第一章 幼少期編 『焔の孤児』

第1話 赤い瞳と灰の腕

あの夜、私は死ぬつもりだった。  

人間の集団に追われ、仲間は散り散りになり、逃げ場もなかった。

森の奥で膝をつき、血に濡れた腕を見つめながら、ただ静かに終わりを待っていた。


そのときだった。

木の根元に、赤子が捨てられていた。

布に包まれ、泣きもせず、ただじっと空を見ていた。


その瞳を見た瞬間、私は息を呑んだ。

赤い――炎のような瞳。

人間の子にしては、あまりにも熱すぎる体温。

それでも、私はその子を抱き上げた。


「……どうして、こんなところに」

誰かが捨てたのだ。魔人の領域に、わざと。

処分するつもりだったのかもしれない。

でも、私はその子を捨てられなかった。


腕の中で、赤子は小さく笑った。

その笑顔に、私は泣いた。


「……もう怖くないよ。お姉ちゃんがいるからね」


そう言って、私はその子に名前を与えた。

「カイ。あなたの名前はカイ。炎のように、強く、優しく、誰かを照らす存在になって」


その夜、私は死ぬのをやめた。  この子を守るために、生きることを選んだんだ。

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