第3話 廃墟にて
「ったく、どこだよここ……」
メッセージで指定された場所まで、ナビの案内に従順と車を進ませていると、出口のわからないような山中に突入していた。美しい夜景が見える別荘を持っているからと来てみれば、明かり一つない森林が続く。途中で引き返そうかとも思ったが、骨折り損になるのも馬鹿らしく、男の別荘で贅沢三昧な自分を想像して貧乏根性のような気概を働かせた。
夜も更けているというのに、車のエアコンを最大にしても蒸し暑く、じめじめとした汗をかかせた。未だに暗闇を進む坂道を横目に、ナビが目的地到着を知らせたが、暗闇の中を輪郭が無くなりそうなほど存在感薄く立っている看板しか見えない。消えかけた看板の文字からコテージと読めなくもないので、表示の通りに右折すると、伸びきった雑草のひどい未舗装の道が伸びており、その先には想像上の洒落た別荘とはかけ離れた薄汚い廃墟が行く手を塞いでいた。あまりの驚きから、人気のない不気味な山奥であることがすっかり頭から抜け落ちて、車のドアを開けガタガタと砂利の多い道に足をつける。
勘の鈍いことながら、騙されたのかと愕然とする。相手と会いもせず、相手の状況が見える訳でもなく、何が楽しくて廃墟に誘導したのかまるで理解できず、骨折り損などでは言い表せない苛立ちと後悔が込み上げてくるのだった。
車に戻ろうと足を傾けると、背後の草木からざわりと気配を感じた。ここは自然豊かな山奥である、野生動物がいつ飛びだしてきてもおかしくはないだろう。ひやりとした予兆を感じ取り、そそくさと車に入ろうとすると、突然、背後から伸びた手で口元にハンカチを押し込められた。想定外の状況に、咄嗟に手足をばたつかせてみても無意味に終わり、まどろむような睡魔に襲われた。
ずきずき痛む頭の中で、加藤がこちらを覗いている気がしてその視線から逃げるうに意識が戻る。瞼をゆっくりあけると、目の前には豪勢ではあるもののヒビが入って色あせた装飾、破れたカーテン、脚が一本ない椅子などひどい有り様の室内が広がっていた。
仰向けの状態から起き上がろうとするも、手首と足首ににはめられた手錠によって動作が制限される。よくよく見れば、横たわっているベッドは他の家具と比べてやけに清潔感があった。
「ふふ、やっと目を覚ましたね」
扉のない部屋の出入り口に、見慣れない男が立っていた。
「だ、誰だよアンタっ」
恐らく自分をここに連れてきた張本人であろうことから、高梨はキッと睨みつける。
「あれぇ? 知らないとは言わせないよ」
男は高梨のスマートフォンを取り出し、、夜景が綺麗にみえるという別荘に招待することを約束したはずの男とのチャットのやりとりをみせつけた。
「ハハッ今までターゲットにした誰よりもチョロくてびっくりしたよ。普通こんな山奥で会おうって言われたら怪しむでしょう? 」
男は不気味な笑みを浮かべて、高梨に近づく。ズボンのポケットからナイフを取り出し、高梨のシャツにゆっくりと刃を入れた。
「や、やめろよ! 」
高梨はこれからこの男にされるであろうことを想像して、戦慄し、懸命に身体を動かして抵抗を見せる。
丁寧に切り裂かれたシャツの間から無防備な表皮が露出する。
「はぁ、はぁぁぁあはははぁ! 想像以上だよ」
男はその荒い息遣いの鼻を高梨の腹に埋めて、新鮮な空気を吸うように何度も深呼吸する。
「この薄い肌の向こうにある血の匂いを感じるよぉ! 」
「ヒィッ、やめろ! 」
高梨はあまりの気色悪さに身震いし、目に涙を浮かべる。
「じゃあ、入れるね」
男は、恍惚とした笑みを浮かべて、腹に突き刺そうとナイフを振りかざす。
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