第28話 ミステリアスな女は魅力的

休憩をしたオレたちは上の階を目指して再び歩き出す。

 

「ねーねー、うちらのこと覗き見してる人ってどんな人なんだろーね」

「魔力変換して魔法をいじることが出来るくらいなら、うーん、熟練の魔法使い系みたいな?」

「見た目は幼女型のご高齢おばば様魔法使いとか〜?」

「それはこやきの婆様のことじゃん。初めて会った時、あのロリ顔童顔は衝撃的だったよ。年齢聞いて気絶するかと思ったわ」

「あはは〜、うちのおばあちゃんメイク上手だからね」

「あれが特殊メイクでもないから余計怖かったわー」

「じゃあ塩顔イケメンの魔法使いとかだったらどうかな〜、あ、扉だね。ここが最上階?」


 塔の中を巡り、いくつかの階段を登りきると目の前には何の装飾も施されていない重厚な扉があった。

 今までと違うのは、この扉の中から微かに魔力の脈動が感じ取れること。確実に高い魔力を持った誰かがいることは間違いない。


「あれ、この扉、鍵がかかってないや」

「誰も来ないからじゃない、こんな所には〜」

「そうだよねー、こーんな埃っぽい所には誰も来ないよねー。それじゃあ開けるよー」


 扉の前に立ち、大きく息を吸い込み全身の力を右足に集中させる。そして思いっきり靴底で扉の中央を蹴り抜いた。


「突然ですがー、おっじゃましまーす!」


 大声で挨拶をしながら扉を蹴り開けると、そこは質素な部屋だった。

 中にいる人物が突然の乱入に驚いて振り向く。


「なんじゃ! 暴力的な侵入をしおってからに! 心臓が止まるかと思ったわ!」

「いやー、こういうのは最初が肝心かと思って。……なーんだ、ご高齢の爺様だったかー。扉蹴り開けてすいませんでしたー」


 声を張り上げてきたのは、手入れがされている白髪と白髭の爺様だった。

 上質で分厚く、しなやかな織物で作られたローブを着ている。襟元や袖口の刺繍はただの模様ではなく、魔力を安定させるためなのか、特殊な糸が使われているようだ。


「ほんとーすいませんー。うちの子やんちゃ盛りでー。すーぐ調子乗って悪さするんですよー。後できつーく言っておきますからー。全く、あんたって子はまたこんなことして!」

「いやいや、謝ったじゃん! この爺様にちゃんと謝ったじゃん!」

「謝ったのならばよし!」

「次回最終話! 親子の攻防、今日も我が家は戦場に! 来週も絶対また見てね!」

「完璧なる結末を見逃すでないぞ!」

「あははははっ! ちょっ、またいきなり二人して、ははははっ!」


 ポーズを決めてネタを終わらせた。

 突然始めたネタに空叶が大笑いしている。

 このネタはあんまりウケそうにないと思ってたけど、改めてやって分かった。これを披露するならもっと練り上げないといけない。


「お主らの言うてることはようわからん。それよりどうやってここに来たのじゃ?」

「どうやってって、普通に歩いてきたよ」

「それはそうだが、そういうことではない。宝箱のある三階にお主らが来ていたのは知っておる。その娘とそこの少年が地下に落ちたことも見ていたわい。しかし突然姿が見えなくなったではないか。そっちの娘なんぞ姿がいきなり変わりおって。なんじゃあ、あの口を開けた怪物のようなものは」


 口を開けた怪物のようなものというのは ティラノサウルスの着ぐるみのことだ。

 つい思い出してしまい吹き出しそうになった。

 

 話の内容から、オレらのことを覗き見していたのはこの爺様で間違いない。今のところ敵意は感じないけど、一体何者なんだろう?


「お爺ちゃんが見ていたのはティラノサウルスっていうんだよ〜。見えてたのは実物を小さくして可愛くした着ぐるみだったんだけど、本物はこの塔くらいの大きさだと思う〜」

「ふむ、ティラノサウルスとな。聞いたことがないのう」

「それよりお爺ちゃん甘い物食べれる〜? 折角だからお茶しながらお話しようよ〜。うち、パウンドケーキ持ってきてるんだ〜。紅茶もあるよ〜」


 こやきは収納魔法からきつね色に焼き上がっている美味しそうなパウンドケーキを出して見せた。


「ほう、うまそうじゃな。どれ、お茶をするなら場所の提供をしてやろう」


 そう言うと爺様はパンッと手を叩く。すると木目のテーブルと人数分の椅子が出現した。

 こういった収納魔法の出し方もあるんだ。今度やってみようかな。指パッチンとかでもいいかもしれない。


 こやきは手慣れた手つきで爺様が出したテーブルの上にテーブルクロスを敷き、カップやお皿等準備をしていく。そしてティーポットに茶葉を入れて紅茶を作り始めた。


「今紅茶できるから、おうりはパウンドケーキ切り分けてくれる〜。お爺ちゃんも天宮くんも座ってて〜」


 こやきに言われるがままほんのり温かいパウンドケーキを切り分けていく。

 バターと砂糖の甘い香りが物凄く良い匂いで、それだけで幸せな気持ちになる。


「じゃあこれもみんなで食べようよ」


 自分もつまめるお菓子を小皿に出してみる。生地にチーズが練り込んである一口サイズのスナック。サクサクしてて香ばしいしょっぱい系のお菓子だ。


「紅茶も行き渡ったし、さあどうぞ。熱いから気を付けてね〜」

「いただきまーす」

「うむ、遠慮なく頂くとするかな」

「い、いただきます」


 カップから紅茶の温かさをじんわり感じながらゆっくり飲んでいく。

 温かい紅茶が体の奥まで染み渡る。

 そこへパウンドケーキを一口頬張ると甘さが口いっぱいに広がり、まさに至福。


「このパウンドケーキ、めっちゃ美味しいねー。どこで購入したの?」

「昨日昼食食べた所のカフェで買ったんだ。帰る前に焼き上がったのを見て、何本か買い込んじゃった」

「もしかして、その会計って……」

「流石にこれは自腹だよ〜」

「そ、そうなんだね」


 何となく安心した。これも偽物勇者たちのおごりだったら、ちょっとだけ抵抗あったかもしれない。


「さーて、一息ついたところで、お爺ちゃんに自己紹介するね。うちはこやきって言います。こっちがー」

「おうりです」

「空叶と言います」

「ほう、少年、お主勇者なのか。レベルは、まだまだといった感じじゃのう。状態異常の耐性がいくつか100%になっているのは装備品の影響か。珍しいアイテムを持っておるのう」


 この爺様、空叶のステータスを勝手に見ているな。

 だけど肩書きが勇者だということに全然動じていない。

 伊達に歳をとっているわけじゃないな。


「わしの名はルーファス、しがない魔法使いじゃ。コヤキと、それからオウリ、お前たちは何者じゃ? 状態がどうやってもさっぱり見えん。解錠魔法を使ったのはソラトではなかろう? お湯を出す高度な生活魔法や収納魔法も修得しておるのに、それでいてステータスが無いわけがないじゃろう」

「ふっふっふっ、それはお爺ちゃんにだって教えられないなあ。秘密が女をより魅力的にするんだよ〜」

「そうか、ならば追求するのはやめておこうかの。美味いケーキと紅茶、チーズのスナックも頂いてることだしのう」


 ええー、そんな言葉一つで追求するのをやめちゃうんだ。

 まあ、聞かれても答えることはしないけどさー。

 

 しかし、ずーーーっとこやきのターンじゃん。

 そういや、こやきってお年寄りと心を通わせるの得意だったよね。

 

 人の懐に入るのが上手いというかなんというか、素晴らしい特技だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る