第二章 少年期編『焔の冒険者』
第11話 焔の街灯
街の空気は、森とは違って乾いていた。
石畳の道、背の高い建物、行き交う人々の喧騒。
俺は、季節外れな赤いマフラーを首に巻いたまま、街の門をくぐった。
リュミエール――人間の都市。 レン姉がいなくなってから、二年。
十二歳になった俺は、ここで冒険者になるために来た。
あれから、森の中でレン姉に教えられていた事を実践してサバイバル生活をしていたが、冒険者として登録出来る年齢になったタイミングで街に降りて来たんだ。
「焔は隠せ。異能は恐れられる」
そう言ったのは、森を出る前に出会った旅の魔法使いだった。
異能者は、魔法使いとは違う。
術式も詠唱も使わず、心で力を呼ぶ。
だからこそ、制御不能だと恐れられる。
俺は焔を隠すため、手袋をしていた。
でも、手のひらの奥で、焔は静かに揺れていた。
「俺は、誰かを守るために焔を使う」
その誓いだけは、忘れない。
ギルドの建物は、街の中心にあった。
石造りで、重厚な扉。
中に入ると、受付の女性が俺を見て眉をひそめた。
「……君、登録希望?」
「うん。冒険者になりたい」
「年齢は?」
「十二歳」
「保護者は?」
「いない」
「……異能者じゃないわよね?」
俺は少しだけ黙ってから、首を横に振った。
焔を見せたら、きっと拒絶される。
でも、嘘をつくのは苦しかった。
「試験は明日。初心者向けの任務をこなしてもらうわ」
受付の女性は、俺に木札を渡した。
それが、冒険者登録の仮証だった。
ギルドを出たあと、街を歩いた。
人々の視線が、俺の季節外れのマフラーに向けられている気がした。
赤いマフラー――レン姉がくれた、誕生日の最後の贈り。
「ヒーローになって」
その言葉が、今も胸に残っている。
初めて来た街をぶらついて、食事を取っていたら時間が経っていた。
そんな夕方、広場の噴水のそばで、ひとりの少女が立っていた。
少し紫がかった黒髪のロング。
人形のように整った顔立ちで、表情はほとんど動かない。 その姿は、街の喧騒の中で異質だった。
まるで、誰とも繋がっていないような、孤独な存在。
俺は、なぜかその子の姿にレン姉に近い雰囲気を感じて、目が離せなかった。
彼女は、噴水の水に指をかざしていた。
水が揺れ、風が巻き、魔法の気配が漂った。
でも、彼女の瞳は何も映していないようだった。
「……綺麗な魔法だ」
俺が声をかけると、少女はゆっくりと振り向いた。
「……あなたは、焔の匂いがする」
その言葉に、俺は思わずマフラーを握りしめた。
「……俺は、ただの冒険者志望だよ」
少女は何も言わず、ただ俺を見つめていた。
街の灯りがともる頃、俺は空を見上げた。
焔は、まだ隠している。
でも、いつか――この街を照らす灯りになる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます