第2話 AI小説家の波紋
「……動きませんね。<ヨムカク>運営は」
小説投稿サイト「作家でたまごご飯」運営統括の織田めぐみは、なんかイライラしている。
どちかというと、
「めぐみさん、何なら、僕が<ヨムカク>のランキングシステムをハッキングして、AIランキングを勝手に作って、AI小説を隔離してもいいですよ」
小説投稿サイト<作家でたまごご飯>システム統括チーフのチャラ
相変わらず彼は茶髪の三十代のプログラマーとして勤務していたが、そのハッカーとしての腕前も相当な物に進化していた。
実は
しかも、その痕跡を完全に消して、米軍の追跡から逃れていた。
「それはだめよ。絶対、ダメ!」
織田めぐみは血相を変えている。
「冗談ですよ、めぐみさん。<ヨムカク>運営がどう動くかは、あそこはあそこなりの事情があるだろうし、今回のホラーランキング一位の『廃墟でぶつかった猫耳少女に転生呪術を使ったら小悪魔少女に転生してしまってめちゃくちゃ呪われた』にしたって、そこそこ面白いし、評価も星☆一万オーバーでしょう。大体、読者の大半がAI小説だと気づいてないし、満足してるので、現実的な対応としては特に何らかの具体的アクションの必要はないでしょう」
チャラ
「……理屈では分かってるんだけど、自分でも小説を書いてる者としては割り切れないものがあるの。一日に39作品、117話、約29万字分を更新とか、人間には到底不可能だし、どう考えてもチートじゃない。一日120作品投稿とか論外よ。概ね、破綻のない文章だけど、所々に矛盾がある記述もあるし」
織田めぐみはどうもAIそのものが性に合わないらしい。
彼女は実は織田
織田信秀の十一男で信長の十三歳年下の弟で、千利休に茶道を学び、利休十哲の一人にも数えられている。後に有楽流茶道を創始した。
それで彼女の淹いれるミルクコーヒーは美味しいのかもしれない。
「確かにそうですが、<ヨムカク>運営としては、この前、モキュメンタリーホラー映画『恐山温泉の九番出口』が興収50億円以上のヒットを出したばかり。歴代映画ランキング一位の興収500億円超えを目指してる『妖刀滅殺剣』とか、歌舞伎の不朽の名作がテーマの『
チャラ
モキュメンタリーとは「擬似」を意味する「モック」と「ドキュメンタリー」を合成した言葉である。
「モックメンタリー」「モック・ドキュメンタリー」「フェイクドキュメンタリー」「ハーフドキュメンタリー」「セミドキュメンタリー」「ハーフフィクション」「セミフィクション」などとも言われる。
ドキュメンタリー風フィクションとでも言えば分かりやすい。
「まあ、それが資本主義だものね。仕方ないのね。そういえば<ヨムカク>立ち上げ時に運営統括してた、
織田めぐみは、かつての先輩というか、十年以上前に<ヨムカク>の運営統括をしていた
「あ、理由はそれかもしれない。映画事業部で小説の映画化担当役員してるとかニュースに載ってた。モキュメンタリーホラー映画『恐山温泉の九番出口』も確か彼女が担当してたのをテレビで観た」
チャラ
<ヨムカク>はあくまで読者が喜ぶ小説や、その小説を売るためのメディアミックスをやっているだけで、AI小説であれ何であれ、読者が望むコンテンツを提供するのが使命である。
よっぽど倫理的法律的な問題でも無ければ、AI小説であってもランキングから除外せず、様子見というか、今後の動向を見ている段階だと言える。
「
あまり人に懐かないチャラ
「……あ、特に別段ないです。普段通りに学校に通って、帰ってくるだけの平凡な日常ですかね。ちょっと安心しています。特にAI小説の事を友人に話してる様子もなく、本当に静かな毎日を過ごしている」
とはいえ、小説投稿サイト<作家でたまごご飯>のメンバーとして、すっかり溶け込んでいる
これ自体が実は彼女の特技であり、異常な親しみ易さが彼女の特殊能力なのだが、あまりそれが特別な能力だとは認識されていない。
叔父の
その血族である
「そういえば、そのAI小説家の名前は何というんだったけ? ペンネームだけど」
織田めぐみが今更な事を訊いてくる。
「
その名前の波動で、一瞬、時間が止まったように思えた。
嵐の前の<
しばらく止まっていた時間が、再び、動き出す。
「
織田めぐみも何か感じ取ったようだ。
(
AI小説の投稿者の中に、闇バイトの
完全なPV広告収入狙い型の犯罪だったので、そこは素早く排除しておいた。
(そう、ありがとう。助かるわ。そういう犯罪目的のAI小説は排除しないとね)
(ただ、
(了解)
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