第30話 お年寄りから学ぶ
「次男の名はイザークと言う。住んでいる町は先程地図で教えた場所じゃ。会ったのならこの手紙を渡すとよい。何かしらお主らの力になるようにと書いておいた」
そう言って爺様は封書を渡してきた。
こやきが受け取り、全員でお礼を言う。
「お爺ちゃんがイザークさんの所へ移動魔法で連れてってくれたら楽なんだけどな〜」
「コヤキよ、それはいかんな。勇者であるソラトのレベルをもっと上げなければいかんじゃろうて。今の勇者のレベルでは魔王どころか、わしの孫たちにすら及ばぬ」
「爺様が勇者の仲間になっちゃうっていう方法はー? 冗談だけどー」
「オウリ、アホなことを言うでない。わしはもう現役を引退したんじゃ。仲間が欲しいのなら孫たちに言ってみよ。返事はわからんがな」
「俺、魔王を倒せるようになる為に、もっともっと強くなります!」
「うむ、その意気や良し。ソラトよ、頑張るのじゃぞ」
「はいっ!」
ただ魔王を倒すだけならオレとこやきで簡単に成し得ることが可能だろう。
でも、この世界は『勇者』が魔王を倒すということを求めているんだと思う。
世界を巡らずレベルが低いままの勇者を連れて魔王の所へ行き撃破しても、それだと勇者の実績を残すことができないし。
レベルを上げて強くなっていった勇者が必要なんだろうな。
そう考えると、こやきとオレはただのイレギュラーな存在だ。なのでこれからも好きなようにしていこう。
「おうり、そろそろお暇しようか」
「そうだね。空叶も大丈夫?」
「ああ、大丈夫だよ」
「なんと、もう出発するのか」
「うん。お爺ちゃん今日はうちらとお茶してくれてありがとう。凄く楽しかったよ。ここへ来て良かった〜」
「こちらこそじゃ。そういえば、お主らはこの塔へ何をしに来たのじゃ?」
「何しにって、あれ、何のために来たんだっけ? この塔で色々あったから、目的ど忘れしちゃった」
「おうりヤバいね〜。お宝が気になるって自分が言ったんじゃん」
「あ、そうだったそうだった。防具屋のおじさんが、ルジアスの塔の魔物が守っていたお宝に質の良い輝石があるって話をしてたからだ。でももうその輝石がなくても大丈夫になったからいいかな」
ちらりと空叶の左腕に着けてある腕輪に視線を送る。視線に気付いた空叶がオレに向けて笑顔を送ってきた。
「ソラトの状態異常耐性が100%にできている装備品は、もしやオウリ、そうなるようにお主が輝石に付与を付けて作ったアイテムだというのか?」
あ、ヤバいな。
チートステータスでの生成スキルで作ったことを知られるのは良くない気がする。
なんて言ってごまかそうか。
「それについてはー、えーと、えーと、えーと……」
「いや……、詮索するのはやめておこう。だが、オウリ、そしてコヤキよ、自分たちの力のことは他の人間たちに知られないようにするのじゃぞ。強大な力を持つ者は時に疎まれ、嫉妬や畏怖の対象になることもあるからの」
「お爺ちゃん……」
「爺様……」
「年寄りからのただの助言じゃ」
爺様は穏やかな表情で話してきたが、どこか寂しげな感じがした。
多分、過去に何かしらのことがあったのだろう。
実際爺様のステータスは今まで会った人たちの中では、ずば抜けて高いレベルだし。
「爺様、助言ありがとう。オレら全員人の嫉妬心の怖さは既に身を持って知ってるんだ。嫉妬の心って誰もが持ち得る感情だけど、だからこそ厄介なんだよね」
「そうそう、その感情をコントロールできない一部の人たちは陰湿なことしてくるからね〜。例えば毒とか毒とか毒とか〜」
「お主ら、若いのになかなか壮絶な体験をしておるようじゃのう」
実際元の世界でオレとこやきは毒入りのプレゼントを貰っているし、空叶だって旅の初日から毒の入った水筒を渡されてたし。
「そうだ! もう一つこの塔に来た目的思い出した! 偽物勇者のことがあったんだ!」
「偽物勇者とは何のことじゃ?」
「爺様、聞いてよ。実はさ……」
オレたちは爺様に町で見た勇者の名を語る偽物たちのことを話した。
「なんじゃと! 町長はこの塔の鍵をそいつらに渡したというのか!?」
「町長さん魅了魔法にかかっちゃってたからしょうがなかったんじゃないかな〜」
「むぅ……。確かに今の町長にはステータスは無いからのう。それにしても、この世界で唯一無二である勇者の名を語り悪事をなすとは……」
「そーなんだよー! オレ、すっごい腹立ってさー、あいつらより塔に先回りしてお宝を先に回収しておこうと思ってたんだ。それか入り口を開けれなくしてやろうかとかとも考えた」
「そういえば入り口の扉の鍵に何か魔法で仕掛けておったな。宝箱の部屋の扉にも同じ魔法かけたじゃろ」
「偽物勇者への嫌がらせと思ってちょーっとだけ。爺様の住居って知ってたらやらなかったよー。ごめんなさーいー」
「よいよい。後でその魔法を解析する楽しみができたわい」
偽物勇者たちへの嫌がらせのために生み出した魔法を解析しようなんて、この爺様、引退したけど知識に凄く貪欲なんだなあ。
「偽物勇者をやり込めるためにオレとこやきは外見だけでも勇者になりきってみたんだけど、よくよく考えると自分らが表立って出ていくのはマズイのかなって思ったよ。やっぱり本物の勇者がぶつかっていかないとダメなのかなー?」
「だけど偽物のほうは天宮くんよりかなりレベルが上なんだよね〜。まともに正面からやり合ったら絶対勝ち目はないよ」
「なんか、ごめん……」
「なんで空叶が謝るわけ? 元はと言えば偽物の奴らが悪いんだから。気にすんなー」
「そうだよ〜。不届き者にはいつか必ず天罰がくだるんだから」
「でも正直そのいつかの天罰を待ってられないくらいムカついてるんだけどねー。だけどこれといった仕返しが思いつかなくてさー」
倒すだけなら瞬殺できるし。かといって、いつぞやの盗賊たちにしたように状態異常にするのも今回はなーんか違う気がする。
自分があいつらに求めているのは、勇者の名前を勝手に名乗ったことに対して心の底からの謝罪をして欲しいこと。
そして二度と悪いことはしないと誓ってもらいたい。
それから町の人たちへの弁明も。
「お主ら、その偽物たちのことはわしに任せてくれんかのう? 町長から鍵を奪っとる時点でわしも無関係ではないんじゃし」
「えー、でもー」
「勇者の名を語ったことを心の底から謝らせて、徹底的に後悔させてやろうぞ。当然町長含め、町の者たちへの誤解も完全に払拭してやるわい。安心してわしに任せるんじゃ」
「うーん……」
「おうり、お爺ちゃんに任せてもいいんじゃない? うちらはうちらでやることがあるんだし」
「そうだねー。そんじゃあ偽物たちのことは爺様にお願いするよ。ちなみにどんなやり方なの?」
「そりゃあじわじわチクチクと精神崩壊に繋がる方法でじっくりと……、なんじゃが、聞かない方がよいぞ」
「お爺ちゃん悪い顔してる〜。存分にやっちゃって〜」
爺様、人並み以上に知識があるから、きっとオレなんかじゃ考えつかない方法があるのだろう。
生殺しにでもするのかな?
「じゃ爺様、オレたちは行くよ」
「そうか。若き勇者ソラトよ、何かある時は力になってやろう。まあ、オウリとコヤキの二人がいれば心強いとは思うがの」
「ルーファスさん、ありがとうございます!」
「帰りは屋上から移動魔法を使うとよい。三人とも、気を付けて行くんじゃぞ」
「お爺ちゃんも元気でね〜。長生きしてね〜」
「爺様、体に気をつけて過ごしてね」
そしてオレたちは爺様と別れ、ルジアスの塔から立ち去った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます