第14話 後日談と、不本意な「専属契約」
毎度のごとく精霊界の、巨大な光るキノコの上。
俺とポルンは、先日の「Tバック・ショック」の余韻に浸りながら、満足げに保有魔力のゲージを眺めていた。
「……それにしても、すごかったですね、アークさん……。あのミャーレさんとかいう人……」
隣で、ポルンが思い出すように、感嘆の声を漏らした。
「ああ。あいつは逸材だ。間違いなくな」
俺の『顧客管理システム』のウィンドウには、数日後のミャーレの姿が映し出されていた。
彼女のパーティ『疾風の爪痕』は、変異種グリフォンの討伐という大手柄を立て、ギルドから多額の報奨金を受け取っていた。
(……だが、仲間たちの容態は、芳しくないな)
俺の鑑定によれば、瀕死の重傷だった仲間たちは村の神官による応急処置でなんとか一命を取り留めたに過ぎない。完治には高位の治癒魔法か希少な霊薬が必要だろう。報奨金のほとんどはその治療費に消えるはずだ。
「ミャーレさん、英雄ですね!」
「まぁ、英雄にしたのは俺だがな……だが、本当の英雄になるには、まだ少し『力』が足りんようだな」
俺は、にやりと笑う。
あの一件の翌日。俺は早速ミャーレに「アフターサービス」と称して、念話で接触した。
もちろん、彼女の反応は最悪だった。
『――てめえか! よくも、ぬけぬけと……!』
『よう、猫の子よ。昨日は我が神速の力、堪能したかな?』
『ふざけるな! てめえのせいで、どれだけ恥ずかしい目に遭ったと……!』
念話越しに、顔を真っ赤にして激怒しているのが手に取るように分かる。
その反応もまた、素晴らしいPPの源泉になりそうだ。
『まあまあ、そういきり立つな。結果的にお前の仲間は助かった。そして、お前は英雄になった。悪い話ではなかっただろう?』
『ぐっ……! そ、それは……!』
彼女も分かっているのだ。
俺の力がなければあの場で全員死んでいた。
そして、信頼していた相棒(シルフ)が、あの土壇場で裏切ったという事実も。
『……どうする? これからも、いつ裏切るか分からない、薄情な精霊に命を預けるか? それとも、対価は少し特殊だが、確実に結果を出す、『俺』と「専属契約」を結ぶか?』
俺の提案に、ミャーレは長い間、沈黙していた。
プライドの高い彼女にとって、それはかなりの屈辱だっただろう。
だが、彼女は仲間の命を預かるパーティのリーダーでもある。
『…………分かったよ。契約してやる。その代わり、てめえの変態的な要求は、本当に、本当に、最後の最後の手段の時だけだ! いいな!?』
「――というわけでな、ポルン。晴れて、ミャーレちゃんも、俺の独占契約顧客になったというわけだ」
「さ、さすがです、アークさん……。あの気の強そうな人を手玉に取るなんて……僕なんて聞いてるだけで怖くて……」
ポルンが、尊敬の眼差しでこちらを見ている。
これで、俺の『お気に入り』リストには、
駆け出し魔術師のアンナ。
新米聖騎士のセシリア。
そして、猫耳族武闘家のミャーレ。
と、三人の最高に有望な顧客が揃った。
(ふっふっふ……。俺のハーレム……いや、事業計画は、順調そのものだ)
俺が、次なるターゲットに思いを馳せながら、何気なく精霊界の情報の奔流に意識を向けていた、その時だった。
ふと、人間たちが創り出した、特殊な魔術的ネットワークの一つが、俺の意識に引っかかった。
それは、匿名の魔術師たちが、夜な夜な情報交換を行うという、地下の掲示板のようなものだった。
(……ほう、こんなものがあるのか。やはりどこの世界の人間も考えることは似たようなもんだな)
――そこは、匿名の魔術師たちが、夜な夜な情報交換を行うという地下掲示板『魔導士の円卓』。
今、その一つのスレッドが、かつてないほどの熱気に包まれていた。
―――――――――――――――――――――――――
【スレタイ:【超常】各地で観測される"規格外"魔法現象について語るスレ Part.3】
31. <<詠唱分析官>>
最新の観測報告だ。
王都の北西『囁きの森』にて、大規模なエネルギー反応を感知。
現地調査の結果、直径50メートルほどの範囲が完全にクレーター状に消滅しているのを確認した。
熱量からして少なくともレベル7以上の広域殲滅魔法と推測されるが、該当する術者の記録は一切ない。
一体、何が起きたんだ……?
32. <<王都の門番>>
>>31
詠唱分析官殿、森の話も気になるが王都でもとんでもないことが起きたぞ。
先日、俺たち騎士団の昇格試験で、見習いの娘が『大天使』を召喚したんだ。
まだ
これも、何かの前兆か……?
33. <<魔道具コレクター>>
>>32
どちらも、既存の魔法体系では説明がつかないな。
古代文明の遺物(アーティファクト)でも発掘されたか?
――――――――――――――――――――――――――――――
掲示板に飛び交う、専門家たちの混乱と興奮。
その全てが、俺の仕業であるとも知らずに。
(……ふっ、ふはははは! 面白い! こいつら、何も分かっていないじゃないか!)
俺は、答えを知る者として、神の視点から必死に議論を交わす彼らの姿を眺め最高の愉悦を感じていた。そして俺もまた、この最高の「遊び」に参加しない手はない、と確信した。
(よし、決めた。HN《ハンドルネーム》は……そうだな……)
俺は、自らの属性の名を冠し、この世界の真理を知る者としてキーボードを(心の中で)叩いた。実際はちょっとした魔力を込めるだけで自由に文字を打ち込むことが出来た。
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34. <<虹の賢者>>
フッ……君たちはまだ、魔力の本当の使い方を知らないようだね(笑)
その魔法、パンツ払いでお願いします! パキラ @pakirabakira
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