第29話 味方だよ
「そういや爺様ってなんでこの塔にいるの? 町の人たちの話じゃあ、この塔の一番上には魔物が封じられてるって話が伝わってるみたいなんだけど。魔物の巣窟になってるってのも聞いたよ」
「単純なことじゃ。余生を静かに過ごしたくてこの場所を選んだだけのこと。もともとこの塔はわしの家が昔から所有しているものじゃ。だから住んでおる。魔物の話は人避けの為に弟子らが流しているただの噂話にすぎん」
「この塔の鍵を代々町長の家が管理しているっていうのは〜?」
「あやつらの家系には弟子の一人がおるからな。なにかあった時の為に一応鍵を預かってもらっているだけじゃ」
独居老人が家の鍵を親族に預けておくっていうあれか。
それならもしもの時も安心だよね。
紅茶を啜りながら、テレビのニュースで取り上げられていた高齢化社会問題の一人暮らし高齢者のトピックを思い出す。
「お爺ちゃん一人で過ごしてて寂しくないの? うちの祖父母たちは孤独を一番嫌がってるから、地域の一人暮らし高齢者へのサポート活動を進んでやってるんだ〜。うちも時々手伝ってる〜」
「わはははっ、コヤキは優しいのう。なあに、弟子たちや知り合いが時々ここに来るから寂しくはないぞ。それに魔法や知識の探求で日々忙しくて、寂しさを感じている暇などないわい」
深く刻まれた皺が目尻に寄り、顔全体が柔らかくなる。
年相応の笑い方で普通の爺様って感じだ。
「しかし初めてじゃ、下からここまで上がって来た者たちは。知り合いや弟子たちは皆移動魔法を使い屋上から来るからのう。だから行動を覗かせてもらっていたんじゃが、不快にさせていたならすまなかったな」
「いやいや、元は爺様の住居へ不法侵入しちゃってるオレらが悪いんじゃん! 人んちの鍵を勝手に開けて中をうろうろして、あげくにお宝くすねて、マジですいませんでしたー!」
「ルーファスさん、大変申し訳ありませんでした!」
「お爺ちゃんごめんなさーい!」
自分の家に知らない奴が入ってきたら、そりゃ警戒するよな。誰が来たのか確認するのは当たり前だよね。
全員で全力謝罪をする。
「これもお返ししときまーす……」
収納魔法から宝箱の中に入っていた鍵2つを出して、そっと爺様に渡す。
こやきと空叶もそれぞれ宝箱に入っていた物を出した。
「そんなに縮こまらなくて良いぞ。素直な若者たちじゃな。鍵は返して貰うが、輝石と金貨はお前たちの旅に使うがよい」
「お爺ちゃんありがとう〜!」
「あ、ありがとうございます!」
「よいよい。どれ、もう一切れパウンドケーキを頂けるかな?」
「いくらでも食べてね〜。紅茶のおかわりもどうぞ〜」
自分もおかわりの紅茶を貰う。カップに注がれ、ふわっと立ち上がる紅茶の香りが凄く良い。
どうやらこやきが魔法でティーポットの温度を調整しているようだ。
熱々の紅茶を飲みながら爺様のステータスを見てみる。
流石遠隔透視の魔法やらなんやら色々使える魔力の持ち主。レベルはやっぱ高いなー。
体力値は若干低めだけど、修得した魔法やスキルも数が多いね。
「爺様ってどうやってここまで高くレベル上げしたの? やっぱ世界を旅して修行とか?」
「オウリよ、お主解析スキルを使ったな。まあよい。そうじゃのう、若い頃は師匠からたくさんのことを学び、その後は各地を巡り歩きひたすら経験を積んで、弟子ができた頃にはレベルは自然と高くなっていた。要は地道な努力が一番というわけじゃな」
「へ、へえー、そうなんだー」
地道に経験値を獲得してレベルを上げる……、そうだよねー、普通はそうだよねー。
みーんなそうやって自分自身を地道に高めていくんだよねー。
「お爺ちゃん世界を巡り歩いたんだ〜。じゃあさ、魔王の居る場所とかって分かったりする〜?」
「こやきっ! ド直球! ド直球すぎるってば!」
「えー、だって未だに手がかりの手の字も分かってないんだよ〜。世界を巡り歩いたお爺ちゃんなら何かヒントをくれるかもって思って〜」
「だからって勇者の仲間じゃないオレたちが聞くのはどうなのよ!? 空叶だって頑張ってるのにさー!」
「おうりってばー、そんなに怒んないでよ〜。天宮くんが頑張っているのは知ってるよ。うちはただお爺ちゃんが知ってたらいいな〜くらいの気持ちで聞いただけだよ〜」
「だけどっ! ……そう、だよね。こやき、ごめんっ」
「大丈夫、おうりのことはよーく分かってるから」
「うん……」
つい大声を出してしまった。
魔王の情報集めは空叶が動いている。
オレもこやきもそれは勇者のやるべきことという認識だったからだ。
確かに現時点で魔王の居場所の有益な情報は手に入れていない。今まで町や村を巡って得られたことは、魔物から受けた被害のことくらいだ。
感情が昂ったのは、こやきが気軽に爺様に聞いたことで空叶の頑張りが足りないって言われたような気がしたから。
こう思っていたことは、こやきに分かられているんだろうな。
「コヤキとオウリ、お主ら大層仲が良いんじゃな。その絆は大事にするのじゃぞ」
「はーい!」
「相方を大事にするのは当たり前じゃん!」
爺様の言葉に我々が答えると、うんうんとにこやかな顔で頷いていた。
あ、これは孫に対して見てくる表情だ。
うちの爺様も時々そんな目をしながら、兄さんたちや自分のことを眺めてきてたね。
「して、コヤキの言う魔王というのは、悪しき力を持つ者のことかの?」
「そうだよ〜。うちらの中じや悪しき力を持つ者なんて呼び方は長ったらしいから魔王って呼んでるの」
「ルーファスさん、俺も知りたいです! お願いします!」
空叶が頭を下げて頼みこむ。
こいつもこいつなりに思い悩んでいるんだろうな。
勇者としてのプレッシャーによく耐えていると思う。
「魔王の居場所はわしは分からん。じゃが、わしの孫たちならもしかすると知っているかもしれん」
「そうなんですか?」
「孫は七人いるのじゃが、冒険者として活動しているのが三人だったかのう。その孫たちがこの間遊びに来たのだが、その時魔王の居場所の目星が付きそうだと言っておった気がするんじゃ」
「本当!? そのお孫さんたちに会って話を聞いても大丈夫? どこにいるの?」
「構わんが、今あやつらがどこを旅しているかは……、おお、そうじゃ、その孫らの親であるわしの次男夫婦を訪ねてみるといい。何か話を聞いているやもしれん。どれ、わしから一筆書いてやろう」
爺様はそう言うと奥の部屋へ入っていった。
魔王の居場所特定へ一歩前進したって感じ。こやきが聞いてくれたおかげだね。
こやきと目が合い、グッジョブの意味を込めて握りこぶしを作り、親指を上に向けて笑顔でサムズアップをして見せた。
こやきも同じように親指を立てて見せる。
「こやきさん、ルーファスさんに魔王のこと聞いてくれてありがとう」
「いーのいーの。うちらは仲間ではないけど味方なんだから。ね、おうり」
「そうだね、そうだよね。オレたちは空叶の……、勇者の味方なんだよ」
こやきの言葉がストンと腑に落ちた。
自分らの肩書きは『勇者を守りし者』。
だけど『勇者』の仲間ではない。
何かそれで今までずっと立ち位置がふわふわしている感じがしていたけど、味方って言えばいいんだ。
ああ、そういうことかと、物凄くしっくりした。
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