第21話 願いを込めて作ってみた
「おうり〜、お待たせ〜」
「こやきー、お待たされー。それじゃ宿屋に入ろうか」
防具屋を出た後ちょうどにこやきからコールが入る。
偽勇者たちの情報収集もあらかた済んだので合流するとのことだった。偽物たちの話は人がいる場所で誰かに聞かれると厄介になるかもと判断し、一旦宿屋の部屋に行くことにした。
「夕食は18時過ぎから21時頃までに食堂でどうぞだってさ。はい、各自の部屋の鍵。じゃあオレの部屋に集合でいいかな?」
「オッケーだよ〜。荷物は収納魔法に全部入れてるけど、どんなお部屋なのか見てから行くね〜。天宮くんは部屋の入り口に結界魔法かけるの大丈夫?」
「前に魔法のかけ方教えて貰ってからはもう大丈夫だよ。俺も一回部屋に行ってから春日野さんの所へ行くね」
かなり前に天宮の部屋に夜中痴女が押し入ってきたことがあり、早急に安全対策会議を開いた結果、普段オレらが使ってる結界魔法侵入不可バージョンを早々に天宮に伝授した。
それ以降安心して休めているとの報告を受けている。
「そうだ、二人が来る前にさっき買った輝石に付与してみよう!」
自分の部屋に入り割とふかふかなベットに腰掛け、収納魔法から防具屋で購入した輝石を一つ出して眺めてみる。
1個30万で買った輝石は白い色で手のひらに収まるサイズ。ほのかに光を発している。鑑定スキルを使い、この輝石が紛い物ではないことを再確認する。
あの防具屋のおじさん、オレみたいなガキにもちゃんと丁寧に説明してくれたし、お高い輝石も渋らず出してくれた。顔は若干怖かったけどいい人だったなあ。
「さて、付けれる付与は4つだったね。幻惑は絶対とー、麻痺と眠り、混乱、毒への耐性も付けたいなー。即死とか呪いとかも……、まてよ……」
この輝石1個につき付与は4つ付けられる。同じものが2個あるから、合わせると付けれる付与は倍の8つになるよね。
付与を付けた2個の輝石を合わせれば全てとはいかないが、ほとんどの状態異常を完全に防ぐことができる超超強力な装備品が作れるよね!
「できる気がする! いや、絶対自分できちゃうな! よし作ろう!」
もう1個の輝石を出して両手で握る。
付ける付与は選定した結果、即死、幻惑、麻痺、混乱、眠り、毒、呪い、魔封じの8つにした。手の中にある輝石に魔力を流し込み、生成スキルを発動させ作り上げていく。
――天宮が勇者として、これからも無事に旅ができますように。天宮一人での戦いが今後スムーズにいきますように。戦闘への加勢はぶっちゃけめんどいので、しなくて良くなりますように。
という願いを込めながら生成をして、出来上がったのは2つの石がはめ込まれているデザインが良い金属製の腕輪。
試しに付けてみると肌に心地よく馴染む。そして見た目よりもずっと軽い。長時間着けていてもストレス無さそうだ。
付与は確実に付いている筈だが、自分が付けても既にチートステータスで全耐性を持っているのでいまいち効果が分からない。
こればっかりはどうしようもないね。天宮で試さないと。
「おうり〜、来たよ〜」
「どーぞー」
「お、お邪魔します」
ドアノック後、こやきと天宮が部屋に入ってきた。一人部屋なので三人入ると一気に狭く感じる。こやきはオレの隣に、天宮は椅子に座った。
早速出来たての腕輪を天宮に渡す。
「天宮用にすっごいもの作ったよ。付けてみてー」
「腕輪? あ、凄く軽くて付け心地がいい」
「でしょー。それはねー、さっき防具屋で買った輝石を早速加工したんだ。8つの状態異常を完全に防げると思うよ」
「おうり〜、輝石って何〜?」
「輝石のこと、まとめてこやきへ情報送るね」
「へー、色々付与を付けれる石なんだ〜。天宮くんが付けてる腕輪はおうりお手製のなんだね。ステータスに付与耐性表示されてる。即死、幻惑、麻痺……、8個が付与耐性率100%って、なんだかチートっぽいね」
「こんな凄い腕輪、俺が貰っていいの?」
「何を今更ー。天宮の為の物なんだから、むしろ付けてくれないと困る。さて、効果を試そうか。こやき、天宮に魔法よろー」
「えっ?」
「りょーかーい。じゃ最初は幻惑魔法ね〜」
こやきは天宮に向かって幻惑魔法を発動する。だが魔法はキンッという音がして弾かれ天宮にはかからなかった。
「すごーい、ほんとに無効化になった〜」
「輝石って凄いよねー。次は眠りと混乱と魔封じ試して。それだけやれば確認オッケーだし」
「即死魔法は〜?」
「んー、付与付けてあるけど……、なんか即死魔法に抵抗が……」
「大丈夫だよ〜。じゃそれもやってみよ〜!」
「えっ、俺、即死魔法もかけられちゃうの!?」
「だ、だ、だいじょーぶ、だと思う……」
「ええー……」
状態異常の攻撃で天宮に一番受けて欲しくないのは一撃で戦闘不能になる即死だった。輝石に付与を付ける時にも最初に付けた付与。どれもちゃんとしっかり付与を付けたから問題ないと思うんだけど。
こやきは躊躇なく天宮に次々と魔法を放つ。そして最後に即死魔法も発動したが、一つもかかることなく魔法は消失していった。
「全部完璧に防いだね〜。即死魔法も全然大丈夫だったよ〜。凄いの作ったね、おうりってば」
「良かったー。天宮、その腕輪肌見放さず大事にしてね」
「分かった。ありがとう春日野さん。ずっと大切にするよ」
嬉しそうな表情で左手首にある腕輪を触る天宮を見てホッとする。作って良かったと心から思えた。
でもでも内心バクバクしたよ。即死魔法ちゃんと防げて良かったー。
いや、今さら自分の生成スキルに自信がないわけじゃない。実績もあるし胸を張れるレベルなことは確かだ。だけど即死魔法はなんか、ほら、イメージ的にも苦手っていうのがあるから。
だけど自分の目で効果を見たので、これで安心して戦闘見学ができるぞ。加勢に入る頻度も減るよね、きっと。
一息つくために温かい紅茶をいれた。こやきと天宮にも作って渡す。一口飲むごとに身も心も落ち着いていくのが分かる。
今の今まで感情が高ぶっていたからなー。ずっとテンション上がりっぱなしも良くないね。リラックスする時間は意識的に持たないと。
「そういえばオレと天宮は街ブラ途中屋台でお昼食べたけど、もしかしてこやきはまだだった?」
「食べてきたよ〜、中央通りにあるこの街1番の人気らしいカフェで」
「あ、そうなんだ。何食べてきたの?」
「えーっとね、サラダ付きの香草とお肉のワンプレートと、ふんわりパンケーキ、それからプリンとケーキと果物のセット、あと岩塩と蜂蜜が混ざったドリンクだよ。このドリンクが甘じょっぱくてクセになる美味しさだったよ〜」
「凄いねこやき。ここぞとばかりに堪能しまくったねー」
「だって、ただだったからね〜」
「えっ? 何て? ただ?」
「うん、うちはお金出してないよ〜」
こやきはいつもと変わらずにこにこして喋っている。まさかこやき、チートステータスの何かを使って無銭飲食したとか?
「言っとくけどチートステータス使って無銭飲食したわけじゃないからね。全部奢りで食べてきたんだから。偽物勇者たちの」
「「えっ!?」」
オレも天宮もこやきの話にびっくりする。
あの偽物勇者たちのおごりって一体どーゆーこと?
「あいつらねー宿屋で散々自分上げな話をしまくってから、女の子たち連れて今度はカフェでずーっとへらへら話ししてたの。そしたら、ここは自分らが出すからみんな好きなものを頼んでいいよーって言ったから、じゃあ遠慮なく〜って好きなの頼んでみた」
「そ、そうなんだ。それからー?」
「食べ終わったらさっさと店を出てきたよ。女の子たちはまだキャーキャー言ってたけど」
「ふふふっ、上若林さん、ふふっ、面白い……」
天宮が下を向き肩を震わせて必死に笑いを堪えている。
確かにその光景を思い浮かべると、こやきの行動はシュールすぎて逆に面白いな。
グッジョブ、こやき。
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