第3話 石化セクハラ

 ──油断した。

 コカトリダック。見た目も大きさも、脳みそもアヒル。でも、コカトリスと交配して生まれた魔物なので、石化能力はある。アヒルのくせに。

 俺と女戦士ランカが視線攻撃を食らった。最初は女僧侶のマリーがタゲられ、俺がかばったのだ。で、斬りかかろうとしたランカも石化。

 まあ、アヒルは石化したランカが倒れ込んでペシャンコだ。戦闘自体は勝った。


「……駄目ですね。私の解呪ディスペルLv.3じゃ無理」

「仕方ない。転移魔法テレポートで街に戻りますか」

 マリーと魔法使いガリオンが話している。こいつらは頭がいい。任せておいて大丈夫だろう。

 

「重量の問題があります。やや煩瑣ですが」

 ガリオンはそう言うと、まず俺とマリーと3人で宿屋の1室に転移した。さらに1人で森に再転移し、石化ランカを連れて隣の部屋に再再転移。各自の今朝の居室だ。


「教会の司祭さまは、隣国の祭典で明朝まで戻らないと」

「朝まで待ちましょう」

 宿の部屋、2人の会話が聞こえる。


 ……ふむ。石化は初めて食らったけど、意識と視覚・聴覚は残るんだな。でも、触覚や嗅覚・味覚はない。

 たまに石化状態のまま100年くらい放置された冒険者の話を聞くが、こりゃ1人なら頭おかしくなる。仲間が生き残ってて感謝だぜ。


 ガリオンが、石化ランカがいる自室に消えた。

 あいつのことだ、今夜は「正」の字が2文字以上は増える。

 まあそれはいい。問題は俺のほうだ。


「キモ猿! ほんとお前、クソ最低なんだけど!!」

 ガリオンが部屋を出た瞬間、マリーに罵倒されて頬を叩かれた。石なので痛くない。

「いつも私のこと、エロい目で見てるの知ってっから!」

 まあ、バレてますよねー。

 それでも彼女がパーティーを抜けないのは、勇・戦・魔の3人が変態なだけで、戦闘自体は強いから。よその勇者一行とは生存率が違うんです。


 マリーはその後もひととおり俺を罵倒し続け、頭をぱこぱこ叩いたり全身にキックを食らわせたり、俺の顔に唾をぺっとはいたり。

 やっべー。最高。

 石化してよかった。アヒルありがとう!


「ん。あっ!」

 マリーが足を突然引っ込めた。たまたま俺の股間を蹴ったらしい。

「……」

 沈黙。

 周囲を見回す。カーテンを閉める。

 しゃがむ。えっ。


 さわさわ。

 マリーがすっげえ悪そうな顔でニヤニヤ笑いながら、俺の股間を興味深そうに撫でていた。彼女も18歳の女、そういうことに興味はあるのだ。

 指でデコピンぺしぺし。メイスの柄でこんこん。

 あああっ。俺、石なのにもっと硬くなりそう。


「ふっふーん。私ってそんなにえっちなのかあ」

 ニヤついたまま、貫頭衣を脱いでハンガーに掛けた。魔法糸を縫い込んだ僧侶用の戦闘用ボディタイツ姿。

 うっはー。太もも! 尻! おっぱい!


「うりうり。ええんか、こうしてほしいんかあ。絶対やってやんねー」

 背中におっぱいぺったり。くやしい。触覚がない。

「うわー、でもムダに筋肉はある」

 腕と胸板と尻をベタベタ触られる。マジくやしい。触覚がない。

 身体の前方に回り込まれて、再度の逆セクハラ。


「あっ!」

 なにかに気づいて身体を離した。なんだ?

 わかった。剣の柄が、彼女の股間に当たったのだ。


 再び沈黙。

「ん。よいしょ」

 ゴゴゴ。床に横向きに寝かされた。

 かなり重いと思うが、意外と力あるんだなマリー。で、なにすんの。

「あん」


 ……え。ええええ。

 

 角オナ。

 石化した俺の鼻で。

 めっちゃボディタイツの股間すりつけ。

「うわ、ちょうどいい大きさ」

 んんっ。めっちゃゴシゴシしてる。


 おうおう。わが勇者パーティー。

 勇者と魔法使いはむっつりスケベ17歳男子、女戦士はごんぶと55号愛好者。じゃあ、女僧侶は健全な人物かと思いきや……。


 違った。

 こいつ、禁欲的な修道院でこっそり角オナしまくっていたらしい。この腰の擦り方とピンポイントな股間の当て方、支配者級マスター・クラスの上級者だ。ことがマスターだけに。


「ああ、マリーはわるい子ですう。神様におしおきされちゃいますう」

「キモ勇者……様のお鼻で、きもちよくなってますう」

 エロい。エロすぎる。

「わるい子だから……。お聖水でちゃう」

 うわわわ。

 石化した俺の頬に、布越しにじんわりと液体がひろがる。

 俺、なんで触覚と嗅覚がないんだちくしょう。

 

 思い出した。謎が解けた。

 俺がこっそり拝借して自家発電に使用していた彼女のクッションカバー。その繊維に残されたかすかな匂いの秘密。

 こいつ、どうやらボディタイツを着たままで角オナおもらしするフェチ!

 しかも修道院の禁欲的な環境のせいで、性癖がだいぶん斜めに歪んでるドM!


 正正正!!!


*      *


 翌朝、俺とランカは、宿屋に出張してきた司祭の手で解呪された。


 なぜかガリオンは歩行できないレベルで衰弱していた。

 ランカは普段の豪快さを忘れ、異世界の魔王Lv.99を見るような目でガリオンを見ている。

 マリーは「戦闘中に汚れた服の洗濯」を申し出ていた。


「……あ、俺。石化はじめてで後遺症あるわ。リハビリが必要だ」

 俺も適当に言い訳を言い出したことで、この街にもう1日滞在することになった。


 同夜。俺。


 正正正正正正。


 状態異常、テクノブレイク。

 薬草を5個も使って適宜回復しながら、マリーのお聖水の記憶で。以下略。


 ……俺たち、これで世界を救えるんだろうか。

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