第11話 そして勇者は寝落ちした
「じゃあうちは薪集めに行きながら、しばらく散歩してくるからね〜」
「悪いねー、お願いしまーす。行ってらー、気を付けてー」
いつもの様に焚き火を囲み三人で夕食を食べた後、片付けを終えたこやきは気を利かせてか魔法で出した灯りと共に森の奥へと入っていった。
天宮は少し離れた場所へ寝床を整えに行っている。その間焚き火にあたりながら座り、炎の揺らめきを眺めていた。
「春日野さんお待たせ」
焚き火の暖かさからボーっとし始めた時に天宮から声を掛けられ、思わずビクッとなる。
「びっくりしたー。眠りかけてたよ。天宮ここに座る?」
自分も座っている厚手のシートをもう一枚出して隣に敷くと、天宮がそこに腰を下ろした。
「疲れてる所悪いね。ちょっと聞きたいことがあってさ」
「……もしかして夕方の手合わせのことかな?」
「えっと、そのことも含める話なんだけど。単刀直入に言うね。オレ、天宮のこと殆ど知らない。こんな世界に来て、勇者になって一人で旅をして、レベルを上げる為に魔物を倒して……、天宮がどんな思いを抱えているのか分からないでいる。だから知りたいと思った。手合わせを頼んできたのも本当の理由が別にあるんじゃないかって思えるし。知らないでいて後悔はしたくないから、良かったら教えて欲しい」
矢継ぎ早になったけど言い切った。もう少し簡潔に伝えれば良かったかもしれない。でもこれが今の自分の率直な気持ちなんだよね。天宮に伝わったかな?
「……俺のこと気にしてくれていたんだね。凄く嬉しいよ、ありがとう」
「いや、唐突でごめん。オレ自身、モヤモヤした時って話を聞いてもらうとスッキリするから。もし天宮もそんな状態だったらオレが話を聞こうと思って。あ、でも言いたくないなら無理しなくていいから!」
「うん……。ありがとう」
「え、あ、うん」
あれ、黙っちゃった。
話、しないの?
やっばい、ものすっごく沈黙が痛い。
もしかして天宮、本当はそういうの言いたくない感じだったのか?
話さないってことは、オレってば実は天宮に信頼されてないのかもしれない。空気読めない、迷惑な奴とか思われていたらどうしよう。
だとしたらヘラヘラと天宮のこと知りたいなんて軽々しく言っちゃって恥ずかしすぎる。でも、もう言った言葉は取り消せないし……。
そうだ、今こそこやきに聞いた効果的な方法を試す絶好のタイミングなのかも。
「あ、天宮、ぎゅっとさせて!」
「えっ!? ぎ、ぎゅっとって!?」
「捕って食うとかじゃないよ。天宮のこと、ハグしても、いいかな?」
「あ、え、えっと……。じ、じゃあ……、よ、よろしく……」
半ば強制的だったけど、了解を貰ったので実行へ移す。
隣に座っている天宮の背中に腕を回しながら、頭に手を添えてゆっくり自分の胸元へと引き寄せる。胸元に顔が埋まると天宮の肩が一瞬びくっと跳ねた。気にせず続行。
少し座り直してから天宮の背中に手を回し、体全体で優しく抱きしめてみる。胸元に頭があるので、下を向くと天宮の髪が顔に触れてくすぐったい。
――やってみたけどいいのか悪いのか分からない。けど拒否反応はないようだからこれで良さそう。
この後は確か背中をさすりながら30秒以上ぎゅっとするのが効果的って話だったよね。
教えられたことを思い出しながら、天宮のことをぎゅっとして、一定のリズムで背中を撫でる。
「大丈夫だよ、この世界で天宮は一人じゃない」
背中を撫でながら静かに呟く。
いつの間にか天宮もオレの背中に手を回している。その両手にぐっと力が入るのを感じた。天宮と密着している部分が温かくて、なんだかふわふわしてくる。
「呼吸苦しくない? ちゃんと息できてる?」
「うん……」
「天宮ごめんね。無理に話聞こうとして。言いたくないこともあるよね」
「……言いたくないわけじゃないんだ」
「え?」
「……春日野さん、もう少しだけ、もう少しこのまま、いい?」
「い、いいけど⋯」
胸に頭を埋めたまま天宮は言い、また黙ってしまった。
背中をさすっていた手で今度は髪を撫でる。ふわっと柔らかな感触が指先から伝わる。
「……春日野さん」
「んー?」
「俺を、一人にしないでくれて、ありが、と、う……」
「そんなこと……」
ふいに背中に回されている手の力が弱まる。そしてスースーと寝息が聞こえてくる。
え、もしかして天宮、寝ちゃったの?
「まあ、いいか……」
眠ってしまった天宮をそのままに、起こさないようゆっくりと横たわった。上に乗っかっている天宮の重さはギリ耐えられる。
「天宮、よっぽど疲れてたのかもね……」
話を聞けなかったのは残念だけど、言いたくないわけじゃないってことだし、焦らず待つことにしよう。
「星が、綺麗だな……」
体勢的に上を見る姿勢しか出来ず、木々の間から夜空を眺める。焚き火と天宮からの体温の温かさで次第に眠くなってくる。
「こやき、いつ戻ってくるかな……」
天宮の規則正しい寝息を聞きながらうとうとしていたら、いつの間にか眠りに落ちていた。
「……お・う・り」
こやきの声が聞こえる。
そしておでこをツンツンと突かれている。
「お・う・り、お・う・り」
人の名前を言いながら、リズミカルにそう何度も何度もおでこ突っつかないで欲しいな。
あまりのしつこさに眠気も覚め目を開けると、そこには若干心配そうな顔をしたこやきがいた。
「戻ってきてたんだ、おかえり」
「ただいま。風邪ひくといけないから起こしてみたよ。焚き火の火も小さくなってたし」
首を動かし焚き火の方を見ると、新しい薪がくべてあり、火は安定した大きさになっている。
「でも寒さは凌げていたんじゃない、そのご立派なお布団のおかげで〜」
「いやー、これはー、まあまあ温かいけど、欠点はすげー重すぎることかな。寝返りもできないし、現状背中がめっちゃ痛い」
オレの上で熟睡している天宮を、こやきは布団と揶揄してきたので素直に使用感を述べてみる。
「そうなんだね〜、痛みが酷い時は早めに回復魔法掛けたほうがいいよ。じゃあ、うちは休ませてもらうね〜。集めてきた薪はここに積んでおくから火の番よろしく〜」
「えっ、ちょちょちょーーっとお待ちを」
「あ、もしかして毛布欲しかった? おうりの収納魔法の中に何枚か入ってなかったっけ?」
「いや、そのことじゃなくて」
「天宮くんとの話は明日にでも聞かせてね。でも完全に身を委ねてるとこ見ると上手くいったっぽいじゃん。心から安心できてないと、そんな無防備な状態で眠らないよ〜。おうり、グッジョブ!」
こやきはそう言って握り拳から親指だけを立てて見せ、笑顔で寝床へと向かっていった。
「寝てる天宮を動かすの手伝って欲しかったんだけどな⋯。しょうがない……」
天宮が起きないように、ゆっくり慎重に少しずつ体を離していく。何とか抜けだせたので、うつ伏せになっている天宮の体を横向きにしてあげる。
そして収納魔法を発動し、荷物の中から毛布を出してかけてあげた。自分も毛布を羽織り座り直す。
「全く、オレはお母さんですかー。気持ちよさそうに眠りやがって。もう眠気がどっかいっちゃったよ……」
隣ですやすやと眠る天宮を見て、ついぼやいてしまった。
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