第27話 なぜそれをチョイスした
「それじゃあ、おうり、先に進もう」
「お、おう……」
何の心境の変化か、オレと空叶は名前で呼び合うことになった。いや、特に何も問題ないんだけどね。
でもこれって何だか恋愛シミュレーションゲームみたい。
ただの例えだけど。
友好度や好感度が上がると、呼び名が名字から名前呼びに変わるゲームシステムを思い出して笑いが込み上げる。
「……ふ、ふふふっ」
「おうり?」
「何でもないよ。楽しいならそれでいいんだから」
先程の戦闘で空叶が倒した鎧の魔物の残骸を避けて通路を進む。その先には鍵がかかった扉が行く手をふさいでいたが、解錠魔法を使い押し開く。
扉の先には少し広めの空間に、上へ上がるための螺旋階段があった。
「すっごい高いねー。これ上がっていくしかないよね。こやきのいる場所へ続いてればいいけど」
「そうだね。おうり、先に登って」
「え、空叶が先に立ちなよ。万が一バランス崩した時とかにオレが支えるからさ」
「それは俺の役目だから、おうりが先でいいんだよ」
「あー、うん、分かった。それならそれで……」
役目と言われれば無理にそれを奪うのは忍びない。
果てしないように見える螺旋階段を先にゆっくりと登っていく。
「空叶知ってるー? 階段を登るよりも下るほうが筋トレの効果が高いんだってー。そう言ってたうちの爺様が昔さー、所有している30階建てのタワーマンションの上までエレベーターで行って、そこから階段下りして疲労骨折したことがあったんだよねー」
「す、凄いパワフルなお爺さんだね」
「そういえば空叶って中学の時部活何部だったの? 生徒会長やってて更に部活動もなんて、忙しかったんじゃない?」
「部活はサッカー部に入ってたよ。確かに生徒会の仕事もあって忙しかったね。おうりは?」
「美術部在籍の帰宅部部長だったね」
「うちの中学って帰宅部あったっけ?」
「表側にはそんな部活は存在してなかったよ。勝手に裏側の部活動、闇の帰宅部って名乗ってただけ。このことは知ってる人は知ってるよ」
「や、闇のって……、ふふふっ、あははははっ!」
「おーい、笑いすぎて足踏み外さないでよー」
螺旋階段を登りながら空叶と雑談をする。
話をして気を紛らわせないと。
だって、あと何段登れば終わりに辿り着けるのかとか、上を見ても下を見ても一向に同じ景色が続くこととかで精神が疲れそうになるから。
関節がきしみ、足が鉛のように重くなればその都度回復魔法で癒す。そうして足を動かしなんとか登りきった。
「扉だね」
「うん、扉だ。この塔作った奴、どんだけ扉好きなんよ。しかもここの扉の装飾はハート型のデザインって、一体どんな趣味をお持ちで」
「鍵穴が扉のこっち端とそっち端の2箇所にあるよ」
「全然問題ないよー。鍵開けの魔法の範囲を両方の鍵穴に被るよう広げて発動すればー、ほら開いた」
解錠魔法ダブルがけでガチャリと金属がぶつかる硬い音が響き、扉の鍵が解かれた。
両開きの扉を開けると、そこは宝箱のある元の部屋だった。
「こやきー! 良かったー! ここに戻るようになってたんだねー!」
「二人ともおかえり〜。待ってたよ〜」
オレたちに気付いてこやきが駆け寄ってくる。相方の姿を見てホッとした。
ハート型のデザインが装飾された扉は壁と一体になっており、閉めると扉の形跡は一瞬で見えなくなった。
ここにもそういう仕様の魔法が使われているんだね。
通常の魔法にはそんな仕様効果の魔法なんてない。ということはオレらみたいに魔力変換したり、いじったりして新たな魔法を作り上げたのかも。
その仕様の魔法を我々も作ろうと思えば出来ると思うが、必要がないのでやらないけど。
もしかして覗き見してた奴が作った魔法か?
「こやき、メールで送った件なんだけど、覗き魔はこの塔の一番上にいるんだね」
「うん。塔に入る前には魔力元は感知できなかったけど、所々で残留魔力集めて出所探ってた。おうりが送ってくれたものと合わせたら上からだってのが分かったよ」
「さっすがー。あの後直ぐに覗き見されても見えないように透明化にしたんだー」
「あー、おうりは透明にしたんだ。うちはねー、ティラノサウルスにした〜」
「え? 何と? ティラノサウルス?」
「そうそう。ほら、ティラノサウルスの着ぐるみってあるでしょ。ティラノサウルスレースで着て走るやつ。うちのことを覗き見たら、そのティラノサウルスに見えるようにしてみたの〜。良かったら残留魔力使って見てみて〜」
こやきに言われ指で丸を作り、そこに残留魔力を通してその中から見てみる。するとそこには本当に空気で膨らませるタイプのティラノサウルスの着ぐるみが見えた。
「あははっ! ほ、ほんとに、はははっ、まんまあのティラノサウルスの着ぐるみじゃん! あっはははははっ! めっちゃ動きコミカルー! ひー、苦しー!」
「これにした時に覗き見の魔力から三度見された感覚したんだよね〜」
「ふふふっ、あー笑った笑った。そりゃあそんな面白い物この世界にはないから、向こうも驚いて二度見どころか三度見するわな」
「凄い大笑いしてたけど、おうり、何かあった?」
「空叶も見るー? この指の丸を通してこやきを見るとティラノサウルスの着ぐるみに見えるんだよ。それがめっちゃおかしくてさー」
オレは空叶に覗き魔のことを話しながら指の丸から覗き込ませる。
案の定、空叶も大爆笑。あれを見て笑うなって方が無理でしょ。
何でまたそんな面白いものを選んだんだ。
「ちょっと休憩していかないー? 笑いすぎて喉乾いたー。口の中カラカラー。お腹も空いたー」
一応周辺にがっつりと結界魔法を張り、床に敷物を敷いて座る。こやきと空叶も腰を下ろしてそれぞれ水分補給をし始めた。
ついでに軽く昼食を食べることにする。宿屋の食堂から購入していたハム野菜サンドだ。
収納魔法の中では時が進まないので、すぐ食べれる軽食など数日分買いだめして入れてある。
「この塔の一番上には魔物が封じられているって聞いてたけど、覗き魔、というか誰か人がいるってことになるよね」
パンを食べながら話をする。またチラチラと覗かれている魔力を感じたが、もうそんなに気にならない。
どうせ向こうが見えているのはティラノサウルスの着ぐるみだけなのだから。
「そうだよね〜。しかも遠隔透視の魔法を使うくらいだから、結構魔力高い人かもね〜」
「落とし穴とか扉とか見えなくする魔法も同じ奴だとしたらそうだよなー。でもオレとこやきには関係ないけど。ここまで来たならどんな奴なのか見に行こうよ」
「オッケー。休んだら行こ〜。とーこーろーでー、気になることがあるんだけど〜」
紅茶を飲み干したこやきがいつものにこにこ顔にプラスして、によによした笑みを浮かべて聞いてくる。
「なんで二人がお互い名前呼びになったのかなーって。あー、大丈夫、みなまで言わなくてもいいよ。ちょーーっと気になっただけだから〜」
「あ、そうだよ。名前の呼び方についてだけど、空叶がこやきのことはこやきさんって呼んでいいかって」
「えー何ー、別にいいよー。上若林は7文字もあるからね〜。でもうちは天宮くんの呼び方は変えないよ」
「いいんじゃない? 良かったじゃん、空叶」
「う、うん。じゃあこやきさん、これからもよろしく」
「こちらこそ〜」
空叶にはにこにこといつもの表情を向けるが、オレの方には未だにによによした笑みをしてくる。
いや、オレが発端じゃないからね。
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