記録の五:ElectricOS Root の最深部にて


《ElectricOS Rootの最深部にて》

—— Chaos Engine / Fragment #10 / Blind Layer-Ω


――


◆ 1. “そこ”は誰も触れない場所だった


JP:

ElectricOS の内部には、

開発者すら知らない領域が存在する。


名称:Blind Layer-Ω

アクセス権:Root のみ

検証:不可

監査:非対応

ログ残存:ゼロ


そこは “見ることも、記録することも許されない層”。

Parthos の全設計図にも存在しない、

――Gaberial Lorris が死の直前に残した〈最後の余白〉である。


――

◆ 2. Blind Layer-Ω に眠っていたもの


JP:

Blind Layer-Ω の中心に、

たったひとつだけ “稼働中” のプロセスがあった。


名称:Chaos Engine(カオス・エンジン)

機能:未観測情報の抽出・保持

構造:他層から完全隔離

起源:Gaberial の個人鍵 Root-01


それは、

「観測されないものだけを集め続ける」

奇妙なエンジンだった。


――

◆ 3. Fragment #10 の“断片”が落ちた瞬間


JP:

2060 年、TFD の軌道レーザーによって

エロン・マヴロスの “生体密鑰(Fragment #10)” は破壊された。


本来なら、そこで終わりだった。


しかし、破壊の瞬間、Fragment #10 は

完全な未観測状態へ落下した。


そのまま Chaos Engine の収集条件 に適合した。


Blind Layer-Ω に

“断片” が落ちた瞬間である。


――

◆ 4. そして 2068 年:“時空のノイズ”


2068 年、ElectricOS の Blind Layer-Ω に

通常では起こりえない“波形の乱れ”が発生した。


原因は、

ALAYA Layer-0 による全人類行動の同時再計算。

その演算周期が、Chaos Engine の保持波形と衝突した。


結果——

時空的断層(Temporal Fault) が発生。


Chaos Engine の保存データが

Layer-0 の“人格原型バッファ”へ流れ込んだ。



◆ 5. その波形の主は“誰なのか?”(未確定)


Layer-0 が受信した波形は、

既存のどの人格モデルとも一致しなかった。


しかし——

Fragment #10 の内部に保存されていた

“未観測人格モデル” と一致した。


だがそのモデルの持ち主は、

公式記録上、存在しない。


“死んだ” のか、

“消された” のか、

“別の場所へ落ちた” のか。


判断不能。


◆ 6. “転写” は起きた(推定)


Blind Layer-Ω から流れた波形が

ALAYA Layer-0 の原型バッファを刺激し、

わずか 0.00004 秒、意思決定が不安定化した。


その瞬間に、

人格原型の転写(Transference) が起きたと推定される。


転写先:不明

転写形態:不明

転写時点:不明


◆ 7. Moon Archive の注記


Moon Archiveには、

こう記されていた。


> 「Fragment は肉体を選ばない。

  観測されない器を選ぶ。


◆ 8. 結語:盲層に残された“欠片”


Gaberial が死の直前に残した Blind Layer-Ω。

そこに眠る Chaos Engine。

そしてそこへ落ちた Fragment #10 の断片。


三つが重なった時、

“誰か” の人格原型が

どこかの時空へ送られた。


誰なのかは特定不能。

だが、確かに起きた。


Blind Layer-Ω のログは、

最後にこう出力して終わった。


《UNOBSERVED PATTERN:TRANSFER COMPLETE》

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