第19話 出てくるよね偽物は

「そろそろオレらも町に入ろうか」

「そうだね〜。天宮くんが先に行って割と時間過ぎたもんね」


 次の町に到着し、我々は入り口前で天宮と別行動をとった。勇者は一人で旅をしていることにしているので、町や村では時間差を付けて出入りをしている。


 早速オレたちも町の中へと向かう。

 頑丈そうな木製の門が開いており、そこから石畳の真っ直ぐな道が伸びているのが見える。民家やお店が立ち並んでおり、活気が溢れていた。


「この町の周りに魔物よけの魔法がかけられてるね。割と大きい町だから可能だったのかな」


 この世界の町や村は、魔物の襲撃から守るため境界を示すように周囲を囲っている所が多い。場所により巨木を並べただけの簡素な木の柵だけだったり、丸太を組み合わせたものや石垣で強固に造られていたりと様々。

 囲いの建築費もただではない。防衛の為とはいえ、この町のように魔物避けの魔法もかけている所は稀だ。魔法をかけることにだって、それなりにお金がかかる。それだけそこが栄えている場所なんだと認識できる。


 見張りの人たちに挨拶をして町の中へ入ると、人々がバタバタと騒がしく行き交っている。これは見慣れている光景だ。

 世界を救う勇者様が自分たちの街に訪れたので、一部のミーハーな住民のテンションが上がって騒いでいるだけ。

 まるで芸能人の追っかけみたいだ。

 

「勇者様が中央の宿屋に来ているらしいぞ!」

「是非一度お姿を見なければ!」

「お仲間様たちも素敵な方々って話みたいよー!」


 この町にも勇者のことが国から事前に伝達されているようだ。伝達事項の内容は知らないけど、きっと勇者の旅の支援をお願いしているんだろうな。

 あの王女様なら前もってやってくれてそうだ。


「ねー、おうり。さっき通りすがった人が言ってたの聞こえた〜?」

「あー、毎度お馴染み勇者様が来たぞー的なことでしょ」

「お仲間様たちも素敵な方々〜って言ってた人がいてさ〜、おかしくない?」

「仲間って、えっ、ちょっ、おかしいおかしい。オレらも行ってみよう!」


 街の入り口にある案内板で場所を把握し、勇者が来ているという宿屋へと足早に向かう。この町には宿屋が2軒あるようだが、町の中央にある宿屋の人だかりを見てすぐにそこだと把握した。


「うわぁ、いつもより人が多くね?」

「この街結構規模が大きいからじゃない? とりあえず見に行こうよ」


 人垣を掻き分け、入り口を突破し中へ入ると食堂の方から男たちの話し声と複数の女性の黄色い声が聞こえてきた。


「その時勇者である俺が素早く剣を抜いて魔物を一撃でやっつけたってわけよ」

「すごーいー、勇者様かっこいー!」

「お仲間の賢者様も武闘家様も素敵ー!」

「もっとお話聞かせてー!」

「これこれ、そんなに騒いでは勇者様方に失礼であろう。街の者たちが申し訳ありません」

「いいんですよ町長さん。勇者の仲間である僕たちのことも迎え入れて頂きありがとうございます。食事と今晩の宿も提供して貰えて感謝します」


 主に女性陣に囲まれている自称勇者とそのお仲間二人。この男ども三人見た目的に10代ではなさそう。20代か、30代? 

 町長は何を見て勇者と判断したんだろうか?


「それで、勇者様方は私どもの街で管理しているこちらの鍵をご所望と伺ったのですが……」

「おおっ、これがルジアスの塔の鍵ですか! ずっと探していました!」

「勇者様はルジアスの塔へ何故行かれるのですか? あの塔には封印されし魔物が眠っているだけとのことなのですが……」

「俺たちの手でその封印されている魔物を倒し、この街に本当の安心をもたらしたいんです!」


 ――こいつらばっかじゃないのー。どんな魔物かは知らんけど、封印されてるならそのままにしとけばよくないかー。


「そうですか、大変ありがたいことです。それならばこの鍵をお貸し致しましょう。よろしくお願いしますね」

「はいっ、町長さんありがとうございます!」


 ええーー、町長そんな簡単に貸すんかーい。ありえなーい。いやマジでありえないよ。

 それに今こいつら一瞬だけど目を合わせて悪い笑みを浮かべたよね。見たぞ見たぞ。こいつら勇者の名前を語る悪党だ、と思う。


「おうり、ここでの情報収集はうちにまかせて」

「こやき?」

「天宮くんの所に行ってあげて」

「そうだね、分かった。じゃ後でコールね」


 こやきに言われ、混雑している宿屋を出て天宮の気配をスキルで探る。偽勇者一行のくつろぎ具合からして、天宮がこの町に入る前より先に来ていたっぽい。

 どの街でも勇者として取り扱われてたから、今回対応されなくて、へこんでないといいけど。


「見つけた。おーいっ、天宮ー!」


 街の中心にある噴水広場の縁石に、天宮は一人ポツンと座っていた。何をしているわけでもなく、ただ俯いて座っている。

 オレの呼び掛けに気付くと顔を上げ、いつもの柔らかい笑顔を見せた。


「春日野さん……」

「天宮、お前何して……」


 思わず言いかけた言葉を噤む。

 今までの町や村ではこいつは否応なしに『勇者』として扱われていた。そのことはずっと一緒にいたから知っている。それが今回この街では先に偽勇者が現れるイレギュラーが発生した。

 推測するに、今の天宮はどうしていいのかわからなくなっているんだろう。そんな表情になっている、ような気がする。


 今まで店に寄ったことがないって言ってたっけ。

 だったら……。


「天宮、今から一緒に街ブラしよう!」

「え、街ブラ!?」

「そう、街ブラ。オレとこやきはいーっつも街ブラしまくってるから、今日は天宮とオレが街ブラする日! これは決定事項だからいいね!」

「……う、うん」


 返事はしたが、突然すぎて驚いている。そんな天宮の顔に近づき、少し小声で話しかける。


「今日くらい勇者を休んだっていいと思うよ。オレが許す。これも外してさ」


 頭にいつも付けているサークレットを了解を得てないけど外し、天宮に渡す。


「無くさないように収納魔法でしまっておいて。背中の剣とそのマントも取っ払っちゃえ! 街ブラは基本身軽の方がより楽しめるよ! 万年ジャージで手ぶらな街ブラ上級者の自分が言うから間違いなし!」

「……ふふっ、あははっ! 春日野さんには敵わないなぁ! あはははっ!」


 何か分からないけど笑えたようなので良し。笑えることは良いことだ。天宮は笑顔で剣とマントも収納魔法にしまいこんだ。


「そうだ、こやきにコール、よりメールにしておくか。あのクサレ偽物たちの情報収集は何か時間かかりそうだし。えーっと……」


 コールをするように額に指をあてて文章を作りこやきへ送っておく。ついこの間コールに出れない場合どうするかとの話になり、この機能を追加で作った。

 この魔法を使えるのはこの世界で我々二人だけである。


「よーし、とりあえず街ブラ前にやることとして一番大事なのは、宿屋で部屋の確保をすることだよ。この街には宿屋が2軒あるから早速行こう!」

「ああ、春日野さんに付いていくよ。街ブラの先輩、ご指導よろしくね」

「りよーかーい!」


 元気になった天宮にひとまず安心する。

 そしてオレたちは偽勇者が居る方じゃない宿屋へ行き、今晩の宿をお願いした。こちらの宿は通りから離れていて、今夜は静かに過ごすことができそうだ。部屋は個室3部屋が空いていたので予約した。


「部屋も取れたし、魔物からの石もお金に換金できたし、さあ、街ブラに行こう!」


 宿が取れたので、天宮と一緒に意気揚々と街へ繰り出して行く。

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