第18話 備えあれば憂いなし
天宮は勇者として着々にレベルが上がっている。それに伴い使えるスキルや魔法も増えてきて凄くいい感じだ。
「天宮、収納魔法覚えたんだ。しまえる物の個数制限はあるみたいだけど、これで旅が楽になると思うよ。腰に付けてた水筒とか地味に負担じゃなかった?」
「そうだね。満杯に入れてると結構重く感じてたよ。戦闘中もちょっと気になってた。春日野さんたちが手ぶらでいいなってずっと思ってたよ」
「それはしょうがないね。オレらはチートステータスなんだし。それに自慢だけどオレらの収納魔法には個数制限なんてないんだー」
「うちらは卑怯者なんだからしょうがないよ〜。卑怯者でごめんね〜」
「こやき、その呼び方なんかめっちゃ嫌」
「チートステータスを卑怯者って、あはははっ!」
「……未だに天宮の笑いのツボが分からんわ」
次の街へ移動中、いつもの様にオレたちは他愛もない話をしながら歩いていた。魔物が現れたら天宮が戦う。オレとこやきは手を出さずに見守っている、というスタンスは変わらない。
ただ、あまりにも劣勢な場合や、毒、麻痺、眠りなどの状態異常になってしまった時には速攻で加勢に入る。
戦闘不能になった際に使う魔法はオレもこやきもあるのだが、絶対に戦闘不能にはさせない気でいる。
だってやっぱり嫌じゃん。同級生がそうなってしまうのは。
リアルでそんなのは見たくもない。
「魔物来たよ〜。古びた鎧が動いてるのと、杖を持ったたぷたぷした奴が2体。あれは魔力持ってるようだから、天宮くん魔法に気を付けてね」
「分かった!」
魔物の気配にこやきが先に気付き、天宮に伝えると、すぐさま背中の剣を抜きながら魔物の群れへと駆け出していく。
「出てくる魔物が段々強いのになってるってことは、魔王に近づいているってことなのかな?」
「どうなんだろうね〜。魔王の力で魔物が凶暴化してるらしいから、距離的なことだけで考えればそうなのかも」
「だけどさー、魔王のいる場所がまだ分かってないよねー。ここらへんにいるよーみたいなヒントとか手がかりがあればいいのに」
「まだ先は長いってことだね〜。気楽に行こ〜。それに〜……」
「こやき?」
「うちらの肩書きは『勇者を守りし者』なんだよ。『勇者』の仲間じゃないってことは、おうりが一番よく分かってると思うんだけどな〜」
「……うん、理解してるよ。これは『勇者』の旅なんだよね」
こやきの言葉がグサリと胸に突き刺さる。
自分は勇者ではない。勇者の仲間でもない。
本物の勇者は魔王を倒すために一人で旅をしている。
勇者の仲間になれた筈の可能性を消して、このシナリオにしたのは紛れもなく我々自身だ。
――大丈夫、ちゃんと分かってる。勇者がやるべきことには手は出さない。サポート係としてこれまで通り動くだけなのだから。
「おうり、天宮くんちょーっと劣勢っぽいよ。ステータスには表示されないけど、幻惑魔法にがっつりかかったみたい。命中率かなり下がって全然違う場所を攻撃してる」
「魔法の耐性低いからなー。あのままだとまずいからオレ行ってくるね」
「気を付けて〜」
幻惑魔法にかかると、辺り一帯もやがかかったように視界が不透明になってしまい、敵の位置が分からなくなってしまう。更に幻覚をも見せてくるらしい。
前に盗賊団に発動したのも幻惑魔法だったけど、あれは魔力変換を行って自身の恐怖の対象物を見せるようにしたもの。本来の幻惑魔法は、基本命中率を低下させるための魔法である。
思い返すと結構色々魔法やスキルをいじって使っちゃってる。
でも、いいよね別に。
基本がわかっているから応用することができるってなもんだし。知識を知恵に変えて、効果的に活用しているだけですから。
人はそれを向上心と呼ぶ、のかは知らないけど。でも向上心は大事。
「先に倒すべきは、こいつ!」
戦闘場所へと駆け付け、天宮に幻惑魔法をかけたであろうたぷたぷしている魔物目掛けて長剣を振るう。突然の乱入者の攻撃に反応できるはずもなく、その魔物は形を崩していく。その真横にいるもう一匹もついでに切り倒す。
残りの魔物は古びた鎧だけ。天宮は何もない所へ剣を振るい続けている。そんな天宮を狙い、古びた鎧の魔物が自身の錆びついている剣を大きく振りかぶる。
「はい、残念でしたー」
鎧の魔物が剣を振り下ろすよりも先に攻撃を行い、この戦闘を終わらせた。魔法を使ってくる魔物が二匹いた今回の戦闘を経て思ったことがある。
魔法使ってくる敵と勇者が一人で戦うのって、ぶっちゃけしんどくない?
いや、純粋に物理攻撃だけの魔物なら、数が多くても物理防御を固めたり回避率を上げればいい。攻略法は至ってシンプルだ。
そして魔法は魔法でも、攻撃魔法ならそれでダメージを受けても回復してすぐ戦闘へ復帰できていた。
だけど今回始めて状態異常系の魔法を使われた。そして結果がこれだよ。今の勇者のままてはダメだ。何か対策を講じねば。
「天宮ー、大丈夫ー?」
「か、春日野さん!? あれ、俺……」
「戦闘は終わったよ。あのたぷたぷの奴に幻惑魔法かけられたから加勢に入った」
「あ、ありがとう助けてくれて」
「いーってことよ。それよりも、緊急会議をしないといけなくなった。こやきー、ちょっとこっち来てー!」
「緊急会議……?」
離れた場所にいるこやきを呼ぶ。そして二人に敵が状態異常の魔法を使ってきた時に備えて、今後どうしていくべきかを相談してみる。
「まぁ、オレらが付いているから最悪の事態には絶対ならないけど。あくまでも勇者は一人で旅をしているっていうことにしてあるわけだから、安心して見守っていれるようにしたいんだ」
「そーだね〜。でも状態異常魔法ってどんなにレベルが高い人でもその魔法にかかる時にはかかっちゃうらしいよね〜」
「だよねー。予防策としては、状態異常への耐性のある装備品を付けたり持っていたりすることくらいなんだろうけど。それか戦闘開始から終了までの間一時的に状態異常にかからなくなるスキルを使うとか?」
「それと同じ様な効果の魔法で結界魔法ってのもあるよね〜。あ、でもどれも勇者は修得できなかった気がする〜。修得するのは確か聖職者系の人たちじゃなかったかな?」
「じゃあしょうがないね。耐性装備かアイテムを探してみるか。オレらの生成スキルでも付与が付くことは付くみたいだけど、ランダムなんだよねー」
前に出会ったシルフィさんたちの衣類一式を作った時に分かったことだけど、生成した時に状態異常への耐性とか付いていたが、自分が狙ってその付与を付けた訳じゃなかったんだよね。
生成したら勝手に付いていたのである。その後望んだ付与を付けれるかこやきと色々試してみたけど、何やっても無理だった。残念。
「天宮くん、今まで寄った町や村にはそうゆうの売ってたりしてなかった?」
「俺、今まで店に寄ったことがないんだけど……」
「「あー」」
行く先々の町や村で勇者はそこの人々から囲まれもてなされていた。それを考えると町や村で勇者が自由に過ごせる時間はなく、買い物をするなんてことは難しかっただろう。
それに旅に必要な物資はオレとこやきが買い出しをしていたし。天宮は旅立つ際に物資を用意して貰ってたよな。
「じゃあ次の街でオレら買い出しの時に防具屋とか道具屋みたいなとこ行ってみるよ。何かしらの情報も聞くことが出来るかもしれないし」
ということで、次の街では街ブラの店巡りの時に行く店の追加けってーい。防具屋とか行かないから、どんな感じなのかちょっと楽しみかも。
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