第4話 再会

 高梨は防ぎようのない一巻の終わりとぎゅっと目を閉じ て、全てを諦観するも、腹に痛みは起こらなかった。

 ナイフを振りかざした体勢のまま男の動きが止まっている。天井にあいた穴から月明かりが差し込むと、男の背後にもう1人、誰かがいた。その誰かは桁外れに開かれた顎で、男の頭に噛みついていた。異様にあいている顎からだろうか、噛みつかれて圧迫されている頭からだろうか、ぎしりぎしりときしむ音がなると、前歯が男の頭皮にねじ込み頭蓋を砕いた。ごりっぼりっと噛み砕く音が室内に響き、高梨はただ唖然とした表情でその音に聞き入り、そのの様子をただ呆然と眺めることしかできない。とうとう歯は脳味噌に到達し、次に眼球、鼻、口、気づけば男の頭全体が無くなっていた。

 高梨はもはやすべてがどうでも良くなった。変態男に拉致されたかと思えば、人を食らう化け物が目の前にいる。  

 気づかぬうちに、薬物か何かを摂取して自分の頭が狂ってしまったのだと思えた。

 変態男は首がなくなった状態でどさりと床に倒れた。は、まるで極限まで腹をすかせた子どもがナポリタンをすするようにして男の臓物を食らっていた。

 高梨は手錠をかけられているのでここから一歩として動くことができない。メニューが人肉しかないレストランにいるような気分で、次はもしかすると自分がテーブルに並べられることになるのではないかと思い始める。

 は骨が喉にひっかかったようで、げほげほとむせ返りながら立ち上がった。は高梨の方に向かってのっそりと歩き向かってくると、彼の足付近のシーツに顔をすりつけてごしごしと血を拭いていた。顔全体に広がっていた血液や肉の破片が、完全にではないが拭き取られたようである程度容貌を確認できるようになった。高梨は、気絶しそうになる程の大きな驚きが押し寄せ、息が詰まるほどの衝撃を受ける。

「お、お前...」

その人間を食らう化け物の顔は、死んだはずの加藤 集仁郎のそれであった。

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【創作BL】シカバネカレシ※全年齢向寄り 漫ろゾロゾロ @n0ko2iko_p1lof

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