第5話  焔の料理と秘密のレシピ

レンの料理は、いつも不思議だった。

焔の実を使ったシチュー、月影草のサラダ、森の果実を煮詰めた甘いジャム。

どれも、見た目は素朴なのに、口に入れると体の芯から温まる。


「料理ってね、焔と心で作るものなの」


レンはそう言って、鍋をかき混ぜながら微笑んだ。


俺は料理の手伝いが好きだった。

エンの実を洗ったり、薪をくべたり、レンの隣で鍋を覗き込んだり。

ときどき、炎が俺の手に反応して、鍋の火がふわりと揺れることがあった。


「カイ、今の……あなたがやったの?」


「うん。火が、俺の言うこと聞いてくれた」


レンは驚いた顔をして、それから優しく笑った。


「すごいね。焔が、あなたを好きなんだね」


ある日、レンが言った。

「カイ、今日は“秘密のレシピ”を教えてあげる」


俺は目を輝かせた。


「ほんとに? お姉ちゃんの、あのシチューの?」

「うん。でもね、これは“焔の心”がないと作れないの」


焔の心――それは、レンがよく使う言葉だった。

炎をただ燃やすだけじゃなく、誰かを想って灯すこと。

それが、焔の心。


レンはエンの実を刻みながら、俺に言った。


「まずは、火を見て。火が何を求めてるか、感じてみて」


俺は焚き火の前に座り、炎を見つめた。

炎は、揺れていた。

風に流されながら、でも芯はぶれずに燃えていた。


「……あったかくなりたいって、言ってる気がする」

「そう。じゃあ、薪をくべてあげて」


俺はそっと薪を足した。炎がふわりと膨らみ、嬉しそうに揺れた。


次に、鍋の火を調整する。

レンは俺の手を取って、火にかざした。


「カイの焔で、ちょうどいい温度にしてみて」


俺は目を閉じて、炎に語りかけた。


「熱すぎないで。でも、ちゃんと煮えるくらいに」


炎が応えた。

鍋の底で、焔が静かに踊った。


その夜、俺たちは“焔の心”で作ったシチューを食べた。

レンは一口食べて、目を細めた。


「……カイ、これ、すごく優しい味がする」


俺は嬉しくて、何度もおかわりした。

エンの実の辛さが、ほんのり甘くて、体がぽかぽかした。


「料理ってね、誰かを想う気持ちが味になるの」


レンはそう言って、俺の頭を撫でた。


「カイの焔は、誰かを守るために燃える。だから、優しい味になるんだよ」


俺はその言葉を、胸に刻んだ。


焔は、ただの火じゃない。

俺の心と繋がってる。

そして、レンの心とも。

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