されているぞ。
またまた勇者補正なのか?
「そうだ、天宮くんに伝えとくけど、うちらの偽のステータスちょっと変えたからね」
「そうなんだ。俺、解析スキルはないから見ることは出来ないけど、二人が決めたことだから何も心配はしてないよ」
「おおー、オレらすっごい信頼感を得てるようだぞー」
「だって二人は俺の味方だからね」
わぁー、めちゃめちゃいい笑顔で言ってきたー。
でもなんか顔赤くしてるけど。
きっとこーゆーのを世の中では、イケメンスマイルって言うんだろうな。
「あ・ま・み・や・くーん、そのイケメンスマイルは他所ではあんまりやらない方が良いからね。女子たちが大喜びで騒ぐ原因になるよ。前にも言ったけど誤解させちゃうし」
「いや、意識してるわけじゃ……」
「やるんならおうりだけにしといて〜」
「えっ、何故にオレに何で?」
「勘違い女子を生み出さないためだよ〜」
「よく分からんけど、分かった。こやきが言うならそうなんだろうね。空叶もそんなに気にすることはないからね。笑顔なのは良いことなんだからさ」
「う、うん。ありがとう」
何となく空叶へフォローを入れておく。
こやきは時々空叶へ説教的なことをかます時がある。
その後空叶は少し気落ちしてしまうから、オレがたまーにフォローをしてたりする。
でも、こやきの洞察眼は結構凄いんだよね。
自分は感情が昂りやすいから、こやきからの言葉で何度も事前にトラブルを回避できたことがある。
頼りになる親友って、ありがたいね。
「ここがイザークさんのお宅みたいだね」
「すごーい、大きなお家だね〜」
爺様の次男、イザークさんのお宅の大きさに圧倒された。
所々から何かの魔力を感じるけど、何の魔力だろう?
ルジアスの塔で爺様が発動させていた遠隔透視の魔力に似ているような気がする。門から家の玄関まで少し距離があるからそれなのかもしれない。
「わっ、門が自動で開いた!?」
「あ、やっぱりこの魔力、遠隔透視魔法だったんだ〜」
「入ってもいいんだよね。行ってみよう」
自動で開いた門を抜けて進んで行く。
手入れが行き届いている庭を通り、石畳の道なりに玄関へと向う。花壇にはたくさんの花々が綺麗に植えられていた。
「ようこそいらっしゃいました。勇者様ですね。町長からお話は聞いております。とうぞ中へお入りください」
家の玄関に立っている男性が我々を見て声をかけてきた。どことなく爺様に雰囲気が似ている。
「初めまして、イザークさんですか? 空叶と言います。お忙しい中今日はお時間を頂きありがとうございます。この二人は僕と一緒に旅をしてくれている仲間です」
「イザークさん初めまして。おうりと言います」
「こやきでーす。初めまして〜」
「ご丁寧にありがとうございます。私がイザークです。立ち話もなんなんで、中へどうぞ」
「お邪魔します」
「「お邪魔しまーす」」
イザークさんに招き入れられて、我々は家の中へ入った。
「どうぞ、楽にして下さい」
客間に通されて席に着く。
大きな家だったから少し身構えていたけど、中は落ち着いた色合いの家具やインテリアが飾られて、温かさが感じられる空間だった。
「早速ですが、勇者様が何か私に御用があると町長から伺いましたが」
「はい。まずはこの手紙をご一読いただけますでしょうか」
「これは……、もしかして私の父からの手紙ですか?」
「そうです。僕たちはルジアスの塔でルーファスさんにお会いしました。そこで悪しき力を持つ者、僕たちは魔王と呼んでいますが、その魔王の居場所の話をルーファスさんにしました」
「……ふむ、手紙によると私の子供らが魔王の居場所の目星が付きそうだと父に話していたと。何か聞いていれば勇者様に教えて欲しい、とのことですね」
「はい。ルーファスさんのお孫さんに直接会って話を聞くことができれば良かったんですが、どこにいるのか分からないとのことだったので」
「そうですか……」
手紙を読み終えたイザークさんは深く息を吐いた。
その時客間の入り口が開く。
「皆さんお茶を淹れましたので、どうぞ〜」
「あ、ありがとうございます。えっと……」
「私の妻のルルーです」
「初めまして〜、勇者様のお話はよく子供たちから聞いています〜。ご本人にお会いできるなんて凄く感激しますわ〜」
「ルルーさん初めまして、空叶と言います」
「初めまして、おうりです」
「こやきでーす。初めまして〜」
「あら〜、勇者様には既にお仲間がいるんですの〜? あの子、がっかりするわね〜」
「ルルー、今その話はいいから」
イザークさんの奥様、なんだかふわふわな感じで可愛い人だ。
だけどあの子ががっかりって何のことだろう。ちょっと引っかかる。
「勇者様方、冷めないうちにどうぞ」
「いただきます」
「「いただきまーす」」
テーブルに置かれた湯気の立つティーカップをゆっくり持ち上げ、そっと一口飲む。温かい紅茶がじんわりと喉を温めていく。
「この紅茶、とっても美味しいですね〜」
「うふふ、ありがとう〜。とっておきのを淹れましたの〜」
なんか、こやきとルルーさんってちょい似てる気がするんだけど。口調とか雰囲気とか。
「勇者様、子供たちは旅先での話をその都度私に教えてくれるのですが、魔王の居場所については聞いたことがないですね。今は少し長めの旅に出ていて、その間に父の所へ寄って話をしたのでしょう」
「そうなんですね。ちなみにいつ頃戻られるか分かりますか?」
「旅に出たのが二ヶ月前だから……、おそらく今週末あたりには帰って来ると思います」
「そうですか。おうり、こやきさん、俺は帰って来るのを待とうと思うんだけど、どうかな?」
「オッケーだよ、特に問題なし」
「うちも〜」
「イザークさん、僕たち待つことにしたので、帰って来たらお会いしたいこと伝えて貰っていいですか?」
「分かりました。子供たちが帰り次第ご連絡しますね」
直接話を聞くために、我々は爺様の孫たちの帰りを待つことにしたのである。
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