第24話 塔にとうとう着いた

ルジアスの塔はいつ建てられたのか分からない程昔からあった。塔の最上階には魔物が封じ込められているという伝承だけが語り継がれている。

 塔の中には魔物が集めたお宝があるという噂を聞いて向かう者もいたが、誰一人戻ってきた者はいなかった。


「塔の中は魔物の巣窟になっているって防具屋のおじさんが言ってたよ。それに塔の中にはいくつも鍵がかかっているって話もされたー」

「うちらには何一つ問題じゃないけどね〜」

「そりゃそうだ。あ、天宮戦闘終わったね。おー、今の戦いで一つレベル上がったじゃん」


 ルジアスの塔へ向かう途中魔物と遭遇し天宮が戦っていた。それを見守っている我々二人。何だかこの立ち位置って部活とかスポ少の試合を見守る親御さんみたい。


「ねえねえ、あれだよね、ルジアスの塔って」


 こやきが指をさす方向を見る。

 確かに平原の向こう側に聳え立っている塔が見えた。ここからだと塔へはまだ距離があるようだが、塔の大きさが何となく認識できる。


「塔の攻略か……。ヤバい、今更だけど楽しそう。ドキドキしてきたよ」

「おうりゲームやってても探索とか好きだもんね〜。いーんじゃない、楽しも〜」


 塔まで行く間、魔物とは一度しか遭遇しなかった。辺りからは確実に魔物らの気配を感じ取っていたんだけれども、襲ってくることはなかった。

 もしかしてオレとこやきが勇者ファッションしているからか、なんて一瞬思ったけど単に天宮のレベルが上がったからだと解釈する。


 その後もオレたちは景色を眺めながら歩き、高く聳える塔の入り口へと辿り着いた。





「見上げすぎて何か首が痛いんですけどー」

「めっちゃ大きいね〜。塔の周りから魔力の残滓がうすーくだけど漂ってるよ」

「封印されている魔物が強い魔力を持っていたのか、もしくは中に潜んでいる奴からなのか。いずれにしても開けてみないと分からないよね」


 塔の入り口は大きな鉄扉で閉ざされていた。表面にはこの開けられない扉をこじ開けようとしたのか、無数の傷跡が残っている。


「押してもダメ、引いてもダメ、まさか日本家屋のような横にスライドさせる引き戸かーってやってみたけど違ったね。やっぱり純粋に鍵を使って開けるしかないみたい。しかもさー、鍵穴が3つもあるなんて、どんだけセキュリティ強くしてるんだよって話」

「鍵をあの町の町長の家で代々管理しているっていうのも、かなり厳重な対策だよね〜」

「そうだね。他には鍵開けの魔法を使う方法しかないし。でもこの魔法って、かーなーりレベルを上げないと修得できない魔法らしいね。あの偽物勇者たちでも、ステータス見たけどまだ覚えられていなかったし」

「そういえば春日野さんと防具屋行った時店員が、宝目当てで塔に行った人たちが誰も戻っていないって言ってたけど、そもそも塔に入れていないならそれってどういうことなんだろう?」

「この塔は危ないから近づくなーって意味を込めた話じゃないのかなー。よくあるよくある」

「鍵、開いたよー。なんと解錠魔法トリプルがけ! ちょっと面白かった〜」


 話をしている間にこやきは扉の鍵を魔法を使い開けていた。

 重い鉄扉を押し開け足を踏み入れると、外からの明るい日差しは遮られていて、内部はひんやりとした空気に包まれている。


「おおー、塔って感じー。でも、めっちゃほこり臭いー」

「おうりー、この扉閉めといたけど、鍵にあの魔法かけてていーんだよね?」

「うん、おねがーい」


 偽物勇者たちがこの塔に入る為には絶対鍵を使わなければならない。

 なので、嫌がらせ第一弾!


 鍵穴に鍵を入れて回して開いたと見せかけ、鍵穴から鍵を抜いた瞬間にまた鍵が掛かってしまうという嫌がらせを実行。

 解錠魔法を魔力変換していじった魔法である。

 鍵を開けた筈が何故か閉まっている、これは地味にストレスだよね。


 同じ鍵穴に10回以上鍵を差し込んで回せばこの魔法が解ける仕組みにはしておいた。せめてもの優しさ。

 でも、まさか3つも鍵があるとは思ってなかった。だから合計30回はガチャガチャと鍵を回さなければならない。


 これの対処策としては、魔法の仕組みに気付いて魔法の効果を進めて終わらせる魔法とか、呪いを解く魔法を応用して解除する方法など、一応逃げ道的なのを作っておいた。

 だーけーどー、気付くかなー気付くかなー?

 鍵穴に鍵を差したままなら開けられるようになんてのも仕組んでみたけどね。


 でも、勇者を騙ったことは、こんなものじゃ済ませたくない。


「魔法かけといたよ〜。偽勇者たちの反応が直で見れないのは残念」

「サンキューこやき。じゃあ探索しに行ってみよう。魔物が出たら天宮よろしくー」

「ああ、分かった」



 ――なんか天宮、返事が頼もしくなってきた気がする。実戦経験もそれなりに積んでレベルも上がって、確実に勇者として成長している。最初、毒を喰らってへろへろだった頃とは比べ物にならない。



「おうり、どうかしたの?」

「ううん、何でもないよ!」


 こやきが不思議そうな顔で覗き込んでくる。邪念を振り払うかのように静かに呼吸をしてから再び歩き出した。




 塔の中は巨大な迷路のようだった。通路は四方八方に枝分かれしており、進んでは戻ってを繰り返して内部を隈無く散策する。

 進んだ先が行き止まりになっている所もあり、その時のがっかり感は半端ない。角を曲がってしばらく行くと何もないなんて、一体何のためにこの空間を作ったのだろう。

 せめて宝箱の一つでもあればテンション上がるのに。


 そういえば自分、現実の巨大迷路のようなアトラクションは昔から好きじゃなかったな。だってリアルだと徒労感と疲労感が凄いんだもん。


「階段があるよ〜」

「一階は隅々見回ったと思う。上に行こう」


 階段を上がり次の階も歩き回った。ここも一階と同様で、何度も行き止まりにぶつかり、その度に引き返す。

 この塔はもしかしてまだ建設途中だったんじゃないかな?

 こんなに行き止まりばっかりでおかしいおかしい。


 二階もほぼ端々見て歩いたけど宝箱はなかった。


「あそこに階段発見〜。魔物出ないね〜」

「上の方からはうすーくだけど気配感じるけどねー」


 そして三階へと上がる。そこは下の階とは少し造りが違っていた。階段を登り上がった先は広い通路、そしてその先には扉が閉まっている。

 そういえば塔にはいくつも鍵がかけられているって防具屋のおじさん言ってたな。


「外から見た高さ的に、この階が最上階ってことはないと思うけど。でも突然の扉ってことは、もしかして宝物庫だったりしてー」

「お宝気になるね〜。早速扉解錠してみよ〜」


 この扉の鍵穴は2つ。なので解錠魔法をダブルがけして難なく突破。

 そして嫌がらせ第二弾! 内容は第一弾と同じ。

 入室後、嫌がらせ魔法はこやきがかけてくれている。


「この付近に魔物の気配はなしっと。おー、あそこに見えるは念願の宝箱じゃん! しかも三つ!」


 扉の先は天井が高く、広大な部屋だった。高い壁に沿って並ぶ小さな窓から光が差し込んでいる。そして部屋の中央に宝箱が並んで置かれていた。


 近づいて見てみると、大きさは大型のキャリーケース程。宝箱は見た感じ凄く頑丈そうでごつごつしている。埃がめっちゃ積もっていて、誰にも開けられていないことが分かる。

 

 実際に宝箱を見て物凄く心が掻き立てられているよ。

 何度も行き止まりでがっかりしまくったこれまでの苦労が報われた気がする。

 

「この中には何が入っているんだろうね?」

「天宮も宝箱に興味持った感じ?」

「そうだね。ゲームやってて宝箱見つけるとワクワクしてたし」

「へー、天宮もゲームとかやってたんだ。意外ー。後で話聞かせてよ、なんのゲームやってたとかさ。オレ、ゲームはちょっと詳しいよ」

「ねー、宝箱開けてみようよ〜。三つあるから一人1個開けることにしない? うちはこの左側のでいいや」

「じゃあ俺は右側で」

「オレは真ん中か。今鑑定スキルで見たけど中身は魔物じゃないよ。トラップもなし。鍵も付いてない」


 宝箱を開ける前には、事前に安全チェックを絶対しようと決めていた。びっくり箱的な物は嫌いなので。


「じゃあ、せーので開けてみよ〜!」

「分かった、せーの……でだね。フライングはなしね」

「フライングしたら中身ごと宝箱が爆発する魔法かけといたからね〜」

「「えっ!?」」

「うそうそ、じょーだんじょーだん」

「いや、こやきならやりかねないって一瞬思ったよ」

「ふふふっ、ちょっと面白い……」


 早く開けてみたいと思いつつ、三人で一斉に宝箱を開けるってのも、協力プレーみたいでなんだか良いね。

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