第9話 当たり前がない場所だから
我々は魔王がどこにいるのか情報を集める為、各地を巡り旅を続けていた。といっても、メインで動いていたのは天宮なんだけどね。
自分とこやきの女子二人が町や村で大っぴらに魔王の情報を探っていては、勇者の仲間ではないかと勘違いされるかもしれないと思ったからだ。
だから勇者のやるべき仕事に手を出すことはしなかった。
じゃあ何をしていたのかというと、知らない土地の散策、いわゆる街ブラを楽しんでました。天宮ごめんね。
この世界を自由気ままにがっつり楽しむことにしようと、こやきと決めたから。
要は思い出作りでもある。
どの町や村も我々には縁もゆかりも一切ない。そして二度と訪れることはない場所。
最初に宿屋で部屋を確保したらぶらぶらと歩きに行く。
RPGゲームのようにいちいち隅から隅まで片っ端から調べまくる、なんてことはめんどいからしないけど。
旅に必要な物資を買うためにお店を巡ったり、その土地にしかない名物料理を出す食事処に行ったりと満喫しまくってる。
当たり前だけど、そこには住んでいる人たちがいて、その土地でそれぞれ暮らしを送っている。
そこの人たちは穏やかに生活をしていきたいのに、魔王というわけの分からない存在によって自分たちの生活が脅かされているなんて、酷い話だよね。
魔王の悪しき力によって、凶暴化した魔物による被害が各地で広がっていることを聞いた。魔王のやってることって自然災害とかよりよっぽど悪質じゃん。
魔王の所へ行ったら正座させて、世界を支配するなんて何でそんなことをしようとしたのか問い詰めたい。いや、絶対問い詰めよう。
言葉が通じるタイプの魔王だったらいいんだけど。
街ブラ後は遅くならないうちに宿屋へ戻って就寝準備。
しかし、お風呂に入ってゆっくりのんびりー、というのが出来ない場合もある。その宿屋にお風呂がないわけじゃなくて、勇者目当てに来た人たちが騒がしくて浴室でゆっくりなんて出来ない場合があるのだ。
元の世界にあるビジネスホテルとかの様に一部屋ごとにお風呂がある訳じゃなく、こちらの宿屋には大浴場のみの所ばかり。
最初に泊まった宿屋でこやきと入りに行こうとしたら、知らないおっさんらがニヤニヤしながら付いてきたんだよね。
あの時は流石に気色悪くて思わず雷撃魔法を喰らわせてしまった。
それ以降大浴場で入浴する際は、侵入不可能な結界魔法を自分とこやきのダブルがけをしてから入っている。
ちなみに宿屋の部屋にも同様。
自己防衛は必須。
入浴が出来ない時は浄化魔法と生活魔法を魔力変換で組み合わせて使用し、そうして身体をさっぱりさせている。
衣類の汚れも同様に魔法を使い、清潔問題は解決。おかげで毎日清潔が保てています。ほんと便利。
この魔法は天宮には早々に伝授した。魔物と戦う頻度が多いから絶対に必要と判断。
本来レベルが上がれば使えるようになる魔法なんだけど、そこはほら、チートステータス持ち故の特権でコツを教えてみた。ほんとそれだけ。
ステータスをいじったりはしてないからセーフ、だと思う。
「この魔法凄いね。魔物との戦闘で服が汚れていたけど、あっという間に綺麗になった」
「でも天宮くんは使う時には気を付けてね〜。本来今のレベルでは使うことが出来ない魔法だからね。おうりはコツしか教えてなかったけど、実は魔力の消費量が結構エグいかも〜。ステータス見てみて」
「えっ? あっ、魔力が半分以上減ってる!」
「しばらくはその魔法使いたい時、うちかおうりに遠慮しないで頼んでね」
「あ、ああ。その時はよろしくお願いします」
「そんなご丁寧に。それにしても、おうりってぱ魔物狩りにどこまで行ったんだろう」
「自分も魔物と戦ってスキルを使いたいって、春日野さん張り切って森の奥へ行ったよね」
「でも、ズガーンとかドガーンとか自然破壊的な音は止まったみたい。そろそろ帰ってくるんじゃないかな〜。あ、ほら、おうり帰ってき、た……」
「か、春日野さんっ!?」
森の奥で魔物の群れ相手にいろんなスキルを試し、今日のところはそれなりに満足したのでこやきたちの所へ帰ると、天宮が慌てた様子でこちらに駆け寄ってきた。
「だ、大丈夫か!? どこを怪我したか俺に見せて!」
「ちょっ、ちょっとっ!?」
手首を掴まれジャージの袖を捲り上げられて腕を確認される。更に顔を撫で回され、びっくりして固まってしまった。
「腕や顔は何ともないなら、もしかして中の方!?」
そう言いテンパっている状態の天宮はオレの上ジャージのファスナーを下げようとしてきた。
え、いや、何してんのマジで?
「天宮くーん、おうりなら大丈夫だから〜。どこも怪我とかしてないよ〜。ストップストッープ〜」
「えっ?」
あー、怪我の確認だったんね。混乱魔法にでもかかったのかと思ったよ。でも天宮がアタフタしてるの、ちょっと面白い。
「心配してくれたんだ。オレ、どこも何ともないよ」
「そ、それなら良かったよ。全身血だらけで戻ってきたからてっきり……」
「血だらけ? うわーほんとだ。これ全部魔物の返り血だよ。綺麗にしよーっと」
手を掲げ、自分自身に向けて魔法を発動する。パアッと清らかな青い粒子が体全体を包み込み、キラキラとした光が上からゆっくり落下していく。それが消える頃には髪や身体、着衣の汚れが綺麗に取り除かれていた。
「天宮も血まみれだったオレを触りまくったからえらいことになってるよ。まってね、今その汚れ落とすから」
今度は天宮に向けて同じ魔法を使う。ベッタリと付着していた血液汚れがすっきりと除去された。
「これでオッケー。いやー、さっきは天宮に何されんのかと思ってびっくりしたけど、気にしてくれてありがとね」
「あっ、いや、俺のほうこそごめんっ。」
天宮は顔を赤くして困り顔で謝罪をしてくる。こんな表情もするんだな、こいつ。
どこぞのアイドルのような整った顔して、ファンクラブがあったっていうのも頷ける。さぞかしモテるんだろうな。この世界でも至る所でキャーキャー言われてるし。寝床に女が入ってくるし。あ、あれはただの痴女蛙だったね。
――勇者って顔で選ばれたわけじゃないよね?
「おうり〜、あんなに返り血浴びるくらい魔物どれくらい倒したの〜?」
「分かんないや。いろんなスキルや魔法試したかったから魔物を呼び寄せるスキルを使ってみたんだ。そしたら四方八方からどんどん湧き出てきちゃって、もう倒すのに無我夢中になっちゃってた」
「知ってる〜? 腕の立つ戦士は返り血を浴びないように戦えるんだよ〜」
「そうなの!? じゃあオレってばまだまだ全然だめだめってことかー」
「若者よ、精進なされよ〜。さっ、ということで今日はここらで休もうよ。いいかな天宮くん」
「ああ、そうしようか」
「じゃあうちはもうちょっと良さげな場所に結界魔法張ってくるね」
「じゃあオレは薪集めでもしてくるかな」
日が暮れる前に町や村にたどり着けなさそうな日は時々野営をしている。もう何度目になるかは数えているわけじゃないから分からないけど、休む為の準備は手慣れてきている。
この知識も実はチートステータスから流れてきていた。キャンプくらいは経験あるけど野営はしたことがない。というのが嘘みたいにやり方を熟知している自分がいる。
大変ありがたいことで。
収納魔法のおかげで重い荷物を持って歩かなくてもいいし、食料も鮮度を落とさず買った状態のままになっている。
生活魔法で火や水も心配なし。結界魔法を掛けておけば寝ている間、魔物に襲われるなんてこともない。
一般の冒険者はこんなことまず無理なんだけど、こちらはチートステータス持ちが二人もいる。
「……春日野さん」
「ん? 何?」
薪拾いに行こうとした時、天宮に呼び止められる。何だか少し神妙な面持ち。何だろう。
「突然でごめん。お願いなんだが、俺に付き合って欲しい」
………………は?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます