第23話 ネタ披露は計画的に
「さて、仕度も終わったし、そろそろ行くかな。今日も天気良くていいねー」
部屋の窓から空を見ると澄んだ青空が広がっている。気持ちの良い朝だ。
ついさっき食堂でこやきと天宮と合流し、一緒に朝食を食べてきた。朝食後には一旦部屋に戻ってから出発することにしていた。
「忘れ物はないね。ジャージも魔法でキレイにして収納魔法に入れたし。よしっ」
マントを翻して振り返りドアを開ける。すると隣の部屋からこやきも同時に出てきた。
「えー、おうりの服どこぞの騎士様っぽくて超格好いいじゃん! 濃い水色のマントに金細工の留め具がマッチしてめっちゃ粋だね!」
「こやきだって素敵なデザインじゃん! 薄緑色のマントにしたんだ。丈短めのAラインでふわっとしててかわいー! 裏地がドット柄ってのもお洒落すぎー!」
顔を見合わせ、お互い着ているものの感想を言い合う。
この世界に来てからジャージ以外の服に着替えたのは初めてだ。こやきもずっと制服のままで過ごしていた。靴はローファーだったから、流石に歩きやすいスニーカーを生成して履き替えてたけど。
前に何度か別の衣類を生成してみたけれど、デザインを決めないでお任せ生成にしてたからか、どれもしっくりこなかったんだよね。服はあるけど着たい服がない状態みたいな。
なので結局着慣れているいつもの服でいいやってなっていた。
今回みたいにざっくりとだけど希望を入れてから生成してみたら、なかなか良いデザインの物が出来上がった。もちろん着心地の良さも当然重要視して生成。
だけどかなり手間がかかって面倒くさい作業だったからしばらく衣類生成はしなくていいかな。ジャージや中着は既に同じものを何枚も生成してあるし。
元の世界では服屋に行ったりカタログを見たりして、既にあるものから着たい服を選ぶことが普通だった。だから希望のデザインを自分で考えるってことが余計面倒く感じたのかもしれない。デザイナーとかってゼロから新しいものを作ってて凄いと思う。
「サークレットはこの形で大丈夫かな? 天宮のに寄せて生成したんだけど」
「いいと思うよ。石の色も赤で合ってるし。うちのは付け心地重視にしたからストレスフリーなんだ」
「それオレもしたー。着心地付け心地は大事だよねー」
昨日突如思いついた閃き、それはオレらも勇者になること。この方法で偽物勇者に一泡吹かせることができると思ったのだ。
本来なら偽物を本物がぶった斬る展開が望ましいんだけど、今の天宮のレベルではそれはかなり難しい。
だから我々が勇者になっておこうという作戦。本物の勇者からお墨付きを貰えば、それはもう本物と見なされるんだから。偽物に偽物と言われる筋合いはないってこと。
その為にはまず形から入る必要があると考え、生成スキルを使いこやきとお互い勇者っぽい格好の服をそれぞれ作ることにした。
生成時に必須項目だったのは、頭に付けるサークレットとマント。こやきのマントが思った以上にふわふわして可愛かったことにびっくり。生成テーマ的には同じキーワードの筈なんだが。
まあ、自分のも想像以上の出来栄えなので良しとしよう。後は頭にサークレット付けとけば、見た目は完璧勇者だと思う。
「早速天宮に見てもらって、本物勇者からのお墨付きを貰おう!」
ワクワクしながら待ち合わせ場所の宿屋の入り口へと向かった。
「おーい、天宮ー」
宿屋のフロントに部屋の鍵を返し、入り口近くに立っている天宮に声を掛けた。
マントを着用し、背中に剣を背負い、サークレットを付けている本物の勇者。いつもの見慣れている姿に安心した自分がいる。
「あ、春日野さ……、えっ、ええっ! 二人ともどうしたの、その格好ー!」
「「じゃじゃじゃじゃーん!」」
「えっと……、春日野さん? 上若林さん?」
「はい、どうもー! 魔王ですっ!」
「魔王の相方の勇者でーす!」
「突然なんですけどもね、自分ちょっと勇者をやってみたいなと思いまして」
「ほう、魔王のあなたが勇者をやってみたいとは、これはまあどうしたことか」
「いやはや実は我、昨日魔王をリストラされたんですよー。その理由が、あまりにも仕事が完璧すぎて、他の魔王たちの成長機会を奪ってしまうからとのことでー」
「そうなんですねー。では履歴書を見せて下さい」
「はい、面接よろしくお願いしますー」
「志望動機に勇者となって世界を平和にしたいとありますが、あなた、昨日まで真逆の魔王だったんですよね?」
「はい! 世界を支配しようとしている魔王として従事してまいりました!」
「ちなみにあなたの後任の魔王にはどのような方が入られるのですか?」
「知り合いの勇者が面接に来ていましたねー」
「もしや先週退職代行使って辞めたあの勇者か!?」
「それでー、我の面接結果はー?」
「採用です! 勤務時間は0時から24時までとなります!」
「勇者の勤務時間エグぅー! めちゃくちゃブラックやん!」
「「どうもありがとうございましたー!」」
観客1名だけど、即興漫才を披露してみた。
朝から漫才披露するのって、自分たちのテンションがかなり上がっていないと正直キツいんだよね。でも今朝は服装チェンジした効果で若干ハイになってるから出来た。
さて、天宮の反応はどうかな?
「……い、息が……、くくくっ……、ふふっ……、だ、だめだ……、ふはははっ……」
お腹を抱えてしゃがみ込んでいる。体全身がビクビク震えていて、もはや笑っているのか苦しんでいるのか判別がつかないような状態。
ていうか、ふはははって、魔王の笑い方か。
「もう……、ふふふっ……、無理……。あはははははははっ!」
「ちょっ、天宮笑いすぎだろっ!」
「だ、だって、ははははっ! 面白くてっ、ふふふっ!」
「とりあえず外に出よ〜。他のお客さんの視線、流石のうちでもキツいわ〜」
笑い続ける天宮を連れて、我々は急いで宿屋を後にするのだった。
「天宮、落ち着いたかー?」
「……うん、ピークは過ぎたみたい。思い出すとちょっとまだ笑いそうになるけど……」
通りにあるベンチに座り、天宮が落ち着くのを待った。自分らの漫才でめっちゃウケてくれたのは嬉しいんだけど、笑い死にされるのだけは勘弁。
天宮の前で丸々一本ネタを披露するのは今後禁止だな。いや、前もってネタ見せをいつするとか言えばいいのかもしれないけど。
「天宮くん大丈夫〜? はい、お水だよ。ゆっくり飲んでね」
「上若林さんありがとう」
「ねえ天宮、オレらの格好って勇者っぽくない? 実はさ……」
漫才のことはともかく、オレとこやきが衣装チェンジした理由を正直に全て天宮に伝える。話を聞いた天宮は穏やかな笑みを浮かべていた。
「偽物の人たちのこと、俺の代わりに怒ってくれててありがとう。嫌な思いさせてごめん」
「いや、天宮が謝ることじゃないよ! 悪いのは全部あの偽物勇者なんだから!」
「……正直そのことは自分でもどうしたらいいのかわからなかった。でも俺にはすごく力強い味方がいるから大丈夫って思ってる」
「……天宮」
「……天宮くん」
「二人とも、その格好よく似合ってるよ。凄く素敵だね。勇者っぽいってのはサークレットのことかな? しっかりお墨付きあげるよ」
「よっしゃっ! モノホンからお墨付き頂きましたー!」
「頂きましたー!」
「あはははっ、急に何そのノリは。ふふふっ」
本物の勇者からお墨付き貰ったし、これで我々二人も勇者となりました。
期間限定だけどね。
「さあ、それじゃあ行きますか! ルジアスの塔へ!」
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