第33話:選べ、お前は神だ
あ、そうそう。大事な事を忘れていたよ。君はウォルフ・スランジバックというキャラクターを中心にしてこの物語を読んでいるなら、ボクの存在は所謂『ご都合主義的なお助けキャラクター』に見えるだろうね。運命と書いてご都合主義と読まれるのは、ボクとしてはとても心外で傷つくんだ。だからそれを君の大好きな必然に換えてあげるよ。
――ここから先は、君の意思による行為だ。
君が繊細な運命のタペストリーに機会の火種を落としたいのなら、このままこの物語を読み進めるといい。そうすればボクは彼にこれを渡そう。
これこそは因果を書き換える鍵であり、彼をウィラードの前に再び立たせる物。同時に破滅をもたらす、彼が手にする“一つの指輪”さ。もしボクを飽くまでご都合主義の怪物であり、不要な機械仕掛けの神と思うのなら……今すぐこの物語を読むのを止めれば良い。そうすればボクは彼に何も与えず、君の望む通りの運命は循環し、ウォルフ・スランジバックは誰にも――君にすら看取られぬまま死ぬだろう。これを読むのを止めた後は口直しに何か別なのを読めば良い。
チャンスを与えるのはこの時だけはボクの意思じゃない。ボクはホルスターの中の銃さ。ボクを使い、彼に栄光と破滅を与えるのは他ならぬ君の意思だ。
君もこのままじゃつまらないだろう? ハーバード大学教授の認知心理学者、スティーブン・ピンカーは人間が何故物語を求めるかという質問にこう答えた。『物語は、いつか私たちが直面するかもしれない人生の難問や、そのときにとれる戦略の結果をとりそろえた心のカタログを提供してくれる』とね。
そう、諦める事なら君にもできる。だが、君が見たいのはこの後ウォルフはどうやって自らの苦悩と目の前の問題に答えを出すかだ。このキャラクターがどうなるかを見たくはないかい?
プレゼンはもう十分過ぎる程した。選べよ、我等がデウス・エクス・マキーナ。
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