第3話 勇者の覚悟は笑いから
――――バルドール城来客用寝室。
ついさっき魔王をフルボッコにすることを決めて、二人でハイタッチした後にフェリシアから「お疲れのようですし、少しお休みされたほうがよろしいですね」と、気を遣われ、この部屋に案内された。夕食の際に呼んでくれるそうだ。
「こやきー、今回のレベルはどんな感じになってる?」
「んーとね、前回と同じで最初から最高値になってるよ。魔力も無限大だし、この世界全ての魔法が頭に入ってて、いつでもどこても無詠唱で発動可能だね。もちろん生活魔法もバッチリ。おうりは?」
「同じくレベルは最高値でカウンターストップしてる。体力値には無限大マーク付き。全種類の武器が扱えて、魔力でどんな武器の生成も可能。スキルはー、何か新しいのが増えてるけど攻撃系、補助系ほぼ全部コンプリートしてる。準備運動なくても直ぐにスキルを発動して即効動ける状態になれるねー。前の時とおんなじ」
はーっと大きく息を吐いてベットにぼふっと仰向けで寝転ぶ。ふかふかの感触が心地よい。身体の緊張がほぐれていくようだ。
「今回もチート能力あざーすって感じー? 不正行為なんて自分らは一切してないんだけどねー」
この世界ではステータスを見ることで自分のレベルや能力、状態を知ることが出来る。念じるだけで目の前にパッと浮かび上がり、自分の意思で消すことか可能。他の人には見えてないらしく、最初それを出現させた時びっくりして、「うわあぉっ!」なんて一人アホみたいに声をあげてしまい、めっちゃ恥ずかしかった。
人によって他人のステータスを確認できるスキルを持っている者がいる。
ただ自分とこやきのステータスには鍵マークの様なものが最初から付いていて、自分ら以外誰からも見れないようになっていた。前回召喚後に城の魔術師っぽい人たちが我々のステータスを確認しようとしていたが、どうやっても見れないことで勝手にイライラしてたっけ。
「こやきー、今回もこのチートステータスのことは内緒だねー。何か聞かれても前回同様、バグってるの一言でスルーしまくろう」
「そーだねー。あれ、ここ、前と違うこと書いてある。肩書きのとこ見て見て〜。『喚び出されし者』だって〜。前は何だったっけ〜? 1年前のことなのに忘れるなんて、うちヤバいよね〜」
「あれから1年過ぎてるのもヤバいってー。あ、ほんとだ。オレも同じで肩書きの所『喚び出されし者』ってなってる。気にしてなかったけど、確か前は……」
――ふと、あいつのことが鮮明に思い浮かんだ。
前回この世界に召喚されたのは、オレとこやき、そしてもう一人、後に世界を救った英雄となるあいつの三人だった。
あいつのステータスの肩書きには『勇者』と書かれていた。驚いたのが我々二人のレベルが最高値なのに対して、彼のレベルはなんと最低値。つまりLV1だった。体力値も魔力値も能力も低く、取得スキルはまだ何もなし。そんな駆け出しの勇者と一緒に我々は旅をすることになったのだ。
「そうだよ、こやき、あの時のオレらの肩書きは、『勇者を守りし者』だったよね……」
――――異世界召喚、1年前。
「――ここはいったいどこなんよ?」
周囲を見渡し、違う世界ということは理解できた。剣を持ち鎧を着てる人、ローブの人、マントを羽織ってる人、髪色や目の色が我々日本人とは全く違う。
この場所も、まるで剣と魔法のファンタジーゲーム世界のお城の中っぽい感じ。そういうゲームは好きで、特にRPGは睡眠時間削ってまで没頭してプレイする程のめり込んでしまう。非現実感を味わえるのがいいんだよね。
っていうか周りにいる人たちが「良かった!」、「成功した!」とかって、みんな喜んでてめっちゃうるさい。鎧の人ら数人が「うおおぉー」ってガッツポーズ決めながら野太い声で雄叫びあげてて何か怖いんだけど。
というか、さっきまでこやきの家でゲーム大会してたんですがマジで何なの。せっかく午後から学校休みで部活動もなしの日だったから、ゲームで遊び倒して16歳花の高校1年生として青春の1ページに刻もうとしていたのに。
「お待ちしておりました、勇者様!」
突然声を掛けられ顔を上げる。
ふわふわした柔らかそうな金髪に碧眼。頭には金のティアラ。白とピンク色のドレスの女性が立っていた。
「あの、勇者とは一体何のことでしょうか? それにここはどこですか?」
女性に質問をしたのは紺のブレザーを着ている男子学生。どこの学校の制服なのかは知らないが、自分と同じように突然ここに来ちゃってた系男子なのだろう。
「ここはローダン国と言います。勇者様は私たちの最後の希望。今この世界は悪しき力を持つ者に支配されそうになっているのです。 お願いです! 勇者様のお力で、どうかこの世界をお救いください!」
あの男子、両手を握られて至近距離で見つめられちゃってるよ。耳まで赤くなってるし。惚れちゃいましたか? 惚れちゃうんですか?
「うーん、おうり〜、ここどこなん〜?」
「こやき? 良かった一緒で。正直心細かっ……、ふはっ! あっははははははっ! か、髪が、こやき、かみっ! うははははっ!」
「え〜、なに〜?」
親友のこやきもいることに安心したけれど、髪がジェットコースターの急落下後かってくらい、ぼっさぼさになってて大爆笑してしまった。
大声を出して笑えば当然注目の的になっちゃうよねー。ひとまず何事もなかったかのように振る舞い、こやきの髪を直しつつ情報を伝える。
「そーなんだ〜。じゃあ天宮くんが勇者ってことなんだね〜」
「えっ、こやき、あの男子と知り合い?」
「おうりってばヤバいね。うちらとおんなじ中学で、おんなじクラスで、生徒会長してた天宮くんじゃん」
「えーっと、ちなみにフルネームはー?」
「天宮空叶くん」
「んん?」
「あーまーみーやーそーらーとーくーんー」
「いや、耳が遠くなったわけじゃないし。何というか、ごめん、覚えてないや。今朝のご飯もわしは何食べたっけ?」
「しょーがないなー、おじーちゃんってばー」
「誰がおじーちゃんやねん! もうええわ!」
「「どうも、ありがとうございましたー!」」
何故か流れ的に漫才の締めの部分をやり切ってから、ハッと我に返る。周りはシーンと静まり返っていた。こやきはいつものにこにこ顔。そんな中、沈黙を破ったのはなんと天宮だった。
「ははっ! あははっ! 初めて生で掛け合いを見たよ。流石だね、全国スクール漫才グランプリの準優勝者は」
「ゆ、勇者様?」
天宮がめっちゃ笑っている。周りポカーン。この世界に漫才という文化は無さそう、というか絶対ないでしょ。
そう、実は我々二人は中学3年生だった去年、誰もが知っている超人気お笑い芸人のテレビ番組企画で、全国スクール漫才グランプリという学生対象の大会にて、見事準優勝を勝ち取ったのだ。
思い出すなぁ、周りが受験受験の中で必死にネタを作っていた日々。授業中も考えてたっけ。そして連日漫才の練習。漫才ってネタを喋っていくだけじゃなくて、表現力や演技力、発声力だって必要。無我夢中だったね。時にはしんどさもあったけど、めっちゃ楽しかったな。
っていうか、さっきのどこに笑える部分があったのかな。持ちネタの一つではあったけど、あんな一部分で笑えるのはある意味すごい。もしかして天宮、笑いの沸点低いのか?
「春日野さん、上若林さん、久しぶりだね。笑わせてくれてありがとう。君たちのおかげで緊張がいい感じに解けたよ。俺、勇者として、この世界を救うよ」
そう言い切った天宮の覚悟を決めた姿が、漫才グランプリの決勝戦に挑む直前の自分と重なって見えた。
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