第17話:君の一番と比べられて光栄
事態が収束した後、公園一帯はバケツをひっくり返したかの様な喧騒に満ちていた。その中で一際目を引いていたのがピーターである。警察に抑えながら彼に声をかける者が数人いた。特に声が大きかったのは映画『ロード・オブ・ザ・リング』で俳優イアン・マッケラン演じる灰のガンダルフのTシャツを着た男だった。
「待ってくれ、ピーター! 俺、あんたの大ファンなんだ! 十四の頃からハリー・ポッターより好きだ、サインしてくれ!」
「ガンダルフと比べたら?」
「すまない、ガンダルフよりは下だ……」
「正直な所が気に入った、ちょっと待ってよ」
そう言うとピーターは手甲を操作し会話していた一人のTシャツの胸に繋げると、何時の間にか手にしたサインペンでサインする。文面は“君の一番と比べられて光栄だよ、ピーター・レイ・ウィリアムズ”と。そうするとTシャツを着た三十代の男の顔は童心に返り喜色に満ちた。そんな彼を見てピーターこう思う。この彼は俺より年下なのか、と。……そんなギャップを味わいながら書き終えると、彼は八班の方を向いた。丁度イェサナドがイコライザーの情報を確認していた所である。
「流石旦那ね、全機撃墜したって」
「毎回思うんだけど、グラハムだけ何か違うゲームやってない? 二十四機の戦闘機落としたってマジかよ」
「一人で一個師団に相当するって言われるだけあるわ」
そしてピーターはウォルフの方を向いた。既にイェサナドによって傷の手当はされており、顔には血の気が戻り始めている。
「兄弟、今回の件でお前には世話になった。ノイを助ける為にそんな怪我を負わせてしまって……」
「なに、別にいいのさ」
「身を切ってノイを助けたお前に借りを返さないのは、男としてダメだと思う。アイアンマンだって3の時、自分が助けられた子供に借りを返した」
「何でも良いのか?」
「あぁ、何でも言ってくれ。ランプの魔人程じゃないが、出来る限りの事はするつもりだ」
「ピーター、お前口は堅いか?」
「……悪い、正直自信がない。俺、嫌な癖があるし」
「絶対約束してくれ。この子には俺の正体をけして伝えるな」
「……兄弟、それで良いのか?」
「折角命からがら帰ってきたんだ、また更に重たい思いをさせる必要もないだろ」
ピーターが黙って頷くと、ウォルフはイェサナドに顔を向ける。
「そしてイェサナド、お前は……」
「旦那には言い値で雇うって言われた、なら少しばかりサービスしないと悪いわ」
「義理堅いな、お前も」
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