自称「漆黒の堕天使」が、ちょっとエロい
茶電子素
最終話
その日、俺はただのコンビニ帰りだった。
袋の中には半額シールの唐揚げ弁当と、ついでに買った缶チューハイ。
平凡な日常に、突如として「非日常」が割り込んでくるなんて、
誰が予想できただろうか。
「……ふふ、愚かな人間よ。貴様の前に現れしは、漆黒の堕天使――リリス・ナイトメア・オブリビオン!」
振り返ると、アパートの階段に腰かけていたのは
――どう見ても近所のおばさんだった。
いや、正確に言うと
『ちょっとぽっちゃりした、部屋着姿の、食っちゃ寝感あふれるおばさん』だ。
だが胸元だけはやたらと主張が激しく、視線のやり場に困る。
そしてその口から飛び出すのは、やたら長い中二病ワード。
「……えっと、どちら様ですか?」
「名を問うか。ならば答えよう。我が真名はリリス・ナイトメア・オブリビオン。闇に堕ちし翼を持ち、世界を滅ぼす宿命を背負いし者……」
言葉の途中で、彼女はポテチの袋を開けた。
バリッという音とともに、堕天使の威厳は粉々に砕け散る。
「……ただのおばさんじゃないですか」
「おばさんではない!漆黒の堕天使だ!」
そう言いながら、ソファ代わりの階段にごろりと寝転がる。
その姿はどう見ても「昼下がりにだらける主婦」でしかない。
だが胸元の迫力と、妙に艶っぽい笑みが、俺の心をざわつかせる。
「……なぜ俺に話しかけてきたんです?」
「貴様の魂が呼んだからだ。選ばれし勇者よ」
「いや、俺ただのフリーターなんですけど」
「勇者とは、己が勇者と気づかぬ者のことだ」
ドヤ顔でポテチを頬張る堕天使。
その横顔に、俺は思わずツッコミを入れたくなる。
「……勇者を選ぶなら、せめてジャージ姿でポテチ食べながらにしないでください」
「ふふ、これは我の仮の姿よ。人間界に溶け込むための擬態だ」
「擬態が完璧すぎる!」
俺の声がアパートの廊下に響く。
だが彼女はまったく動じない。むしろ胸を張って(物理的にも張り出して)笑う。
「だが、貴様はもう気づいているはずだ。我の存在に、心がざわめいていることを」
「……まあ、ざわめいてはいますけど」
正直に言えば、彼女の巨乳が視界に入るたび、心臓が無駄にドキドキする。
だがそれを認めるのは癪だ。
「……俺は信じませんよ。堕天使だなんて」
「ならば証を見せよう」
そう言って彼女は立ち上がり、両手を広げた。 ――が、次の瞬間。
「……あ、腰が……」
ピキッと音がした気がした。
彼女はそのまま階段に座り込み、呻き声を上げる。
「……大丈夫ですか?」
「ふ、ふふ……これもまた、漆黒の試練……」
「ただの腰痛じゃないですか!」
俺は慌てて弁当を置き、彼女を支える。
その瞬間、柔らかい感触が腕に押し当てられ、俺の心臓はさらに跳ね上がった。
「……な、なんでこんな状況でドキドキしなきゃならないんだ」
「ふふ……それが、堕天使の呪いよ」
彼女は勝ち誇ったように笑う。
腰を押さえながら、ポテチを再び口に運ぶその姿は
――どう見てもただの食っちゃ寝おばさん。
だが俺の胸中は、
確かに揺さぶられてしまったのだ。
――笑う彼女の胸も、確かに揺れてはいたが多分それは関係ない。
いや、あるかも。
自称「漆黒の堕天使」が、ちょっとエロい 茶電子素 @unitarte
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