ホルン吹きの休日はAIとともに
清瀬 六朗
第1話 黎明のファンファーレ ―瑞城マーチングの詩(うた)―(1)
梅雨の晴れ間、窓から差し込む西日が練習室をオレンジ色に染めていた。
しかし、その幸福感も束の間、隣のトランペットパートから微かに聞こえる音程のずれに、いずみは小さくため息をついた。新任の顧問、
「いいかしら皆さん。まずは音程、リズム。この二つがしっかりしていれば、どんな曲でも美しく響きます。」
昌子先生の声が響く。先生は、自身のピアニストとしての訓練経験から、基礎練習の反復こそが全てを解決すると信じているようだった。
「ホルンパートは、この音階練習を繰り返しなさい。トランペットは、このスケールを正確に。焦りは禁物よ。練習、練習、練習。それが全てを解決します。」
先生の口癖のように繰り返される「練習」という言葉に、いずみは頷いた。だが、その言葉とは裏腹に、パート練習の成果はまだ十分とは言えない。そんな中、ふいに、少し大きめの声が響いた。
「あの、先生。」
声の主は
「もちろん、音程とリズムは大事だと思います。でも、私たちマーチングバンドですし、そろそろ、次の演奏会でやる曲のアンサンブル練習も始めた方が良いんじゃないでしょうか? 特に、カラーガードの
小梢さんの言葉に、いずみは内心、反発を覚えた。昌子先生は、こういう積極的な発言に戸惑うのではないか。パート練習がおろそかになるような提案で、先生を困らせるなんて。いずみは、小梢さんの言葉を、先生を困らせるための「わざと」だと感じていた。
(先生には、自分の信じる指導法を貫いてほしい。でも、先生は、小梢さんのような発言に、ちゃんと向き合えるだろうか…。)
いずみは、昌子先生が小梢さんの発言に流されず、毅然とした態度で練習の指示を続けられるか、
***
部活動の合宿も終わり、新学期が始まった。いずみは、仲の良い
「ねぇ、パートリーダーの発表、どうなったの?」
美久が不安げな顔で尋ねた。クラリネットパートの美久は、パートリーダーに推薦されていたはずだ。
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